9 名もなき村
ラミエール王国の東側、通わずの森から馬車でおよそ七日。ラミエール王国王都がそこにある。王都はもともと二つの街だったのだが、距離が近すぎたことと税などの政治的問題で合併させられ、今では国ではもちろん、世界でも有数の巨大都市となっている。もともとあった二つの街のうち一つは当時の王都。政治、経済、交通の要所も兼ねており、当時から人口は多い。もう一つは巨大迷宮を有する冒険者の街。多くの冒険者が集まり、日々迷宮の攻略に勤しんでいた。冒険者の街であるからか宿屋、武具屋、薬屋などが多く集まっており、貴族の威光もあまり届かないため王都からこちらの街に人が流れると言うことがあったらしい。当然、政治に携わるものや貴族にとっては面白くない話なので「迷宮のある街など住めるはずがない!」と声高々に言っていたにも拘らず結局は自らの欲を満たすために合併させてしまった。
そんな王都は、いや、国全体にも言えることだが、貴族のほとんどが暴走状態にある。領民から税と称して財を奪い、罰と称して女を攫う。さらには税もきちんと納め、貴族との揉め事もなく、いたって普通に農業を営んでいる家から適当に難癖付けて土地、財産、人材を強奪するという胸糞悪い奴らだと言う。領民から慕われるような善政を布く貴族も居たには居たらしいが、そういった者らは他の上級貴族やさらには国王からの圧力もあって爵位を剥奪されお家取り潰しになるばかりか、財も家族も取り上げられ、最期は領地のど真ん中で斬首されると言う本当に意味の分からない国だ。
もしこの国に二人が転生していたらもういないかもしれない。そう思ってしまうほどに貴族は腐りきっているし平民は生きる気力がない。
王都まで徒歩では二十日ほどかかる。その間、俺たちはいくつかの街や村を経由して王都に行くことにした。本来なら食べ物さえあれば泊まる必要はないのだけど、俺は神になった身であるので各教会に寄っていく必要があると母さんから電話で教えてもらった。その際に一つだけ依頼を受けたが今語ることではないだろう。
そういえばクルトさんからの贈り物と供の誓いで得た力について言ってなかったと思う。
まず俺が貰ったのは次の通り。
紅黒龍の胸当、籠手、腰当、脛当・・・紅黒龍の素材から作られた防具。炎属性、闇属性に強い耐性を持つ。
防熱のマント・・・外からの火、炎属性の魔法を無効にできる。〈耐暑〉の効果。
魔石の首飾り、耳飾り・・・着用者の魔力を貯蓄できる。大きさにより貯蓄可能量が変化。シンクの物は首飾りが直径三センチ、耳飾りは五ミリが二つ。
閃駆の靴・・・装備中のみ〈空中歩行〉〈瞬動〉のスキルを得る。
次にイズモが貰った物。
炎狐の千早、白衣、緋袴、足袋・・・炎狐の素材を使って作られた巫女装束。炎属性、聖属性に強い耐性を持つ。
神木の下駄・・・普通の靴のように歩ける。
豪火の髪留め・・・火、炎属性強化。
復元の鈴・・・特定の物の時間を戻す。生物には使用不可。
そして俺が魔石の首飾りと耳飾りを複製眼で作ってイズモにも渡した。ピアス付けた巫女さんみたいになっちゃったけど問題ないよね。だって俺が神なんだし。
それはそれとして、俺は最初に無限収納に入っていた神糸のシャツ、ズボン、靴下、下着を着用し、その上から紅黒龍の防具と魔刀『絶無』、小太刀『花見月』を装備した。もちろん魔石の装飾品もつけている。さらにその上から防熱のマントを羽織る。かなりの厚着だと思うけど防熱のマントの〈耐暑〉の効果で全く暑くない。防具も俺の動きを阻害しないように作られていてかなり快適だ。音もならないし。
イズモは舞いに用いていたという扇を巫女装束の腰帯に差し、懐に魔導書を入れている。魔導書は一度使うとそのマジックが使えなくなるが復元の鈴のおかげで元に戻る、つまりは何度でも使えるようになった。ただこれも万能ではないようで一日以上経過したものは戻らないと分かった。
そして、供の誓いで得た力だがついでにイズモのステータスも見せよう。
イズモ 17 金狐族 女
〈レベル54〉
ジョブ
マジックマスター
ユニークスキル
金色の焔
熱属性魔法
マジック
炎の識者
聖属性魔法
纏火
魔力操作
アイテムボックス
アーツ
舞踏術
集中
アビリティ
家事
速読
直感
魔力察知
気配察知
熱源察知
暗視
幸運
称号
真紅の加護
イズモも十分にチートなのだよ。
各スキルの説明は次の通り。
金色の焔
炎属性と聖属性を併せ持った炎の使用が可能になる。魔法合成の劣化版。供の誓いにより習得。
熱属性魔法
金狐族の巫女候補、または巫女のみが使用できる属性魔法。あらゆる熱を操る。
炎の識者
火、炎属性の適性を持ち、2属性の威力がかなり上昇する。
纏火
自身の身体を炎と化す。この状態のとき、あらゆる火を吸収し魔力へと変換する。
速読
本を読む速度が上がる。魔導書にも効果あり。
真紅の加護
神シンクの加護。シンク神の側に居る限り状態異常無効、成長率向上、必要経験量減少。供の誓いにより取得。
まぁこんなところか。逆に俺が習得したスキルは熱属性魔法、纏火。取得した称号は金狐の主だ。
金狐の主
幻獣族である金狐族の主。金狐族の側に居る限りスキル〈精融合〉を得る。
精融合
対象二人が精霊化し融合する。レベル、能力値、スキルなどが二人分合計されたものとなる。
よりチートと化してしまった。
精霊とは体全体が魔力で構成された幻獣種の一種で物理攻撃が全く効かず、精神力もかなり高いのでマジックもほとんど無効化される、存在がすでにチートの種族。纏火も簡易精霊化と言ってもいいスキルだ。
うん、すでにこの世界ではオーバースペックなんだろうな、俺たちの能力は。
さて、今俺たちは通わずの森から徒歩で二日、馬車で約半日のところにある村の近くにいる。教会はどの規模の街、村にもあるらしく、到底全て回るなんて不可能だ。であるなら、旅路の途中にある教会だけでも行っておこうとこうして村にやってきたわけだ。
だがどういうことだろう、村には人の気配がない。
「イズモ、この近くに人はいるか?」
「いいえ、私の察知にも引っかかってないわね」
俺たちは常時気配察知を展開しているがここまで人の気配は全くしなかった。今も村からは何の気配もしない。
「どういうことだ、これは?」
「分からないわ。とりあえず村に入って何か手掛かりを探ってみましょう」
という訳で入ったはいいがこれは・・・
「なんだこれ?」
そこはすでに廃村と呼んでいいものだった。建物の中は荒らされ、畑は全て掘り起こされ、あらゆるところにまだ新しい血の跡がついていた。
「この血はまだそんなに経ってないな。一日以内に付着したものだろう」
「教会らしき建物も見てきたわ。あそこも中は荒らされていて地下のシェルターには同じように血の跡があったわ。跡じゃないわね、血がかなり溜まっていたわ」
この村で何かがあったのは確実だろう。問題は俺たちがどうするべきかということだが・・・
「死体がないからどこかに避難してるってのは希望的すぎるかな。だけど俺たちにはどうしようもないし」
「ええ、何が起こったのかも、誰がいたのかも、どうして起こったのかも何も知らないし、悪いとは思うけれど赤の他人のことだしね」
助けを求められたなら助けてやりたいがこの状況じゃあな。
「食料はまだあるよな?」
「ええ、あと7日くらいはもつと思う」
仕方がない、心苦しいけど次に進もう。次の街か村に着けばこの村のことも分かるかもしれないしな。
「ここはこのままにして次を目指そう。何かわかるかもしれない」
「分かったわ。ヒッポグリフか何かがいればよかったのに」
「そう言うな。いずれ手に入るだろうさ」
ヒッポグリフとは馬の代わりに利用される大人しい性格の魔獣だ。因みに水陸両用。
というわけで俺たちは何も得られないまま次の街を目指すことになった。
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