■ 中 編
『転びすぎて、体イタイ・・・。』
ハヤトがしょぼくれて呟く。
ミノリも笑い疲れていたため、もうスケートリンクから上がり中で休憩する
ことにした。
休憩所のベンチに座ると、軽食コーナーが目に入る。
ふたりとも屋外リンクですっかり体が冷えきってしまっていた。
ベンチに座り背中を丸めて腰をさするハヤトを残し、ミノリが立ち上がる。
『軽食コーナーあるから、なんかあったかいもの買ってくるね。』
その声に、ハヤトが尻ポケットから財布を取り出すとふわっとアンダースローで
ミノリへ放った。
『別に、いいのに・・・』 というミノリにハヤトは微笑んで首を横に振った。
簡易の軽食コーナーには、数種類の食べ物があるだけだった。
少し悩みつつその中から、肉まんとあんまんを1つずつ買う。
紙に包まれた湯気がたつそれをまずハヤトの元へ駆けて行きふたつとも渡した。
そしてすぐさま自販機へと駆け、コインを投入するとホットのペットボトルの
お茶を選びボタンを押す。
しゃがんで少し体を傾げ取出し口からボトルを出すと、少し熱いそれをコートの
袖を伸ばして掴んだ。
もう1本・・・
そう思って自販機に目を向けると、下段右端に ”ホット缶しるこ ”の文字が。
思わず振り返ってハヤトを見ると、いまだしかめっ面で腰をさすっている。
ククク。と笑い、ミノリはそのホット缶のボタンを押した。
ベンチに並んで座り、ミノリが右手に肉まん。左手にあんまんを持つ。
『どっちがいい?』小首を傾げ訊くと、真剣に悩んでいる表情を向けるハヤト。
これが家ならば間違いなくあんまんを取るところだが、今は外で人の目がある。
ちょっと恥ずかしいというのがハヤトの本音だった。
肉まんでいいかとも思うが、でも・・・ 疲れた体には、やはり糖分が・・・。
あまりに真剣に長いこと考えているので、ミノリが呆れて笑いだした。
『はい。あんまん。 ってゆうか、はんぶんずつ、食べよ?』
ハヤトがあまりに嬉しそうに子供のようなキラキラした目を向けるものだから、
またミノリは大笑いした。
はんぶんこして並んで食べる、肉まんとあんまん。
なんてことない物なはずなのに、ふたりだと美味しい。
安っぽい軽食コーナーの冷凍モノなのに、ふたりだと嬉しい。
ハヤトがホットのお茶のキャップを開け、『ん?』 とミノリに差し出す。
そろそろお茶が飲みたいと思ったタイミングの、それ。
(・・・以心伝心、ってやつかな・・・。)
ミノリが嬉しそうにペットボトルに口を付けた。
ハヤトもそれに続きお茶を飲もうとしたのを、ミノリが笑って制止する。
そして、コートのポケットに手を突っ込み、缶を取り出した。
『はい。 スケートがんばったご褒美!』
そう言ってこっそり見せたのは ”ホット缶しるこ ”
両手で缶のラベルが見えないように、周りに見えないように隠し気味に。
パチパチとせわしなく瞬きをし、”今日イチ ”嬉しそうな顔をしたハヤト。
ケラケラ可笑しそうに笑うミノリから缶しるこを受け取ると、美味しそうにその
甘ったるい液体をグビグビ飲んでゆく。
『わたしにも。 ひとくち、ちょーだい。』
そう言って笑いながら缶の飲み口に口を付けると、なんだかやたらと愉しそうに
『間接キスしちゃった~』 と、ミノリが顔を綻ばせる。
『別に・・・ 間接じゃないのだって、してるじゃん・・・。』
急にハヤトに照れくさそうに言われて、ミノリまで急激に恥ずかしくなった。
ふたり、ベンチに並んで座り、揃って俯く。
隣に座るハヤトの太ももに、ミノリが軽くグーパンチをお見舞いした。