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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
序章 ある世界の終わりとはじまり
2/22

2 女神からの招待


 その日、俺は全てを失った。



 そのあとの記憶はない。残っているのは虚無感。俺の手をするりと抜け落ちた、守ると決めた大切なものは呆気なく壊れた。そんな状況を呆然と見つめている。それがその後の俺だ。



 次に記憶があるのは一週間後ぐらいから。広い家に一人きり。寂しさと虚しさだけが募っていった。そんな状態だから当然何もする気になれず、俺は学校に一回も行かなかった。担任となったらしい先生や生徒指導教諭、教頭、校長が来ていろいろと便宜を図るから、とか何なら一緒に暮らすか?とか言ってくれたが断った。全ては俺が悪いと思っていたから。


 一年の頃の友達や藍の友達、蒼葉の友達も来てくれたが何を話したのかも覚えていない。一度だけ俺の友達と藍の友達が喧嘩していたのは覚えている。藍の友達が藍が死んだのは俺のせいだと怒鳴りつけて、俺は悪くないと庇った俺の友達と言い合いになっていた。その言葉はものすごく利いた。しばらく呆然としてそのあと突然頭を抱えて大声で泣き出したりしたらしい。あとで友達からメールが来ていた。思わず言い合いをやめてみんなで慰めたほどだったらしい。



 そんなこんなで一年。俺の精神はようやく普通の状態となった。いや、爆弾を抱えてはいたが。しかし今更学校に行く気にもなれず、かといって中卒で、しかも精神的に不安定だった人間なんて雇ってもらえるほど世の中は甘くなかった。だから、しばらくはバイトで生きていくことにした。まぁフリーターだ。


 バイト先の人はいい人たちばかりで、初めての俺にも丁寧に教えてくれたり一緒にやってくれたりした。まだ高校生と同じ年齢だから深夜バイトはできないし少し時給は安くなるが掛け持ちやたまに日雇いの物もやることで何とかやっていけていた。



 そんな生活にも慣れてきた五か月後、つい先日買ったパソコンを起動して同時に始めたMMORPG〈女神イストワールの誘い〉を始める。いつものようにランチャーを起動させ、アップデートをし、さて始めようかといつものようにスタートボタンをクリックした。




 その瞬間、神谷真紅という存在はその世界より消え去った――らしい。




――――――――――――――――――――――――




 いつの間にか閉じていたらしい瞼を開けるとすごい美人が目の前にいた。



「ぬぉ!」



 変な声を上げてしまったが許してほしい。だってその人目を瞑って俺に向かって唇を突き出しているんだもの。驚くのも無理はないだろ?



「? あら、お目覚めですか」



 すごく落ち着く声だ。いつまでも聞いていたい、そんな理想の声。だがそんなことは今はどうでもいい。



「だ、誰だよ!?」


「ふふふ、そう慌てないでください。私はイストワール。女神ですよ」


「・・・は?」



 え?何言ってんのこの人。美人なだけにこの頭は流石に可哀想だ・・・



「失礼ですね。正真正銘、女神です」



 考えを読まれた!?



「女神ですから。朝飯前ですよ」



 いやいや、朝飯前って・・・今昼過ぎだし。ってよく見たらここどうなってんの!? 俺の部屋じゃねぇ! それ以前になにこの何もないのに全てあるような空間は!?



「さすがは私を見つけた方ですね。ここにあるものの存在を感じ取りますか。でも、そうでなくては招いた意味が無いというものですよ」


「・・・すまないけど、最初から説明してくれ。俺がここにいる理由まで」



 仕様がない。ここはこの美人さんが女神だと認識しよう。だが口調は変えてやらない。ここがどこかは知らないが俺を連れ出したのはこの人以外にいないから。



「そうですね・・・ではその前に、一つだけ。あなたにとって人生を大きく変えられる出来事はありましたか?」



 俺の心を読めるのにあえて無視している。まぁそこまで怒りがあるわけでもないからいいんだが。



「・・・ああ、変えられる出来事は二回ほど経験している。親の死と幼馴染と義妹の死の二回だ」



 あの時の記憶がよみがえってくる。くそっ!


 息が荒くなる。動悸が激しくなる。汗が噴き出してくる。


 やっぱりダメだ。あの時のことを思い出すと俺は・・・



 少しして息も落ち着いてきたころ、それまでじっとこちらを見て黙っていた女神さんは言った。



「やはりあなたが考えている精神の爆弾とはこのことですか。幼馴染さんは彼女さんでもあったんですよね?」





「!?何故それを知っている?今俺はそんなこと微塵も考えていないぞ」



「先ほども言った通り、私は女神ですよ?なんでも御見通しです・・・というのは冗談です。なんでもではありません。分からないことも知らないこともあります。全知全能ではないので」


「じゃあなぜ知っている?」


「あなたの幼馴染にして彼女の少女の名前は愛華藍。父親の再婚相手である母親の連れ子で妹の名前は神谷蒼葉。藍さんはおっとりして優しい家庭的な少女。蒼葉さんは元気で明るいムードメーカな少女。


 なぜ知っているかということですが、彼女たちは―――



 地球で亡くなった後に私に会い、今は地球とは違う世界で生きています」



 その言葉は何よりも衝撃的だった。藍と蒼葉が生きている。それを望まなかった時はない。



「あ、ああ、あああぁぁぁぁ!」



 俺は泣いた。この人の言っていることは真実だと素直に思ったから。

 俺は泣いた。藍と蒼葉が生きていると知ったから。

 俺は泣いた。また二人に会える可能性が出てきたから。



 美人さんで女神さんは泣いている俺を優しく包み込み背中を撫で続けてくれた。この歳でこれは恥ずかしいが悪くはないな。



「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。すまない、説明を始めてもらっても?」


「はい、では僭越ながら。


 改めて、私は女神イストワール。世界を構築、管理している神です。ここは神界と呼ばれる神の名を冠する者のみが入ることを許された場所です。


 私が管理している世界の一つが《イスト》。ここで藍さんと蒼葉さんは生きています。


 世界の管理と言っても様々ですが方針は一つ、世界を長く持たせること。


 そのためにはここからだけでなく、世界に直接赴くこともあります。


 そこで問題となってしまったのが他の世界です。不安定な世界ほど調整に時間がかかり、調整している間も不安定な世界は増えていきます。私の管理する世界は100を超えます。その中の一つがイストなのですが、私の管理する世界で一番安定している世界です。しかし管理の手を疎かにするわけにはいきません。


 ではどうするか。それこそがあなたをお呼びした理由でもあるのですが、神には眷属を作る権利が課せられます。眷属は一つの世界を集中的に管理する存在としてその世界に降ろします。そして私が眷属に指示を出し司令塔のような役割を果たします。その眷属としてあなたを選ばせていただきました。もちろんあなたに行っていただく世界はイストです」



 説明された内容に不満はない。藍や蒼葉がいるというイストに行けるのなら俺としては願ったり叶ったりだ。ただいくつか疑問があるのも確かだ。


 ではつぎはそれを聞いていくことにしよう。

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