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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
一章 イストへと降り立った神
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16 狂気、挟撃

 ラミエール王国が悪い意味で変わったのは約5年前、先代国王が急逝し現国王が即位してからだと言われている。前国王は家族、とりわけ三人目の孫娘を大事にし、それと同じほどに国民というものを尊んでいた。自分は書類を確認し、他国のお偉いさんと会談をし、大臣らと会議をする。さて、それらを正しい方向で行うには?国民の生活を知らなくてはならない。国民を知らなければならない。国を知らなければならない。今日食べたものは全て国民が作ったもの、今部屋にある調度品や生活用品も国民が作ったもの、今住んでいる城も国民が作ったもの、今の国も国民が作ったもの。今の生活があるのは国民のおかげだという考えを持っていた。

 現国王は一言で言えば傍若無人。先代の言葉や考えに一切の理解を示さずただ自らの欲のために王としての権力を振るう。そんな国王にこれまでの大臣や国民が付いてくるはずはなかった。しかしそれを恐怖で縛った。とある団体に長男が属しているのを知った王は自らも同じ団体に所属した。全ては金のため。団体からの要望を王として強制的に叶えることで見返りに多額の金を貰う取引をした。現国王は全く気付かない。自分が体の良い傀儡であることに。それが国を苦しめる現状。全ては王とその団体――《ラグナロク》による悲劇。




――――――――――――――――――――




 まずはこの人形をどうにかしないとな。って、あれはスレアさんじゃないか。・・・なるほど、なんとなく分かってきたぞ。種族が人形の街人、数時間前まであった自我や意識、目の前にいるそれらを失ったもの。

 考えられるのはもともとは人間で何らかの方法で意識を抜かれ体を操られているというものが一つ。ただしこれは人形になった理由が不明。

 もう一つがもとから人形で何らかの方法で意識を憑依させられ、先ほどそれを抜かれた。問題は本体の所在だ。街の男性を見るとちゃんと種族が人族になっている。そしておそらく女性の変化に気付いていない。もとから人形だった、という可能性のないことはないがそれだとなぜ女性だけ人形なのかという話になる。


 まぁ領主の館に行けば分かるかな。


 人形にデバフ系は効かないだろうなぁ。とりあえず動かないようにだけしとくか。



「マジック『聖なる枷』」



 よしこれでいいだ・・・ん?

 なんだ?少しずつだけど崩れていってるぞ?



「シンク、早く行きましょう?」


「ちょっと待っててくれ。ほら俺が拘束した方が少しずつ崩れていってないか?」


「え?・・・あら、本当ね・・・」



 『聖なる枷』には集めようとした魔力や生命力をかき乱す波を発現させる。その効果しかない。ならこの状態は、この人形が魔力または生命力の塊であることを示している。よってこの人形は何者かのマジックまたは俺たちの知らないユニークスキルで作られた可能性が高い。あそこの偽グレムリンはイズモが拘束したから俺に比べて目に見える効果がないのだろう。



「なんにしろあそこに行けば全て分かるだろうな」


「ええ、今度はわたしも戦うわ」


「ああ、頼む。一人で冒険するよりは安全にいこう」



 俺たちは中を視認できなくする『不可視結界』を張ってから人形を庭園に放置して領主の館へと向かった。




――――――――――――――――――――




「どうやらこちらへいらっしゃるようですね」



 エネガルドは一部始終を執務室より見ていた。強力な結界が人形を寄せ付けなかったことからどうやら仲間に見目麗しい少女がいること、人形が全て捕らえられたこと、教会の中が見えなくなる結界が張られたこと、その中から出てきた二人がこちらへ向かっていることまで。



「彼を呼んでください。物騒なお客様ですと」


「はっ」



 独り言のようにつぶやくと突如現れた一つの影がそれに反応した。そして直後、気配もろとも再び消える。



「さて、せっかく手に入れた街です。まだまだ手放すわけには参りませんので」



 エネガルドは執務室を後にする。向かった先は私兵の集う訓練所。自身の野望に茶々をいれる不届き者どもを残らず消し去るため、彼は狂気の行動をとることに決めた。




――――――――――――――――――――




 領主の館前。辿り着いたときにそこで見たのは全身から生命力を溢れさせる鎧を着た男たちと数匹のグリフォン、サイクロプス、ハーピィナイトメア。


 サイクロプスは一つ目の巨人の魔物で手には大剣が握られている。その一撃は強力でおそらくこの屋敷程度なら一撃で崩壊させる。その為危険度はAに認定されている。弱点は大きく開いたその一つ目。

 ハーピィナイトメアは別名、闇鳥人種と呼ばれる魔物。闇属性魔法と鋭い爪から繰り出す攻撃が強力で翼を使った飛行能力とその俊敏性から危険度がAに認定されている。弱点は上半身の脆さ。まぁ攻撃が当たればの話だが。


 おそらく魔物はエネガルドが召喚したものだろう。あいつの魔力値だけでは不可能だと思うのだが何かあるのだろう。


 それよりも問題なのは鎧を着た男たちだ。あれは危険だ。生命力を燃やし続けているから何もしなくてもそのうち力尽きる。生命力はいわゆるスタミナだから死にはしないだろうが下手をすれば一生動けなくなる可能性がある。

 そしてその現象を起こしているのは身に着けいる物ではない。スキルか薬品によるものだ。状態異常の名前は狂化。生命力を消費し続ける代わりに筋力、耐久力、速力が大幅に上昇するという効果がある。その生命力を消費し続けるというのが問題でかなり消費が激しく、この男たちだともって十分、早くて三分ほどで力尽きてしまう。しかもそのあとも狂化を解除しない限り消費し続けるので危険すぎる。



「ちっ胸糞悪い。イズモ、さっさと片付けるぞ!」


「了解よ。わたしは状態解除をやるわ」


「任せた!俺は魔物どもをやる!」



 男どもはイズモに任せよう。巫女見習いであるだけあってそういったことは得意だからな。俺は俺であれらをイズモに近づけさせず魔物を殲滅しなくてはならない。久々に難易度の高い戦闘になりそうだ!



「アーツ『剛力』『金剛』『集中』『魔耐』『俊足』」



 アーツによる肉体強化を施して『絶無』『花見月』を抜く。



「行くぞ!」



 まずは図体のデカいサイクロプスから。全部で五体。固まっているからやりやすい。



「マジック『扇雷(せんらい)』」



 マジック『扇雷』。雷属性魔法の一つ。扇状に雷を放つ。


 全部が同じ高さに眼があるわけではないので五体中二体の眼に雷は直撃した。



「「グギャアアアア!!」」



 痛そうに眼を抑える二体。それを見て残りの三体は怯んだ。その隙を逃すことはしない。



「アーツ『飛刀』・・・っく!」



 アーツを発動させる瞬間、ハーピィとグリフォンが襲い掛かってきた。それをバックステップで避ける。その間にサイクロプスは正気に戻っている。



「ちっ厄介な・・・」



 鑑定眼で見た限り契約者がエネガルドになっている魔物どもはやはり連携して攻撃してくる。グリフォン五体、サイクロプス五体、ハーピィナイトメア五体は別々に襲ってくるなら大した敵ではないが連携してくるとなると話が違う。しかもここには鎧を付けた男どもが二十人はいる。こいつらは下手に手を出せないのか後ろから見ているだけだ。そこは助かった。が治癒属性魔法を使う輩がいるようで魔物を回復させていやがる。物量で押して俺の体力を削る作戦か?俺の力もある程度把握できるだろうしな。



「イズモを待つしかないな」



 とは言ってもイズモの力量ではあと二分ほどかかるだろう。それにここは敵地だからな。何があるか全くわからな・・・



「イズモ!」



 やっぱり回り込んだ野郎が居やがった!『直感』が働いてよかった。

 後ろから現れたのは黒装束を纏った見た目は暗殺者って感じの奴らが十人。こっちは何も状態異常になっていない。が鎧の男たちより強い。さすがに魔物には劣るが。

 しかしこれだと挟み込まれた形になる。しかもイズモは集中していて動けない。いや、殲滅覚悟で行けば問題なく動けるんだが・・・出し惜しみしている暇はないか。



「イズモ、状態解除を続けていてくれ」



 集中しているため声は出せないが頷くことで了承の意を示してきた。


 俺は神気を練り上げる。軽く高まったところで広く外に拡散させる。


 敵の動きが完全に止まる。これがアビリティ『神の器』の効果の一つ、神の威圧。俺が神気を纏う限り相手は動きが格段に鈍くなる。普段の動きが100とすると1くらいになる。


 動きの止まった敵など的も同じ。



「マジック『火蜂(ひばち)



 マジック『火蜂』。火属性魔法の一つ。無数の火の玉を作り出し高速で撃ち出すマジック。俺の場合は貫通力を高めるために回転をかけ球を弾丸のような形にしてある。


 イズモや鎧の男どもに当たらないように注意しながら撃ち出す。暗殺者の集団は為す術なく撃ち抜かれた。サイクロプスも眼にそれぞれ三発ずつ撃ち込んだのでそのままで絶命した。ハーピィナイトメアも一体につき二発ずつ翼を撃ち抜き落ちてきたところを時間差で放った何発かが真面に当たってこれまた絶命している。グリフォンは耐久力が割と高いので何とか耐えている。



「マジック『風迅(ふうじん)』」



 マジック『風迅』。風属性魔法の一つ。風を対象の近くで衝突させその衝撃で攻撃するマジック。飛んでいる敵は風に煽られて直撃を受ける。


 『魔力操作』によって細かい位置調整もできるため『風迅』をグリフォンの傷口付近で発生させる。



「「「「「グルゥワァァァ」」」」」



 傷口を抉られ断末魔の叫びをあげるグリフォン。地に倒れその姿は徐々に消えていく。と、それと同時。



「マジック『女神の涙』」



 温かな緑の光が辺り一帯に広がる。


 マジック『女神の涙』。聖属性魔法の一つ。対象の体内に巣くう邪のモノを消滅させる。それによって薬やスキルに侵された状態異常が治る(病原体を死滅させる)。聖属性魔法唯一の治癒効果を持つ。


 その光に触れた鎧の男たちは正気を取り戻していった。



「ぅん・・・ここは・・・?」


「何がどうなっている?」


「おい、アレが侵入者じゃないか!?」



 どうやら正気を取り戻しても俺たちを敵として認識しているらしい。だが失った生命力は戻らない。こちらを囲もうとする彼らだが鎧の重さでか次々に膝をつく。



「せっかく助かったんだ、大人しく休んどけ。マジック『聖なる枷』」



 男たちを捕縛し戦利品を拾う。



グリフォンの魔石×5

グリフォンの嘴×5

グリフォンの毛皮×5

騎乗者の笛


鞍×2

 騎獣につける鞍。グリフォンの毛皮製。


サイクロプスの魔石×5

 属性:地

 サイクロプスが落とす一般的な魔石。


サイクロプスの瞳石×5

 サイクロプスの討伐証明部位。瓶に入っている。


ハーピィナイトメアの魔石×5

 属性:闇、風

 ハーピィナイトメアが落とす一般的な魔石。


ハーピィナイトメアの爪×5

 ハーピィナイトメアの討伐証明部位。尖っている。



その中に一つ、初めて見る魔石があった。グリフォンの魔石の一つで鑑定眼による説明が


グリフォンの魔石

 属性:風、炎、雷、(氷)、(地)、(木)

 グリフォンが落とす一般的な魔石。属性が多すぎて逆に用途がない残念な品。

 取得可能スキル:転化


 となっていた。取得可能スキルという表示を初めて見た。それにこの『転化』、効果は見えないが『直感』で強力なスキルである気がする。まぁどうやって使えばいいのか全くわからないけどな。



 ひとまずは拾ったものを全て『無限収納』に入れておこう。



「終わった?」


「ああ、行こうか」



 俺たちは館の扉を開ける。さて、何が出るやら。


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