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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
一章 イストへと降り立った神
21/22

18 シンク無双

「マジック『短距離転移』」



 地下へ向かう階段の途中、グレムリン伯爵本人だと思われる人物の前に転移した。



「・・・誰だ?」



 声をかけてきたのはやせ細った爺さん。服装は粗末なシャツとズボンだけ。頬はこけ覇気もない。伸びきった髭と髪が邪魔そうだ。少しずつでも食事を与えられているんだろう、排泄物の匂いがすごく臭い。それに加えて下からくる匂いもあるので一刻も早く立ち去りたい気分だ。



「シンク。あんた、グレムリン伯爵で間違いないか?」



 が、そうも言っていられない。この人にはやってもらわないといけないことがある。



「そうだ。おぬし、何者だ?」


「ただの旅人だよ。それより聞きたいことがある。デュオ・テイルドを知っているか?」



 デュオの名を聞いた瞬間、グレムリンとその横の青年の表情が怒りに染まった。



「あいつは現国王が即位して一月後に突如現れた得体のしれない奴だ。当時屋敷にいた全ての人間を拘束され男はこのように投獄、女は・・・この地下に」


「くそ!悔やんでも悔やみきれん!ソレアとエリアスも連れていかれた・・・!もうあれから五年だ。あいつらの心が無事なのか、俺はそれを知りたい・・・」



 鑑定眼で二人を見ると予想通り爺さんはグレムリン伯爵本人、青年はその息子だろう。ソレアとエリアスっていうのは知らないがおそらく伯爵夫人か娘だろう。

 俺に置き換えて考えみる。妻はいないし娘もいない。だがイズモや藍、蒼葉がそんな目に遭ったら・・・確実に怒り狂うな。



「・・・グレムリン卿、あなたはどうして生かされた?」


「おそらく人質だろう。自分で言うのもなんだが俺は領民に好かれていた。支持率も高かったしな。だから俺を捕らえて手元に置いておくことで領民の発起を抑えているんだろう」



 スレアさんの話からすれば領民は今のグレムリン伯爵に何も感じていないだろう。だから伯爵の予想は違うと思う。デュオがバカなら何か喋っていないかと思ったんだが、まあいい。



「そうか。もしあなたが再びこの地を治められるとするならばあなたはどうする?」


「それほどありがたいことはない。今の街の様子は知らないが俺の時よりいいことはないだろう。あんな馬鹿がこの地を治められているはずがない」



 伯爵は自分の統治に自信があるようだ。確かにクリントがラミエール王国第二の都市と呼ばれているらしいことを考えるとその自信も裏付けがあってのものだろう。



「分かった。今からあなたたちを牢屋から出す。外に俺の仲間がいるからそこで待っていてくれ。俺は地下へ行って女性たちを助けてくるから」


「待て、お主を信用できん。俺も連れていけ」


「そんな覇気のない状態でか?下には魔物がうじゃうじゃといるぞ。足手まといだ」



 ステータスを見ると分かるが大剣術と水属性魔法のスキルを持っているしレベルも56と割と高いことから以前はかなり鍛え抜かれた体型だったと思うのだが今は見る影もない。やせ細った手では大剣なんて持てないだろうしそもそも近くに大剣はない。よって足手まとい。邪魔。



「くっ、確かにそうだが・・・仕方ないか。分かった、おぬしに頼もう」


「それでいいんだ。エントランスにいるはずだから」



 絶無で錠を切り落とし牢を開ける。足に力が入らないのか三人は這って出てくる。手枷も断ち切り自由にしてやる。



「ここに来るまでに騎士はいない。安心していい。ソレアとエリアスって人も生きていたら連れていくから」


「感謝する」



 三人が階段を上り始めるのを見て俺は階段を下る。両端の蝋燭によって薄く照らされ不気味な雰囲気がある。下るにつれて匂いは強烈になっていく。


 最後まで降りると扉を見つけた。何やら厳重に閉ざされているが知ったことではない。



「『無限収納』。・・・お、あったあった。『盗賊の強手(ごうしゅ)』」



 盗賊の強手は鍵の形をした魔道具。一度だけあらゆる仕掛けを解除する効果がある。通わずの森にいた時にシーフ系の魔物を倒したら落とした。

 それにより扉に仕掛けられていたあれこれを解除する。



「この街に来てまだ一日もたってないのにどうしてこうなってるんだか・・・考えても仕方ないか」



 クリントに着いて早々教会へ行ったのがまずかったのか、いつ行っても変わらなかったのか。まあ放置するよりはいいだろうということにしておく。


 仕掛けのなくなった扉を開けるとこれまでとは比較にならないほどの匂いが鼻を衝く。そして中にはこれまた人によっては嫌悪感がすごいであろう行為が今も行われていた。

 その真ん中を通って一人の男が前に出てくる。デュオ・テイルドだ。



「ようこそ、若き旅人よ。あなたの訪問を熱烈に歓迎しよう!」


「いや、結構だ。やるべきことやったらさっさと帰るから」



 両手を広げてカツカツと歩み寄ってくる。そんな風に無防備さらして大丈夫なのか?・・・顔を見る限り漫画とかラノベによくあるプライドだけはやたらと高い貴族の坊ちゃんみたいなタイプだなこりゃ。それプラスユニークスキルを持っていることと『超回復』のおかげで実力があると勘違いしているように思えるな。

 まずやるべきことは魔物と女性たちを引き離すこと。



「マジック『アポーツ』」



 デュオやこちらを睨んでいる魔物をさっくり無視して女性たちを引き寄せる。



「マジック『浄化』『清浄』『完全回復』」



 体内の魔物を浄化し身体を清潔にさせ体力を回復させる。



「マジック『範囲転移(エリアワープ)』」



 マジック『範囲転移』。無属性魔法の一つ。その名の通り指定エリア内のモノを指定された座標に移すマジック。


 今回は手元に引き寄せた女性たちが入りきるほどの範囲を教会の大聖堂に送った。

 突然消えた女性たちに驚いているけど敵の目の前で隙を見せるなんてダメダメだな。



「吸えよ『絶無』奪えよ『花見月』」



 能力を開放する言霊と共に二本の刀を抜く、と同時、敵の中心へと疾走。



「刀術『居合・疾風刃』」



 刀術アーツ『居合・疾風刃』。熟練度は2。高速で移動中に放つ居合切り。



 直線状にいる敵を一太刀で切り伏せる。いや、二本だから二太刀?どっちでもいいか。俺の通った個所の左右にいた魔物が魔力となって霧散する。魔石だけを『アポーツ』で引き寄せ『無限収納』へと入れる。その間に魔物が襲ってくるが俺からすれば遅すぎるスピードなので余裕をもってかわし続ける。

 周囲360度囲まれるとさすがにまずいのでその前に脱出口を作る。



「刀術『円閃』」



 刀術アーツ『円閃』。熟練度は4。360度回転しながら敵を斬りつけるアーツ。



「刀術『乱桜』」



 『円閃』が終わると同時、前方に多数の斬撃を放つ。デュオはすぐ目の前だ。だが囲まれると面倒なので先に魔物を全て倒す。



「マジック『降雷』」



 マジック『降雷』。雷属性魔法の一つ。数メートル上空より雷を発生させ落とすマジック。建物内でも使用できるのが長所。



 連続で『降雷』を発動させる。次々に落ちる雷に為す術なく魔物がやられ魔力と魔石、皮や耳などへと変わる。百五十いた魔物は今や残りは三。いずれもオークで他のオークと違い、少しばかりだが鎧など付けているオークナイトと言う魔物だった。ただのオークは何もつけていない。

 その三匹がデュオの周りを固めている。



「やりますねぇ!どうやら認識を改める必要がありそうです」


「そんなことしなくてもお前はもう終わるよ」



 この街についてからまだ一日経ってない。宿とって教会を建て替えて今ここ。街の復興とかは考えなくてよさそうだからいいけど一日の出来事とは思えないほどに厄介ごとが舞い込んできた。まぁ最初から教会を占領されてたしそのあとは自分から首突っ込んでるから舞い込んできたってのは違うかもしれない。

 ただ昨日朝起きてから一睡もしていないのでそろそろ眠い。もう朝日が昇って三時間ほどたっているから大体27時間くらいは起きていることになる。俺は地球でも一晩中起きていたことなんてないのだからなおさら眠い。


 何が言いたいかっていうと、いい加減イライラしてきた。



「『超回復』を持っているだけで天狗になるのもいいがさっさと消えろ」



 魔刀『絶無』は斬りつけた相手の魔力を奪う。一太刀ごとに対象の五%くらいを奪う。『超回復』は致命傷レベルの怪我を自身の魔力の五%を使用して治す。つまりは致命傷を10回与えれば魔力が枯渇する。


 まずは周りのオークナイトから倒そうか。



「マジック『氷蒼の槍(アイスランス)』」



 マジック『氷蒼の槍』。氷属性魔法の一つ。氷の槍を作り出し相手に向かって射出するマジック。それを三つ、オークナイトの足元から上を向く形で創造、射出。突如足元に現れたそれらに対応できず三匹は魔力となり霧散する。



「一瞬ですか、やりますね。『断罪』よ、来たれ」



 デュオが唱えたのは言霊。武器を召喚しその能力を開放するもの。


 『断罪』。所有者が悪と認識している敵を攻撃する場合、その威力が倍になる、魔剣ならぬ魔鎌。


 黒のタキシード、裏地が赤のマント、長い牙、怪しく光る魔鎌。まさしく吸血鬼に相応しい姿。



「行きますよ!鎌術『罪の刃』!」



 鎌術アーツ『罪の刃』。熟練度は1。鎌を上段から振り下ろすアーツ。



 デュオのアーツを俺は正面から叩き潰す。



「刀術『一閃』」



 振り下ろされた鎌と俺の刀が交差する。結果、鎌が弾かれデュオは素手になる。



「ちぃっ、マジック『暗闇の槍』」



 至近距離からのマジック、だがそれを『絶無』で受ける。魔法は刀に吸収され刀身が修復される。こびりついた血や肉を弾き新品同様の切れ味と美しさに戻る。



「なんだと!体術『掌底波』!」



 体術アーツ『掌底波』。熟練度は1。掌を相手に叩きつけ、その衝撃で相手の体内を攻撃するアーツ。



「少しずつキャラが崩れてるぞ。刀術『空蝉』」



 刀術アーツ『空蝉』。熟練度は7。相手の気配、呼吸を読むことで攻撃を見切り合わせて斬りつけるアーツ。いわゆるカウンター技。


 『掌底波』を放ったデュオのがら空きの胴体を薙ぐ。致命傷一回。

 その傷はたちまち回復し、一秒後には傷が完全に塞がる。



「傍から見れば気持ち悪いな、そのスキル。次々行くぞ、刀術二刀流『一閃・連』」



 二刀を使って『一閃』を続けて放つ『一閃・連』。胸と腰を狙ったそれは狙い違わずデュオの内まで切り裂いた。がそれも一秒ほどで完全に治る。



「無駄、ムダ、むだ、無駄なんだよおおお!」



 体内の魔力量に焦ったのか体術アーツ『掌底波』と『正拳連打』を連続で繰り出してきた。



 体術アーツ『正拳連打』。熟練度は3。その名の通り正拳突きを連打するアーツ。



 それを俺は全て『空蝉』で躱す、斬る。時に頭、時に首、時に腕、時に腹、時に脚。狙った斬撃は外すことなくデュオの身体に吸い込まれる。そして一秒で再生する。致命傷が九回になった頃、デュオは意識を保つので精一杯な様子に見えた。



「はぁ、はぁ・・・はぁ、ぐっ!」


「どうした、疲れたか?まぁ疲れたって言っても待ってやらんけど」



 『絶無』と『超回復』で魔力を持っていかれ、『花見月』で血を多く失った状態であるから魔力が体内を循環しにくくなり同時に生命力を削られる。魔力が流れにくいから魔力運用の効率が悪くなり『超回復』に使う魔力が大幅に増える。よって『絶無』で与えた致命傷は五回、『花見月』が四回という今の状態でもここまでの疲労を見せる。



「手向けに受け取れ、刀術『奥義・抜山蓋世(ばつざんがいせい)』」



 刀術アーツ『奥義・抜山蓋世』。熟練度は10。山を斬り抜く力、大地を震わすほどの巨大な気力を以って行うアーツ。気力を刀に乗せ切り裂く。



 デュオは何もできず直撃を受けた。



「ガアアァァァ!!」



 右肩から左腰まで斬撃が通る。身体が斜めにずれ、下半身が前に上半身は後ろに倒れる。切断面からは血が噴き出し、血溜を形成した。

 それでも『超回復』は仕事をしようとしているようで血管が塞がれ、切断面は肉が盛り上がってきた。自分でやっといてなんだけど、気持ち悪くなってきた。



「お、俺を、こんな、風に、したら、ゴフッ・・・《ラグナロク》が、黙ってない、ぞ・・・」


「むしろ俺を狙うならそれでいい。この世界の膿を全て消し去らないといけないからな」


「くっ・・・地獄に、落ち、ろ・・・」



 魔力が完全に尽きたようで『超回復』が発動しなくなり、同時に生命活動が停止した。



 さて、落ちてるやつを拾ってから上に行きますか。




 それにしてもデュオは弱かったな・・・

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