5 魔力
「え?」
声を出したのはイズモ。クルトさんは目を閉じて静かにしている。
「俺が神だから、俺といればいい。俺が認めれば巫女になるんだから」
つまりは俺と一緒にいて、同じことをしていこうということ。
「私が巫女になるにはそれが一番いいのね?」
「ああ、俺は昨日生まれた神だ。そんな新神と共に成長し、助け合い、共に生きていくことで俺を知る。共に世界を巡ることで仕える神がどんな世界を守っているのかを知る。そして何よりも自分を知る。これらが俺の考える、巫女に必要なことだ」
本当はそんなことどうでもよくて一緒に強くなってくれたら安心して旅ができるかなと思っただけなんだけど。でもこれも嘘ではない。この3つを知らない人は神に仕える価値なんぞないと思うからね。
「・・・分かったわ。私も明日からはシンク・・・様?と共に修行することにします」
「はは、話し方はこれまで通りでいい。さっきも言ったけど俺は昨日生まれたばかりの新神でさ。その前は一般的な村人だったんだ。畏まられるのは好まない」
「分かった。じゃあ改めて、これからよろしくね、シンク」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ、イズモ」
イズモの差し出された手を握り返す。その手は柔らかくて温かく、愛しく感じた。
次の日の朝から修行は三人で行った。イズモはすでに〈直感〉や察知系のスキルを持っていたので今日は〈魔力操作〉の修行だ。
〈魔力操作〉を習得するには〈魔力察知〉が必要だと言う。それもそうか、魔力が見えないのに操作とかできないよね。
「まずは〈魔力察知〉で自分の中の魔力の流れを見てみろ」
俺とイズモは並んで座り、クルトさんの話を聞く。
「見えたか?」
「ええ、呼吸と同じですね。薄い魔力を外から吸い込み、肺の辺りで少し濃くなります。そのあとに心臓でさらに濃くされたあと血管を通して全身を巡ります。一回りして戻った後は心臓で少し薄められ、肺でさらに薄くなって最初に吸ったものと同じくらいの濃度になった後に口から吐き出されます」
「ああ、大体その通りだ。因みに、吸い込む前、吐き出した後の濃度の薄い魔力を魔素という。これにも2種類あって吸い込む前の魔素を可変魔素、吐き出した後の魔素を不変魔素。魔力へと変換できるのは可変魔素。これは森や山などの緑の多い場所に大量にある。人間の多い場所では魔道具に使われるものも含めて不変魔素のほうが多い。なぜ緑の多い場所に可変魔素が多いかということだが、草木が不変魔素を吸い込み、可変魔素にして吐き出していると言われている」
呼吸に関する酸素と二酸化炭素の関係に似ているな。性質が似ているだけで全く別のものとして知覚できる以上同じものとして扱ってはいけないんだけど。
「同時に人間は体内で魔素を生み出し、魔力に変換できる能力を多かれ少なかれ持っている。この能力の高さが魔力量だ」
でた、ファンタジーにありがちな謎能力。都合がいいのは確かだがイストには本当にあるらしい。俺はどうだろう?
「その人体内部で魔素を生み出す能力を持つ器官は心臓の一部に同化している魔石と呼ばれるものだ。これは人間に限らず魔物や魔獣も持っている。シンクはまだ見たことがないだろうが魔物や魔獣は倒すと鱗や皮、角や爪といったその個体の特徴的な部位と魔石、あとは極偶にだが何かしらのアイテムを落としてその肉体は霧散する。魔石は魔道具の材料になってかなり貴重だから高く売れる」
またまた出ましたファンタジー。魔獣や魔物は消える設定。親切だけど不思議。それにたまに消えない魔物や魔獣もいるらしい。人間も消えないらしい。ここがさらにファンタジー。
「話がそれたな。〈魔力察知〉で感知した自分の魔力を流れに逆らってどこか一か所にとどめるように意識しろ。それができれば次は集めた場所から体外に放出、思い通りに動かせるようになったら〈魔力操作〉を習得できるはずだ」
確かに、今は〈魔力操作〉の修行中。細かいことは今度教えてもらおう。
「さて、では早速始めよう」