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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
一章 イストへと降り立った神
16/22

13 街の謎と召喚士

「一先ずようこそと言っておこうかしら」



 鏡の中のルームに入ったわたしたちは円になって座っている。司祭たちを合わせると27人になるからかなり大きな円になっている。



「さて、浄化とかはシンクがしてくれたみたいだし、名前を一人ずつ聞いて言ってもいいかしら」


「その前に質問をいいですか?」


「そんなに焦らないで。まずは自己紹介よ」



 名前を知らないとなんと呼んでいいか分からないしいろいろ不便だからね。シンクにも名前を聞いといてくれって言われたし。



「時計回りにお願い」


「はい。では私から。クリント教会に司祭として勤めておりました、ナイアと言います」


「同じく、ニーナです」


「グレアナと申します」


「シェスカですわ」



 同じ格好、わたしと同じ服なんだけど、をしているから分かりにくいけど、金髪茶眼の娘がナイア、茶髪茶眼の娘がニーナ、銀髪碧眼の娘がグレアナ、黒髪黒眼の娘がシェスカ。年齢はそれぞれ24、18、23、20。全員スレンダーな体型よ、残念だったわねシンク。



「私たちはシルキーの一族です。ですので名前はありません」



 次の五人目から、ここからは地下にいた残りの22人なんだけど、はどうやらシルキーみたい。シルキーというのは精霊族の一種でドワーフが鍛冶を主な仕事としているようにシルキーは家事を主な仕事としている。つまりはメイドね。名前がないのは生涯の主と決めた者に付けてもらうのが決まりなんだそう。



「どうして地下に?」


「私たちはこの街から歩いて二日ほどの位置にある村に住んでいました。そこに突如として鎧を着た騎士らしき者たちが村へ攻め込み、13から22までの私たちが集められました。他の人は皆殺されました。村を築いた長たちも、父も母も、生まれたばかりの赤子さえも。騎士の中に一人、鎧を付けていない高齢の召喚士がいました。その者が呼び出した魔獣に肉片一つ残さず喰われました。ここへ連れてこられたのは昨日です。私たちは人族と比べると耐久力と生命力に優れていますから苗床としては良かったのでしょう。先にいた8人の方と共に魔物どもに犯され続けました」



 淡々と話す彼女は一見何とも思っていないように見えるけど、目には涙が溜まっている。他のみんなもそうだ。中には声を上げて泣いている娘もいる。それだけつらかったんだろう。例え一日でも。


 そう考えると先にいた8人は大丈夫なのかしら。




――――――――――――――――――――




「ここに連れてこられたのは一週間前?」


「はい」



 クリントにいる家族がいると言う8人に話を聞くとどうやら連れてこられてまだ一週間らしい。それで孕んでしまうなんて、世界にゴブリンやオークが多い理由もなんとなく分かった。


 でもそうすると、分からないことがある。被害に遭っていない娘はこの街にはもういないんじゃないか、そうスレアさんは言った。なら他の娘たちは?そしてなぜ、スレアさんはそう言えたのか。街を歩いた限り少なくはあったが普通に年頃の少女は歩いていた。なら被害に遭ったうえで街に返された娘がいるのではないか。それが何年も前のことだとするとあの街にいる三十代の女性も被害者が一部居るのではないか。様々な推測が頭をよぎる。いくら考えても推測の域を出ないが。



「とにかく順番に送っていくよ」



 俺は一人ずつ送り届けていった。




 さて、全員を送ったが何だあれは?娘を送ってきた俺に対して「お前が勝手に連れて行って勝手に返しに来た」とか「二度とこの街に現れるな」とか。


 ひどい街だ。他人を信じられない、そんな住民が多すぎる。街を歩けば奇異の眼で見られ、話しかければそそくさと逃げられる。街の中では話し声が全く聞こえない。この街はどうしようか。グレムリンとかいう奴を倒せば何とかなるかな?いや、それだとまた繰り返しか。一先ず教会と俺のルームを繋いで・・・あ!教会の建て替えを忘れてた!



 急いで戻った俺は結界の中に人が幾人か居るのを探知した。六人ほどの集団だがどれもどす黒いオーラを感じる。おそらく司教たちの仲間だろう。結界の破壊も忘れてたから侵入を許した。完全に俺の不注意だな。



 大聖堂についた。六人もここにいる。扉を開けると豪華そうな服を着た人が一人と騎士らしき鎧を着た奴が三人。文官と思われる爺さんが二人いた。



「何奴!」



 そりゃこっちのセリフなんだが。



「お前らこそ誰だよ」



 と言いつつ鑑定眼を使う。・・・へぇあの豪華そうな服がグレムリンか。ブクブクと太り、頭も天辺が剥げている。快適な温度の大聖堂で大量の汗を流し、目は血走っている。



「ぼい!ぼばえ!わたじはグレブリンだぞ!跪げ!」



 顔に溜まった脂のせいなのかな、何言ってるのか聞き取りにくい。一音一音に濁点がついてる感じ。



「何言ってんのか分かんないよ、グレブリンさん」



 唯一分かった名前を言ってやると六人は途端に顔を赤くしこちらを睨んできた。



「なんて奴だ!おい、やってしまえ!」



 文官の爺さんの一人がそういうと騎士三人が一斉に掛かってきた。



『大丈夫?』


『問題ないだろ』



 心配したイズモから念話が入るが俺は何も感じていない。



「マジック『拘束の呪具』」



 マジック『拘束の呪具』。闇属性魔法の一つで相手の足元に鎖を出現させ相手に巻き付ける。この鎖に触れた者は何らかの異常状態にかかる。



「「「ぐっ!」」」



 三人とも動けなくなり必死に鎖を千切ろうとする。が徐々に異常が見られ始めた。一人は全身が痺れそのまま筋肉が硬直、心肺停止による呼吸困難で死亡。一人は足の先から徐々に水分が抜け、ミイラとなり死亡。もう一人は鎖の触れた場所から体が石へと変化し死亡。何とも悲しい死に方だな。



『シンク、文官の一人、こちらから見て右側の奴は保護した娘たちの村を襲ったやつよ。奴自身が召喚術の使い手みたい』



 騎士の死に様を見ているとそんな念話が入る。そうか、じゃあもうこの街はお終いにさせようか。ここでグレムリンには退場願おう。



「さて、あなた方には失望の念しか感じないのでここで退場していただきましょう」


「急に現れてその言い草。君は勇者でも気取っているのかな?」



 シルキーの村を襲った文官が口を開く。こいつだけは常に冷静だ。何か隠し持っている可能性があるな。



「そんなわけないだろう。俺は人として当然のことをしようとしているだけだよ」


「ふむ、人として当然のことですか・・・私たちを悪人と勝手に判断しこうして剣を向けることがですかな?」



 よく口が回る。物語の勇者はそういわれたら躊躇するだろう。本当にこいつらを斬っても大丈夫なのだろうかと。だが残念。ここは現実で俺は勇者ではない。



「シルキーの村って知っているかな?」



 そういった瞬間、三人とも目付きが鋭くなりこちらを睨みつけてきた。



「知っていますが?」


「最近壊滅したらしいんだ。ここから歩いて二日くらいかな。そこにある村なんだけど」



 保護した娘たちの事情はイズモから聞いた。おそらくこの映像を彼女たちは見ているだろう。俺が戦闘状態に入ると中には映像が流れるようにルームはなっている。



「そこにね、生き残りはいなかった、誰一人として。破壊し尽されていたよ。だけどこの街に来て生き残りに出会ったんだ」


「・・・」


「そう睨むなよ。それで聞いたんだけどね、その街を襲った人間の中に一人召喚術を使うって爺さんがいたらしいんだ。なんでも、あなたみたいな風貌だったらしいよ、エネガルド・グレイルさん」



俺が名前を知っていたことに驚いたのはエネガルド以外の二人だった。エネガルドは鑑定を使ったと考えたのだろう、そこにはあまり驚いてはいなかった。エネガルドが驚いたのは自分を直接見たと言う娘がいたということだろう。



「そこまで知ってしまったあなたには死んで頂くしかないようですねぇ!召喚『グリフォン』!」



 床に魔法陣が敷かれ眩く辺りを照らす。その直後、現れたのは高さが三メートルほどある鷹と獅子を混ぜたような風貌の魔獣、グリフォン。



「へぇ、どうやってかは知らないけどグリフォンと契約するなんてすごいじゃないか」



 グリフォンは冒険者ギルドが定める危険度でAランクの魔獣だ。



「教会内の粛清、第二弾。さぁ、始めようか」


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