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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
一章 イストへと降り立った神
15/22

12 教会の地下

 最後に何をしようとしたのかは知らないがまぁ大したことじゃないだろう。



「イズモ、そっちはどうだ?」


「全員身体の浄化は終えたわ。精神状態の良し悪しは目を覚まさないと分からないけど」



 スレアさんの話から考えるとかなりの期間同じことをされていたんだと思われる。早く来なかったことが悔やまれるが仕様がない。それにここより酷くなってそうな場所がある。まずはそっちだ。



「イズモ、地下の入り口を探すぞ」


「ええ、わたしは魔法錠の可能性を探ってみるわ」



 魔法錠とはその名の通りマジックによって鍵が掛けられていることを指す。これは扉自体を壁に偽装するものだったり鍵の解錠にマジックを使用させるものだったりと種類も様々。肉眼では判別付かないのも特徴だ。ただマジックを使ってあるだけあって魔力がその周囲に渦巻いている。その為、魔力察知で特定できる。



「分かった。俺は他の部屋も見てくる」



 ひとまず大聖堂にはそれらしき物はなかった。可能性としては大司教か司教の部屋だろう。というわけで大司教の部屋に来たんだが、これは本当に敬虔な聖職者の部屋なのだろうかという内装だった。



「何だこの成金趣味は・・・ありえね~」



 金細工は単体ではいい物だろう。だがここまで金で揃えると逆に気味が悪い。



「布団にも金粉が撒かれてやがる。勿体ない。ここの金は全部持って行って売ってやろう」



 これだけの金だ、さぞお高くなることだろう。

 にしてもこの大司教?の肖像画?は全く似てないな。自分の絵を自分の部屋に飾ろうとする意味が俺には分からないけど。これは気持ち悪いから置いておこう。



「ん?これは・・・なんの鍵だ?」



 途中、机の引き出しを漁っていると五本の鍵が出てきた。この鍵は鋼でできている。



「持ってたほうがいい気がするな。これも持っていよう」



 直感に従い無限収納に入れずにズボンのポケットに入れる。



「もう何もないかな?」



 金になりそうなものと重要そうなものは大方入れただろう。

 次は司教の部屋だ。




 司教の部屋もグレードは落ちるが大司教と同じようにほぼ金でできた部屋だった。いったいどこからそんな金が沸いてくるのか。そういえばグレムリン伯爵ってやつと仲がいいって言ってたからそいつから貰ったのかな?だとしたらこれはここの領民のお金だ。でもこれを配ったとしてもグレムリンって奴がいなくならない限り無意味だろうしなぁ。グレムリン伯爵を潰すか?



「シンク、こんなとこにいたのね。扉を見つけたわ」



 物騒なことを考えていたがそれをぶった切ったのはイズモのそんな言葉だった。



「おお、でかした。で、どこにあった?」


「魔法錠を探っていたら突然床が動き出してね。そこに扉があったわ。気配察知で先のほうに魔物らしき気配と人間らしき気配が一緒にいるのを感じたから急いで呼びに来たの」



 突然床が動き出した?俺は何もしてないはずだし何か罠かもしれない。



「それでもそこしかないか。イズモ、司祭の四人を俺の『ルーム』に避難させる」


「・・・いいの?」


「ああ、俺がずっと教会にいるわけじゃないから管理する人間が必要なんだ。それをここは彼女たちに任せる」


「そう。わたしが何か言うことではないしね」



 本当はこのまま見過ごすのは目覚めが悪いと言うか、まぁそんなことなんだが、きっとそれはイズモも分かっているだろうな。それに俺の支配下に置かれた教会の神職者にはもれなく俺の加護が付くから何かあったときに対処しやすい。



「大聖堂に戻ろう」



 教会の粛清第二弾を始めましょうか。




 大聖堂に戻り、母さんから貰った鏡を取り出す。この鏡は一見何の変哲もないただの姿見だ。だが俺の許可した人しか触れないようにいろいろ付与してある。さらに魔力認証、指紋認証、声紋認証によって鏡は扉へと変化する。その扉の先にあるのはさっき俺が言った『ルーム』。ルームと言えばワンルームを想像するかもしれないが、学校の体育館を思い出してほしい。あれってワンルームって言ってもいいよね。という訳で俺のルームは体育館よりも更に広い、多分東京ドームくらいの広さがある一つの部屋になっている。仕切りとかはないがその辺はおいおい追加していこうと思っている。外からの持ち込みも自由にできるからとても便利なんだよ。


 それは今は置いておいて、そのルームに司祭たち四人とイズモを入れる。ルーム内には俺の無限収納と同期したボックスが置いてある。今俺の無限収納には食料が大量に入っているから食事の心配はなさそうだ。俺は触っちゃダメと言われているイズモの服も大量に複製眼で複製しておいてあるから問題ないだろう。


 鏡を無限収納に入れて時間の経過を普通にしておく。こうしないとルームの中も設定した時間通りの流れになってしまう。因みにルームの中からならいつでも俺と念話という形で話すことができる。



 大聖堂に現れた扉は床と平行に存在していた。鍵穴などは見つからず、魔力の気配もしない、何の変哲もない扉だ。



「罠を怖がってたら何も始まらないか」『じゃあイズモ、何かあったら連絡する』


『ええ、分かったわ』



 扉を開いて中を覗く。どうやら階段になっているようで親切にも両脇に松明も灯されている。



「いよいよ罠臭いな」



 一応警戒だけはして慎重に階段を降りる。コツコツと俺の足跡だけが壁に反響して聞こえる。



「これじゃあ小さい音が俺の足音に消されちまうな」



 より警戒して進む。百段ほど降りただろうか。それくらいになっていくつもの悲鳴が聞こえてきた。どれもがまだ俺やイズモとそう変わらない年齢の少女だろう。その中に交じってブモオォとかゴブゥとかも聞こえる。少し急ぐかと言うところで俺の眼は嫌な光景をとらえた。ちょうど階段を降り切って前方が見える位置まで来たんだがそこにあったのは五十を超えるオークとこれまた五十を超えるゴブリン、それらに今まさに犯されているあられもない少女たち三十人。そのうちの幾人かは腹が出ている。おそらく妊娠してしまっているんだろう。



「ちっ!お前らぁ!」



 気を引くためにわざと大きな声を出す。その声が届いた瞬間、魔物は動きを止めた。それにより少女たちは崩れ落ち、必死に這って逃げようとする。が力が入らないのだろう、動けないようだ。少しでも魔物から少女たちを遠ざけるように魔物に向かって軽く威圧を放つ。その瞬間に俺を敵だと認識したようでこちらに向かって吠えながら突進してきた。百体の魔物が同時に動くと壁が迫ってくるみたいだ。だが俺にそんなのは関係ない。こんなところにどうやって百体もの魔物がいたとか考えたくもない。今まで何人の少女がここで死んでいったのかを考えたくもない。俺が今考えるべきは今生きている少女たちを救うことだけだ!



「吸えよ『絶無』奪えよ『花見月』」



 力を開放する言霊と共に二本の刀を抜く。さて、大掃除の時間だ。



「刀術『乱桜(ミダレザクラ)』」



 刀術アーツ熟練度5、乱桜。一対一を基本とする刀術の中で唯一多を相手取ることができるアーツ。前方広範囲に斬撃を放つ面の攻撃。俺はそれに雷属性を付与して放つ。斬撃があった魔物から電気が走る。少しでも接触していた他の魔物へと。電気で痺れた魔物は筋肉が麻痺しその場で倒れる。これでおよそ三十。残りは七十。

 

 今の立ち位置は唯一の出口である大聖堂への扉→俺→魔物→少女たちとなっている。俺に追い詰められた魔物が何をするかと言えばおそらく少女を人質に取るだろう。俺がいる限りそんなことはさせない。



「マジック『大地の恵み』」



 マジック『大地の恵み』。木属性魔法で植物を急激に、強靭に成長させるマジック。今回は魔物と少女たちの間にある植物を天井を覆うくらいまで成長させた。これで戦いの余波が少女たちに行くことはないし魔物が少女たちに危害を加えることもない。



「お前らの相手は俺だ。死に物狂いでかかって来い」





 いくつかのマジックとアーツを使い危なげなく百体を殲滅した。魔物は倒した端から消えていった。どうやらオークとゴブリンは倒すと消えるタイプのようだ。落としていた素材は




ゴブリンの耳×50

 ゴブリンの討伐証明部位。右耳。


ゴブリンの魔石×50

 属性:地

 ゴブリンの魔石。魔石の中では品質が最低ランク。売り物にもならない。


オークの皮×50

 オークの討伐証明部位。革鎧の材料。臭い。


オークの魔石×50

 属性:地

 オークの魔石。低品質。最低ランクの魔道具を何とか動かせるレベル。




 何ら特別なものも落とさなかった。ここに置いておいても邪魔になるだけなので一応回収する。


 『大地の恵み』で成長させた木の向こうでは少女たちのすすり泣く声や親の名を呼ぶ声が聞こえる。何とも言えない気分になったが俺はできる限り力になってやりたいと思う。



「この木から少し離れててくれ」



 少女たちの下へ行こうと木を破壊するため声をかけた。



「・・・あの、その前にお聞きしたいことが」



 すると疑心に満ちた声が返ってきた。



「どうした?」


「あなたは何者ですか?」



 その質問は当たり前だろう。突然現れて自分たちを襲っていた魔物を全て倒した正体不明の男。自分たちを犯していたやつらと同じ性別の得体のしれない見ず知らずの男。疑うのが当たり前だろう。そんな心をまだ持っていたことを俺は称賛する。



「何者と言われても答えられはしないが、俺の名前はシンク。たまたま今日、この街に立ち寄った正義感溢れる少年とでも思ってくれればいい」



 自分でも何言ってんだこいつ的なセリフに聞こえるな。相手の警戒心を解かないといけないのに何言ってんだろ、ホント。



「ここは教会の地下です。大聖堂には大司教や司教がいたはずですが?」


「あなたたちをここに閉じ込めて苗床にしていると高笑いしていたから殺した。あなたたちと同じように三人の慰み者にされていた司祭たちは俺の仲間が保護している」


「・・・そうでしたか。では私たちはあなたを信用します。どうか私たちも助けて下さい」



 おや、どうやらこの少女もあの豚のことを知っていたみたいだ。



「もとからそのつもりだ。木を壊すからちょっと離れててくれ」



 気配察知で少女たちが十分に離れたことを確認する。



「マジック『枯木』」



 木属性のマジック、枯木。これもその名の通り木を枯らすマジック。草花には使えない。

 木は徐々に腐り、ボロボロと朽ちていく。その奥には肩を寄せ合い俺を見つめる三十対の瞳。様々な感情の乗ったそれは少女たちの心の内を現していた。



「マジック『浄化』『清浄』『完全回復(フルヒール)』」



 浄化により胎内の魔物を遺伝子レベルで除去。清浄により体内、体外共に汚れを落とす。完全回復によって生命力を回復させる。これで膜は再生されないが魔物の子を孕むことで起きてしまう人間の子を産めない症状はなくなり、身体の汚れも風呂に入った後のようにきれいに落とされ肌が艶々している。髪もしっとりとして少女たちの顔は驚きに変わる。



「さて、俺に言いたいことがいろいろあるだろうがまずはここを出る」



 こんなじめじめしてオークやゴブリンのアレの匂いがする場所に居たくない。少女たちも嫌な記憶しかないここに居たくもないだろう。



『イズモ、地下に三十人いた。全員ルームに入れたいから一旦出てきてくれ』


『分かったわ』



 無限収納から鏡を取り出す。その直後中からイズモが出てきた。

 大きな鏡を見たことで少女たちは驚き、中からイズモが出てきたことでさらに驚いていた。ひっくり返る娘もいた。



「初めまして。わたしはイズモ。聞いてるかもしれないけどシンクの仲間よ」



 次いで鏡の中のルームを説明する。入ることを全員が了承したようでイズモが順番に連れて行った。ルームは俺とイズモが認めれば登録されていない人も入れる。そして入ったところで魔力、指紋、声紋を登録し、次からは俺が設定を変更しておけば自由に入れるようになる。


 最後に八人ほど残った。そのうちの一人が言うことにはこの八人はどうやらこの街で攫われた娘らしく、おそらく家族はまだ生きているからということだ。ならルームに入れずにそのまま連れていくか。



「この教会に結界を張ってあるから大丈夫だと思うけど外で戦闘になる可能性がある。そうなったら俺が守ってあげるよ」



 はやく家族に会いたいのだろう、嬉しそうに返事をしてくれた。自分があんな目に遭っていたと言うのになんていい人たちなんだろう。



「じゃあ行くよ」



 鏡を無限収納に仕舞い俺たちは出口に向かって歩き出した。

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