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少年は玉座から世界を見守る  作者: ナットレア
一章 イストへと降り立った神
11/22

8 出会いのプロローグ

「アレを贄として勇者を召喚しよう」



 ファイがそれを聞いたのは偶然だった。



「そうですわね。あんな役立たずが有効活用できるんですもの。やらなければ損ですわね」



 そこはラミエール王国王都の真ん中に建つ王城の一室。王族八人のうち七人が集まっていた。



「ふふふ、ではその儀式は私が執り行いましょう」


「ああ、頼むぞ。決行は一月後だ。それまでにいろいろ考えねばな」



 最初に言っていたアレ。その後の会話からして人。そしてこの七人で集まった理由・・・そんなのは一つしかない!



 王族たちの欲に塗れた笑いを背にファイは静かに走る。自分の主であり、親友でもある第三王女の下へ、危険を伝えるために。


 

 ファイは焦っていた。それ故に気が付かなかった。それ(・・)が自分を感知していたことを。



「どこへ行く」



 そんな静かだが答えを許さない、低く圧力を伴った声をかけてきたのは黒装束を身に纏った男だった。



「っ!!」



 瞬間、ファイは戦闘態勢に入る。が、それは些か遅すぎた。


 男はファイとの距離を一瞬で詰め、鳩尾に膝蹴りを入れる。身体をくの字に曲げたファイの頭を掴み床にたたきつけ顎を蹴り上げる。ここまでコンマ一秒にも満たないほどの時間。脳震盪を起こしたファイは意識が弱まる中で声を聴く。



「お前は生かしておいてやろう。勇者が召喚される絶望を前に自分の無力を嘆くがいい」



(ああ・・・ごめんなさい・・・・・・クレア・・・アイーシャ様・・・)




 翌日、ファイの姿は王都から遠く離れた街の中にあった。無残にも体に無数の傷をつけ、かなりの量の血を流しながら、ひっそりと、路地裏に捨てられていた。


 街ゆく人は気にもしない。それはこの国では普通の光景だから。


 故にその二人組は気付いた。この国の普通を知らないがために。



「おい、大丈夫か!? 今治してやるぞ〈フルヒール〉」



 ファイの身体に癒しの力が降り注ぐ。見る見るうちに傷はふさがり顔色もよくなっていく。折れた個所も治ってゆく。



「ん・・・こ、ここは・・・」



 やがてファイは目を覚ます。すでに日は落ちていた。



「お、目が覚めたか。大丈夫か?」


「えと・・・はい、大丈夫、です」



 ファイが立ち上がり、それを見た二人組は安堵する。



「何があったのかは知らないけどあまり無茶するなよ?」


「無茶・・・・・・っ!」


「あ、おい!」



 第三王女であるアイーシャの危機に自分が無茶するくらいわけはない。だが体はそうはいかなかった。走りだそうとしたところで身体がふらついてしまう。



「危ないわ。今は休みなさい。一刻の猶予もないと言うなら私たちが代わりに行くから」



 自分のせいで見ず知らずの人を巻き込むのは頂けない。そう思い、ファイは黙り込んでしまう。



「君の名前は?」



 二人組の男のほうから名を聞かれる。その声は優しく、自分を見てくれる安心感を覚えた。だから無意識のうちに答える。



「・・・ファイ」


「そうか、ファイか。いい名前だ」



 いい名前かどうかは知らない、何を由来にしたかすら定かではない、そんな名前をしかし彼女は気に入っていた。それを褒められて、ファイは少しばかり親近感を持つ。



「じゃあ次は俺たちだ。俺の名前はシンク・カミヤ。こっちがイズモ」


「よろしく」


「!!!」



 ファイの親友であり主である第三王女の名はアイーシャ。エルフと人族の間に生まれたハーフエルフであり、他の王族や貴族から疎まれる存在。そんな彼女からいつも聞かされていた話があった。それは彼女が生前の記憶を持つこと、その中に出てくる少年のお話し。


 シンクの名を聞いた瞬間にファイは雷が落ちたような衝撃を受けた。


 なんという奇跡だろうか・・・!



「シンク様、一つお願いがあります。どうか姫様を助けて下さい!」


「「え?」」


「姫様は前世の記憶をお持ちです。その名に覚えがあるのなら、どうか・・・!」


「・・・そ、その名前は・・・?」


「・・・『マナカ アイ』」




 こうしてシンク、イズモ、ファイは出会った。

 歯車は動き出す。世界は動く。ここに神の怒りに触れる者たちが現れた。

感想、評価待ってます(^0^)/

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