4 旅は道連れ
その後も順調にレベルが上がり、ノルマとされた〈魔力察知〉〈気配察知〉〈熱源察知〉の3つも覚えた。
この時分かったんだが、レベルが上がると同時にスキルを獲得できるみたいだ。その数はレベルが1上がる毎にスキル1つ、という訳ではないらしい。現に今はレベル4だが1の時から4つ習得したからな。
「今日はここまでにしよう」
月が上り、空が赤くなるころ、ようやく今日の稽古が終わった。いや、稽古っていうより修行かな。
洞窟に戻るとイズモも戻っていて料理ができた後だった。
「おかえりなさい。ご飯ができているわ」
「ありがとう」
今日の献立は木の葉のサラダ、御浸し、薬草粥、リンゴ。昨日も似たようなものだったがたんぱく質が足りてないと思うんだよね。聞いてみたら、
「川は近くにあるけど魚がいないし、この辺の魔獣ってあまり美味しくないのよね。だからってわけじゃないけどあまり食べないわね」
ってことだった。まだ魔獣は見てないけど魚もいないのかぁ。
「いるにはいるのよ?ただあれを食べようとは思わないわ」
気になる言い方だな。明日クルトさんに頼んで連れて行ってもらおうか。
それはそうと、
「気になってたんだけど、イズモも修行してるんだよな?何してるんだ?」
「あら、気になるの?」
「そりゃ気になるよ。巫女になるためにやってるって聞いたけど一人で何してるんだと思ってね。舞いをするにしても他の人がいたほうが良くないか?」
昨日聞いた時は主に舞いをしているとイズモは答えた。だから気になったんだよね、どうして一人なのかってさ。
「初めに見せるのが私の認識する神だと決まっているからよ。その時の出来次第で巫女になれるかどうかが決まるの」
初めては神前で、か・・・この世界は母さんが作って俺以外に眷属がいないらしいから母さんに見せてたのかな? でもそれはないか。常に見てるわけでもないだろうし。
「でも神の姿を見た人は歴代の巫女見習いにもいなくてね、誰も巫女になったことはないらしいわ」
「なんだそら」
じゃあどうやってそんな風習ができたんだろう。ってそうか、イズモが言ったじゃないか。『私が認識する神』って。
「昔は恋人とか当時の勇者とかに見せたのかな?」
「そうみたいね。でも職業は巫女見習いのままだったっていう話よ。つまりは世界に認められていないということ。私は世界に認められたい。巫女になりたい」
そう語るイズモの眼には強い意志が宿っていた。それは純粋な向上心と好奇心。
「史上初の本物の巫女。私がそれになって見せる。絶対に。たとえ何年経ったとしても」
その先に何があるか分からない。だがそれでいい。
動機はなくてもなりたいからなる。理由なんて後付けでいい。
イズモはそう語る。子供のように純粋なその思い。
「イズモはこのままだといつまでも巫女になれない」
それを受けた俺は思わずこう言った。言ってしまった。
「・・・どうして?」
イズモは驚き、怒り、悲しみを込めた目でこちらを見つめてきた。クルトさんは何も言わない。俺がこれを言った理由にも察しがついているんだろう。思わず言ってしまったがこれを利用しよう。
「言ってほしいのか?」
意地悪な問いだと俺も思う。これまで一生懸命に修業してきたものを否定してほしいのかと聞いているも同然だからだ。
「・・・」
俺たちはまだ出会って2日目。そんな相手に自分の積み重ねたものを否定される。俺だったら「お前に何が分かる!」とか言って怒鳴ってるね。でもイズモは頷いた。言ってほしいと俺に示してきた。
「お前が巫女になれない理由は1つだ。巫女はなろうとしてなるものじゃない。神に認めてもらうために舞いを奉納するんじゃない。巫女となり神に認められたから舞いを奉納するんだ。舞いの修行をするのはいい。でも、巫女になりたいなら他も疎かにするな。巫女は舞うだけじゃない」
それはそうだろう。巫女とは神に仕える者。西洋で言うと神官にあたる。神官が聖書ばかり読んでいるか?そんなことはない。祈りの言葉を捧げ続けるか?それもない。だからという訳でもないが神が舞いだけで巫女を決めることなどあるわけがない。というか俺は決めない。
「じゃあ、どうすればいいの?」
当然の質問だ。だから用意していた答えを示す。
「巫女として世界に認められたいんだろ?ならまずは世界を知らないとな」
それは間接的に一緒に旅しようぜと言ったつもりだったんだがイズモは分からなかったみたいだ。
「世界を知るには、どこで何をどうすればいいの?」
その質問に俺はちらっとクルトさんを見る。やはり分かっていたみたいで頷いてくれた。
「俺の故郷にはこんな言葉がある。『彼を知り己を知れば百戦して危うからず』ざっくりいうと相手や自分を知れば物事は有利に進むってことなんだが、イズモの場合に当てはめると世界を見て回ることで知識を増やし、己を顧みれば巫女になる道があるかもしれないってことだ。つまりは、あ~、うん、俺の修行が終わったら一緒に旅に出よう」
美少女を旅に誘うのって結構恥ずかしいな。言葉が詰まっちゃったじゃんか。
「え・・・?」
ほら見ろ。イズモもポカンとしてる。でもさっきまであった怒りはなくなっているみたいだ。
「だから、一緒に旅をしよう。世界を見て回ろう」
「・・・」
イズモはじっと俺を見つめる。俺も恥ずかしいが目は反らさずにイズモを見つめる。
「・・・シンクがそう言うなら、私はあなたと旅をするわ」
やがて絞り出すようにイズモは言ってくれた。よかった。
「ありがとう、シンク」
クルトさんにもお礼を言われた。話していた通りになってよかったですよ。
今日の修行が終わった後、俺とクルトさんはイズモのことで話していた。
「シンク、イズモが巫女を目指していることは知っていると思うが、このままでは巫女になれないとわしは思うのだよ」
「? なぜです?」
「過去に巫女になろうとした者たちが残した文章があってな。長である私はそれを読むことができた。そこに書いてあったのだがな。皆が皆、自由に外を歩けなくなって退屈だったと。部屋に押し込まれることが多かったと」
話が読めてきた。
「俺にイズモを連れ出してほしいと?」
「ああ、その通りだ。会ったばかりの人間に頼むのもおかしいとは思うがわしは思うのだ。シンクと共にあればイズモは巫女になれるのではと」
「まあ旅に同行者は欲しいと思っていたんですけどね。イズモであれば文句はないです」
「では頼む。いつかシンクがここを離れると決めた時まででいい。その間にイズモを説得してくれ」
「分かりました」
「そうだ、その際に結んでおく便利な――――――
ってな感じで。だからという訳ではないが安堵したよ。
「ではわしはシンクが満足するまで修行に付き合ってやるとしよう」
「ええ、お願いします。俺も世界を知るために準備しておきたいですしね」
もちろん準備とはステータスの強化だ。
「イズモ、これからは舞いの修行はなしでいい。折角だ、一緒に修行しよう」
「どうして?」
どうしてだって? そんなの決まってる。
「ちょうどいいから二人に話しておくよ。クルトさんは気付いていたかもしれないけどね、俺は―――――
俺がイストの神だからさ」