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勝ち気な彼女 

作者: 渡部潤一

「ねぇ、お味噌汁にボルトが入ってないわよ」

彼女はそう言い捨て、その味噌汁を一切口にしなかった。

一見、ニューロマンサーの表紙のコラージュのような顔立ちで、

しかしよく見てみると規則性が見て取れる彼女、東亜は眉をしかめて大層不機嫌だ。

彼女は曇天模様に燃えさかる青白い炎のように勝ち気で、負けず嫌いである。

しかしムスッ面の彼女もまた可愛らしい。

「アァ、スミマセン。ツギカラチャントイレマス」


翌日の昼過ぎ、どうやら機嫌は直ったようだ。

「ねぇ、散歩に出かけましょうよ。行ってみたいところがあるの」

その言葉が耳に入った時点で既に彼女は真鍮製の多脚型ハイヒールを履いて仁王立ちしていた。いつもの光景に戻ったと安堵してわたしは早々と支度を済ませ、彼女の手を取り玄関を後にした。

「キョウハドコニイクノデスカ」

「駅前の喫茶店よ。雑誌で評判なの」

「オチャ、ヨロシュウゴザイマスナ」

足取り、いやキャタピラ取りは速く、東亜は黒煙を吹き出しながら通りを歩く。

店の前に到着し、アタッチメントを装着して階段をゲキョゲキョと昇る様は見事でいつも見入ってしまう。

「あたしクリームソーダ。こっちはエスプレッソね」

「ア、ダブルデオネガイシマス」

「YES , SIR」

店員は威勢よくオーダーを取り、ファナック製マシニングセンタの店主に注文を通す。


店の中にはわたし達の他にはPALL MALLを咥え、読書に耽っている黒縁セルフレームの30代男性、ランブルスコロザートとドリアを奪い合い、駄洒落を声高らかに披露している3人組、奥にはニューヨークタイムズを読んでいる青い目の老紳士。


「THIS ONE」

店員はやはり威勢よく注文した品を運んできた。

「うん、やっぱりここのクリームソーダはおいしいわ。飲んでみてよ、ほんとうにおいしいから。」

少し気恥ずかしいような、これぞデートといった風体で周りに自慢するように飲んでみた。

「オイシイオイシイ、アイストケテル」

ビビッドな黄緑色の液体に表面を焦がしてあるバニラアイス、真紅の蔵王錦。

子供の頃に飲んだあの気分を思い出し、そして分散型並列演算処理のデータベースで暮らす母を思った。

「でね、店員に勧められた新作のコートが素敵だったの。少し高いけど食費を削れば買えるわよ。ねぇ」

「キットニアウンデショウナァ。デハセツヤクシマショウ」

「今度クッキーを作ろうと思うの。オーブンの使い方、教えてよね」

「キットオイシインデショウナァ」

「・・で、友だちが合コンで盛り上がっちゃってアレがコレで◯☓△」

「サヨウザンスカ、 サヨウザンスカ」

とりとめのない話を2時間ほどしたのだろうか。

東亜は話し始めたら止まらない。わたしは相槌を打つぐらいが丁度いいらしい。

一通り話が終わると残りを飲み干し、ブシューと黒煙を吹く。


東亜は眼をキラキラさせながら

「来週さ、ロトチェンコの展示があるの。観にいくわよね」

「ナニ、ロシア構成主義だと。貴様らアカなのか」

黒縁セルフレームが急に振り向き反応した。

「なによ、なにがいけないのよ」

「共産圏、万歳」

セルフレームはそう言い残し、くわえタバコで読書の続きを始めた。

「共産、さんきょう、この番組は三共胃腸薬の提供でワッハハハ。すみませんブルスコもう1本」

「あぁロシア行きたいなぁアエロフロート乗りたいなぁ」

「イキマショウ、ロシアロシア」

店員がなにやら怪訝な表情でわたし達を見ている。「Ah , Oh....」

「でね、1991年・・」

言うか言わないかその瞬間、奥に座っていた青い目の老紳士が流暢な日本語で立ち上がった。

「さっきから聞いていりゃぁ好き勝手な事言いやがって。だいたい我が国は」

「アッ、アメリカノダイトウリョウダ」

間が悪くテレビのニュースで「トピックスです。ロシアが新型ロケットを開発し・・」

大統領は言葉とも取れぬ奇声を上げて鼻息荒く

「なんだべ先を越されただ。アイヤヨーなんだべ。長官はナニしてるべか」

「大統領だからって大声出さないでよね。その東北弁なんなの」黒煙ブシュー。

「すみませんブルスコもう1・・」

「ハイハイ負け負け。オラの代になってから負けてばっかりアァあ~。ワハハ勇敢な聴衆たちよ、腹いせに資本主義が春分の日に24ビットのチワワを散歩させ、あずきバーは我が国の基本武装。バチカンに伝書鳩を飛ばしてそれでもアノ子が想いを解析できぬのなら、このブラックボックスでヘッへへへへへ」

「ア、クルッタ」

TVCM「このたび、桃屋から発売になった重油入りごはんですよ。とってもおいしいなっ」

チリーンとドアが鳴り、白熊がおもむろに入ってきた。

大統領になついているらしくウオーンと鳴いて飛びかかった。

黒いボタンがカチッと鳴り、みんなが一斉に


「あ」

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