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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
一章 イストへと降り立った神
20/22

17 イズモVSエネガルド

 扉を開けるとエントランスには騎士の残りが十人、魔法使い風の出で立ちの人が十人、そして元凶の一人と思われるエネガルドがいた。



「ようこそ、クリントへ、名も知らぬ冒険者さんたち」



 エントランスはおよそ二十帖。入口から見て左右に階段があり、二階通路は一階の部屋の上に作られており通路を落とそうとすれば部屋ごと破壊するしかない形状をしている。しかも二階には騎士のうち三人が弓を持って構え、魔法使い風の人らが杖を片手に展開している。もちろんエネガルドもそこにいる。一階の騎士が剣や槍で敵を止め、二階から集中的に砲撃、射撃する敵からすれば面倒極まりない布陣だ。


 両手を広げこちらを見下ろすエネガルド。すかさず鑑定眼を発動、種族が人間、名前がエネガルドであることを確認する。よし、本人だな。



「壮大な出迎えに感謝の意しかないね」


「ふふ、そうですか。今は領主殿が忙しいのでこのまま帰っていただきたいのですがね」


「つれないこと言うなよ。・・・まぁそんなことはいいんだが、おい、外の騎士やここの騎士に何かを仕込んだのはお前か?」



 ここで待ち受ける騎士、魔法使い共に外にいた騎士と同様、狂化の状態になっている。しかも外と同じタイミングで仕込んだのだろう、もうすぐこいつらは力尽きる。



「ええ、そうですが何か?」



 さも当たり前のように、何でもないようにそう宣うエネガルド。



「てめぇ、その性根を叩きなおして「シンク」や・・・どうした?」



 人の命をまるで大切にしない。そんな考えは捨てさせてやろうと思ったがどうやらそれは俺だけじゃなかったらしい。



「ここはわたしがやるわ。先に行って」


「・・・分かった。無理するなよ」



 イズモのレベルは54。エネガルドは45。レベルは近いがスキルの量と経験の濃さが違う。騎士らもいるが物の数じゃあない。ならば大丈夫だろう。



「この程度、何ともないわ。さあ行ってシンク。多分奥に本当の黒幕がいる。この街を救う義理なんてないけれど、住処の一つくらい確保しておきたいものね」


「ああ、俺の教会で何やら好き勝手やってみたいだからな。落とし前はつけさせてもらうよ」



 透視、千里眼、暗視、気配察知を並列発動。二階は・・・誰もいない。一階・・・ここもいない。三階以上はいないから、となると・・・地下。・・・いた。しかもすごい数だ。地下に向かう階段のところに三人、地下におよそ二百。そのうち階段のところの三人と地下の五十二人は人間。地下の残りはゴブリン、オーク、オーガなどの魔物。一人、奥の方にいる奴は見た目人間だがあれは・・・ダンピール。魔人族のヴァンパイア族と人間のハーフ。鑑定眼で見た結果が次の通り。



デュオ・テイルド 143 ダンピール 男

〈レベル62〉

ジョブ

 適職:人形師

 現職:ドールマスター

ユニークスキル

 人形作成

 魂憑剥

 吸血

マジック

 闇属性魔法

 超回復

 日向散歩(デイウォーク)

アーツ

 体術

 鎌術

アビリティ

 暗視

 魔力変換

 魔力察知

称号

 快楽主義者

罪状

 殺人、強姦、強盗、放火




 86が最高らしいイストでは高いほうだと思う。スキルも普通の相手だったら厄介な超回復も持っている。

 初見のスキルはこんな感じだ。



人形作成

 人型の人形を作り出す。体型は自由に変更可能。


魂憑剥

 魂を憑依させたり剥離させたりできる。初めて魂を剥離させる相手の場合は相手に触れて長時間スキルを使い続ける必要がある。憑依させる場合は魂の入っていない器でなければならない。二度目以降は魂の入ったモノが見えていれば剥離、憑依可能。


吸血

 生命の血液を吸い取ることで魔力を回復する。


日向散歩

 日の下を歩けるようになる。


魔力変換

 魔力を生命力に変換する。


快楽主義者

 自らの快楽を求め続ける者。快楽を感じているときに限り能力値上昇。




 これで分かった。この街の女性たちはこの地下にいるだけだろう。それを全ての人形を作り魂を本体から抜き、作った人形に入れる。本体は魂のない抜け殻だが生きている。それを地下に押し込めて魔物の繁殖をしているのだろう。胸糞悪い話だ。しかも今は魂が戻っている。騎士を正気に戻してからとも思ったがこれは急がないとな。



「見つけた、アレが黒幕か。じゃあイズモ、ここは任せた」


「ええ、気を付けて」



 グレムリン伯爵はおそらく階段に捕まっている三人のどれか、か。ついでに助けてやろう。




――――――――――――――――――――




「マジック『短距離転移(テレポート)』」



 マジック『短距離転移』。無属性魔法の一つ。視界内に瞬間的に移動するマジック。



 シンクは多分透視を使って目的の場所に飛んだ。自分が見えていればいいんだから問題はない。


 そんなことよりもわたしはこっち。敵は二十一人。シンクが騎士たちより先に行くことを優先したということはそっちの方が重要ということ。

 で、あるなら。もう殲滅してもいいよね?



「ふむ、彼は無属性魔法を使えるのですか。しかも難度の高い空間系を・・・少し見誤ったかもしれませんね」



 エネガルドは何かごちゃごちゃ言ってる。でも知らない。敵を前にして余裕の態度をとっていいのは圧倒的強者だけよ。



「マジック『煌炎(こうえん)の舞踏』」



 マジック『煌炎の舞踏』。イズモオリジナルのマジック。金色の焔を使い、金色に輝く九つの炎の玉を自分の周りに発生させる。自分の動きに合わせて炎の玉も動く。


 先手必勝、油断大敵。まさにそうだと思う。初撃を受けた相手は足並みを乱し、怪我を負う。アドバンテージが相手にできるわけだから当たり前よね。


 だからわたしは先手を取る。油断をしない。



「マジック『煌炎の宴』」



 マジック『煌炎の宴』。イズモオリジナルのマジック。金色に輝く炎の槍を周囲に向けて大量に発射するマジック。



「「「「「ぐあああぁぁ!!!」」」」」



 一階の騎士五人に直撃した槍はそのまま相手を貫く。鎧は融け、辺りには肉の焦げる匂いが立ち込める。



「ちっ使えない奴らめ。お前たち、やりなさい」


「「「「「マジック『水弾』『風弾』」」」」」



 マジック『水弾』。水属性魔法の一つ。水の玉を撃ち出すマジック。殺傷能力は低い。

 マジック『風弾』。風属性魔法の一つ。風を集めて球状に圧縮、それを撃ち出すマジック。



 水弾の影から騎士が弓を放つ。けど、その程度じゃあ意味ないわね。



「舞踏術アーツ『花吹雪』」



 アーツ『花吹雪』。舞踏術熟練度3のアーツ。舞手の周りに花びらの舞う様子と桜の木の幻を見せる。舞手の動きに合わせて木が動き攻撃する。



 今はそれに『煌炎の舞踏』もあるから全て迎撃する。右手を左に一振り、それだけで水弾、風弾は木の幻に当たり消滅する。腰を右にひねりながら右手を下に、左手は横に伸ばす。これで矢は木の幻と『煌炎の舞踏』に阻まれる。身体を戻しながら右手を上にあげ左腰に向かって振り下ろす。『煌炎の舞踏』が二階にいる相手に向かって飛ぶ。九つ全てが敵に直撃し壁に叩きつける。エネガルドは近くにいた魔法使いを盾にして難を逃れたみたい。これで二階の騎士は五人全員、魔法使いは四人、戦闘不能。あと魔法使い六人とエネガルド。でも油断できない。ここは敵のホームでありエネガルドはここではまだ何もしていないから。



「なかなかにやりますね。どうです、あの男の下ではなく私の下に来ませんか?今ならあの男の命だけで認めてあげますよ?」


「・・・・・・」


「おや、だんまりとは。あなたには失望しましたよ。私は召喚士。戦力がこれだけだと思わないことですね!」



 わたしが何も言わなかったらすぐに怒りを向けてきた。結構短気なのね。そしてやはりまだ契約していた。新たに出てきたのはサイクロプスとハーピィナイトメアが五体ずつ。どうしてこんなにもAランクの魔物と契約できているのかは知らないけどこの数は本気を出さないとやばいわね。



「・・・何を笑っているのですか?」


「ふふふ、ごめんなさい、久しぶりの感覚にちょっと笑ってしまったわ」



 やはり笑ってしまった。この状況、わたしが楽しくないわけがないじゃない!



「やはり頭がおかしいようですね。どこかの医者に診てもらったほうがよろしいのでは?ここから出られたらの話ですがね!」



 エネガルドがそう言った途端、魔物が襲い掛かってきた。




 わたしがそれに気づいたのはシンクと修業し始めて少し経った頃。わたしとシンクで川にいる魚を見に行ってたんだけどそこには凍魚の群れがいた。凍魚っていうのは氷属性の皮膚を持った魚で頭には一本の角がある。当時はまだ弱かったからBランクのその凍魚の群れに苦戦した。でもその戦闘中、わたしは楽しくて楽しくて仕方がなかった。シンクにもあの時笑っててちょっと怖かったと言われて気付いた。そう、わたしはいわゆる戦闘狂らしい。



 だからってわけじゃないけどギリギリの戦いを好む。油断なんて微塵もしない。それ故にギリギリの戦いは自分の本気をぶつけられる。思わず笑ってしまうほどに楽しい!



「もっと、もっとよ!私を楽しませなさい!!『纏火』!」



 自らの身体を炎と化し魔物の中心へ。わたしは舞踏術と集中以外にアーツを使えないけれど、アーツを覚えていないだけで体術も結構できる。


 サイクロプスの脛を蹴り上げ砕く。そこに襲ってきたハーピィには『煌炎の舞踏』をぶつける。振り下ろされたこん棒はわたしに当たると同時に燃え上がる。放たれた闇属性魔法には『煌炎の宴』で迎撃。『煌炎の宴』をサイクロプスの眼に向けて放つ。至近距離からの一撃は避けることができずに倒れ伏す。ハーピィの足を掴み他のハーピィに投げつける。錐揉みしながら飛んでいき脛を砕いたサイクロプスの顔に直撃。これで残りはサイクロプス三体、ハーピィナイトメア三体。


 魔物の攻撃が止んだ瞬間を狙って上から魔法が降ってくる。すごい嫌なタイミングよね。しかも水弾だし。この状態だと水属性にかなり弱いのよね。でも、わたしはそれを克服している。



「マジック『蒸発』」



 マジック『蒸発』。熱属性魔法の一つ。水の熱を上昇させ一瞬で気体にするマジック。



 蒸発した水は空気に紛れ見えなくなる。それと同時、またしても魔物が襲い掛かってくる。左右からこん棒が迫り、上からはハーピィが急降下してくる。その合間から闇属性魔法(名前は知らない)が。全方位に逃げ場はない。そんな見た目はピンチなのに、またしても思わず笑ってしまう。



「こういう緊張感が欲しかったのよ!!」



 そう叫んだ直後、全ての攻撃がわたしに殺到した。こん棒は振り抜かれ、爪で首部分をかき切られ、マジックが直撃する。



「やれやれ、ようやく終わりましたか。全く、こちらも大損害ですよ」


「そう、それは良かったわね」


「なっ!!」



 だけどそれだけじゃあ足りない。今のわたしは炎。実体のない炎。



「マジック『煌炎の大宴会』」



 マジック『煌炎の大宴会』。イズモオリジナルのマジック。『煌炎の宴』の強化版。数と一つ一つの威力が上昇している。



 残りの魔物六体に炎の槍が突き刺さる。その瞬間、炎が膨れ上がり爆散する。マジックの炎と魔物は魔力となって霧散する。これでまた残りは二階にいる魔法使いとエネガルドのみになった。



「ふふふ、楽しかったわ。それで、あなたたちはまだ私を楽しませてくれるのかしら?」


「ぐっ・・・!」



 その時、ドサドサと魔法使い全員が倒れた。狂化のタイムリミットのようね。



「こうなっては仕方がない。私が直々にお相手しよう。マジック『暗闇の槍(デモンズランス)』」



 マジック『暗闇の槍』。闇属性魔法の一つ。闇のように暗い黒色の槍を一本撃ち出すマジック。



「見方が倒れてもまったく気にしないなんて、ホント外道ね。いいわ、お相手願いましょう。マジック『聖光の槍(ホーリーランス)』」



 マジック『聖光の槍』。聖属性魔法の一つ。白く輝く槍を一本撃ち出すマジック。



 黒い槍と白い槍が衝突する。衝撃をまき散らし拡散する。


 一瞬の静寂が訪れる。睨み合い、次の一手を読む。



「マジック『蒼流の槍(アクアランス)



 マジック『蒼流の槍』。水属性魔法の一つ。蒼い水の槍を一本撃ち出すマジック。



「マジック『煌炎の宴』」



 『煌炎の宴』と『蒼流の槍』がぶつかり霧散する。

 予想通り、エネガルドは召喚術に重きを置いた訓練をしたみたい。属性魔法は基本のマジックしか使ってこない。そしておそらく属性は水と闇、無の三つ。そのうち無属性魔法の召喚系を重点的に覚えていそう。ならばわたしは手数と威力で、圧倒的に、倒してあげましょうか。



「マジック『煌炎の大宴会』」


「ぐっ!マジック『水弾』!」



 魔力が少なくて済む『水弾』を大量に放ってくるけどそんな水量じゃあ話にならない。

 

 『水弾』と『煌炎の大宴会』が衝突する。が、爆発は起きず『煌炎の大宴会』が『水弾』を飲み込みそのままエネガルドへ殺到する。



「ぐわああぁぁぁぁ!!」



 エネガルドは火に飲まれ、悲鳴を上げた。


 しばらくたった後、火は消える。後に残ったのは黒焦げたエネガルドだったものだけ。



「『纏火』解除」



 纏火を解き臨戦態勢を解く。と同時、消費した魔力の反動が体を襲う。



「はぁはぁ・・・やっぱりまだこれくらいが限界みたいね・・・もっと精進しましょう」



 わたしの仕事は一段落。あとは退路の確保をしつつシンクを待てばいい。



「それまではちょっと休憩ね」



 シンクだから心配ないとは思うけど、早く戻ってこないかしら。

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