第8話 初営業
今週は問い合わせがあったお客さんから注文が来はじめてボクは忙し
いでした。苦労して作ったカタログPDFの威力がでたああああ! っ
て感じです。ボクは注文された商品を倉庫に行って箱につめてそれから
宅配便を呼んで送るとお客さんに発送メールをして明日届きます! っ
て送信すると、すぐお客さんにありがとうございましたって電話をしま
した。丁寧に対応すると丁寧に答えてくれることがわかったからです。
数日後、お客さんから電話がかかってきてよく売れてるよ! って言
われた時はバッタさんのように飛び上がって喜んでしまいました。はあ
あああ、うれる、うれたああああ・・・・・ 顔がにやけてしまい天井
を見て腕を組んでいると社長がやってきて、トラックが風呂屋に飛び込
んだらしいよ、入っていたお客さんはパニックになったってさ、アハハ
ーッ! どうでも良いですが社長は大喜びでした。
ボクはハイハイって聞いていたら、またしても隣の席の片海さんが良
くわからない専門用語を言って評論したら社長はすぐ自分の席に戻って
行きました。何か片海さんが来てから仕事がはかどるなあ、でもよく見
ると片海さんは一日週刊誌を読んでいます。斜め前の席では営業の岩口
さんがフリーセルをやっています。
ボクは変な会社だなあって思いました。すると経理の三下さんがやっ
てきてハイこれ名刺ねってボクと片海さんに手渡しました。はああああ
、めいしだああああ! 生まれて始めて作ってもらった名刺です。居酒
屋で働いていた頃は胸に付ける名札は作ってもらいましたが名刺は始め
てでした。
ボクは両手で名刺を持ってそれを上から見たり横から見たりして観察
しました、すると顔がにやけてしまいました。鼻に当てて息を吸うと名
刺の匂いがしました。何回も大きく息を吸っていたら目の前がクラクラ
して来ちゃいました。名刺で遊んでいたら電話がかかってきました。
経理の三下さんが出てすぐボクに電話ですって言ったんです。電話に
出るとCMAって会社の小嶋さんって人でした。話を聞くと先週のフリ
ーマーケットでうちの社員がおもしろい商品を見つけたと言い、その商
品をうちでも扱いたいという話でした。
ボクは始めてのお客さんなのでちょっと待ってくださいと電話を置く
と社長の所に行って、CMAって会社から新しく取引したいと言ってき
たんですがどうしましょうか? って聞きました。すると社長はCMA
? 知らないなあ、そんな海の物とも山の物ともわからない会社と取引
なんてしなくていい! って言いました。
でもボクはお客さから欲しいって言ってきたので絶対売れると思うん
ですけどって言うと、社長は岩口くんどうするんだ? って聞くと営業
の岩口さんはウエッ! と言ったきりフリーセルに夢中でした。電車で
30分くらいの近くなので一度営業に行きたいんです! って言うと、
行きたいなら行けば? って言うとテレビを見始めました。
ボクはよっしゃー! って思いました。そして電話に出てお客さんに
明日お伺いしたいですけど大丈夫ですか? って聞くと午前中ならいる
ので話を聞きたいと言ってくれました。やったあ、新しいお客さんだあ
あああ・・・・ と喜んだは良いけどどうやって営業をしたら良いのか
わからず急に不安になって来ました。
ボクは営業の岩口さんの所に行き、明日新しいお客さんの所に営業に
行きたいんですけど心細いので一緒に行ってくださいってお願いしまし
た。するとそんな行っても売れないよ、ウエッ! って言いました。一
人では行く度胸が無くてボクはお願いします! って言うと、面倒臭そ
うに場所はどこ? って言ったのでボクは助かったと思いました。
その日の夜、夕食を食べながら明日は新しいお客さんの所に営業に行
くんだ! って話をしたらお母さんはそれじゃスーツを用意しなくちゃ
! って言いました。お父さんは営業なんかできるのか? ってグサッ
とボクに行ったんです。すごい営業の人が一緒だから大丈夫だよと言い
ました。
翌朝は寝不足のまま、スーツを着て自転車に乗って駅まで行き電車に
乗りました。お父さんから借りたビジネスバックの中にはパソコンとカ
タログと何種類かの商品が入っています。あーなんか社会人って感じだ
なあ、はははーっ! つり革につかまりなから一人でニヤニヤしてしま
いました。
駅に到着して改札口で営業の岩口さんが来るのをずっと待っていまし
た。でも10分たっても20分たっても来ませんでした。大変だ約束し
た時間に遅れちゃう・・・・ 焦って電話するもつながりませんでした
、ああもう完全に遅刻だ・・・・ もう一人で行くしか無いか・・・・
そう思っていたら岩口さんが階段から降りてきました。岩口さん早く
早く! ボクが叫んでいるのにマイペースでノロノロ歩きで来ました。
遅いですよ、遅刻ですよ、怒られちゃう・・・・・ 岩口さんはお客さ
んに会うっていうのにいつものヨレヨレのジャケットとズボン姿でした
、せめてネクタイくらいしてきて欲しかったです。
それにお酒の匂いがプンプンしたので朝まで飲んでいたんだって思い
ました。早く早く! そう言ったけどウエッ! と言ったままマイペー
スで歩く岩口さん・・・・ 45分遅れで会社に到着しました。そして
行ってビックリでした、ビルまるごと会社でした、すごい大きな会社だ
ああああ・・・・
受付のお姉さんに言うとこちらですって案内してくれました。革で出
来た豪華なソファに座るとすごい緊張して来ました。始めてのお客さん
なのに大遅刻だ、帰れ! って言われるかもしれない、どうしよう・・
・・ すごく不安になりましたが岩口さんは目をつぶってはあ〜って息
を吐いて下を向いています。
5分後、昨日電話した小嶋さんが入ってきました。ボクは立ち上がる
とすいません遅刻です! って謝りました。するといいのいいの、私も
ちょうど会議が長引いていたからと言ってくれたので少し安心しました
。ボクは名刺を出して挨拶をすると小嶋さんも名刺をくれました。はあ
ああ、始めてのめいしこうかんだああああ・・・・
岩口さんもウエッ! と言い名刺を出しましたが何だかヨレヨレの名
刺でした。ポケットにそのまま入れてきた感じのヨレヨレ具合でした。
ボクは営業の岩口さんの出番だと思って黙ってましたが、いきなりタバ
コに火を付けてプカプカと吸い出したんです。
何だか間がもたなくなって小嶋さんから、いやあ実はうちの社員がで
すね先週のフリーマーケットでおもしろい商品を見つけましてね、当社
は輸入家具店を経営しているんですが、家具だけだと殺風景だから御社
の商品を並べて明るい現実的な家の中って感じで演出し、家具以外の商
品も扱えば相乗効果が見込めるのではと思い突然の電話で失礼しました
と言ってくれたんです。
ボクはすごくうれしくて笑顔でありがとうございます! って感謝し
ました。すると他にもいろいろあるんでしょ? どんな物がありますか
? って聞いてきたので今度こそ岩口さんの出番だと思い横を見ると2
本目のタバコに火を付けようとしてました。ボクは焦って岩口さん商品
の説明お願いします! って言いました。
するといろいろとありますよ、今度サンプルを送りますからと・・・
・ お客さんは今知りたいと言ってるのに今度送りますからってそれじ
ゃ今日何しにきたのかわからないです、それによく見ると岩口さんはカ
バンも持っていませんでした。資料も何も無くて手ぶらでやって来たん
です・・・・ ボクは青くなってしまいました。まるでガキの使い状態
だったからです。
お客さんがタバコ吸わない人の前でプカプカ吸っている岩口さん。ぼ
くは血の気がスーーッと引いて行きました。苦し紛れにボクはカタログ
をお持ちしました! と言うと苦労して作って印刷したファイルを小嶋
さんに見せました。
小嶋さんはペラペラっとめくると、突然爆笑し始めました。うちの社
員が大笑いしてたけどほんとうだああああ! って。ボクは一つづつ商
品の説明を必死でするとそのたびにアハハーッ! って笑ってくれたん
です。ボクは食いついてきた! って思いました。
この巻き貝メジャーっての、個人的に一つ欲しいんだけどって言うの
でボクはとっさに、今日帰ったらプレゼントとして発送しますので個人
的に使ってください! って言うと本当に? 悪いねえと言ってくれま
した。何だか小島さんとボクの間にある種の周波数がつながって一瞬で
理解できた気持ちがしました。
それじゃ、どれをどれだけ仕入れたら良いかは現場担当者に任せるか
ら今後ともよろしく! って言ってくれたんです。ボクはうれしくて会
社近くなので良かったら遊びに来てください! って言うとぜひお伺い
しますと・・・・ するとずっと黙っていた岩口さんが突然よろしくお
願いします! って言うと調子良かった会話がそこで止まってしまいま
した。
入り口のロビーまで小嶋さんに見送られてありがとうございました!
って挨拶をすると会社を出ました。岩口さんは今日は何しに来たんだ
ろうか・・・・ タバコ5本吸って最後だけビックリするような挨拶し
ただけだ・・・・ 駅まで歩いてる時にそう思いました。でも取引して
もらえそうで良かったあーーー。
駅に到着すると岩口さんはじゃ今日はこれで帰りますと言うと反対側
の電車に乗って帰って行きました。電車の吊革につかまりながらお客さ
んとの会話を思い出したら顔が不気味ににやけていました。いけない、
異常者とまちがえられちゃう。
会社に戻ると社長に取引してもらえそうです! って言ってもらった
会社案内を渡すと社長はおおおすごい大きな会社じゃないか! って驚
いていました。ボクはすごい大きなビルでした! 家具と一緒に商品を
扱いたいそうです! って言うと、やっぱり営業しなくちゃいけないん
だよ! って言い出しました。
昨日は海の物とも山の物ともなんてって言っていたのに、言うことが
360度、じゃない180度回転していました。そしてパソコンを開い
てメール画面を出すとCMA担当者からメールが来ていてとりあえず全
商品100個ずつ欲しいという注文書が届いていました。
ボクはパソコンの画面を持って社長の所に行き、さっそく注文が来ま
したあ! って言うとすぐに送って! と言うのでボクは走って倉庫に
行き、箱詰めを始めました。はあああ、100個ずつなんてたいへんだ
ああああ! 箱につめては玄関口まで持って行きました。
週刊誌をずっと読んでいる隣の席の片海さんにすいません手伝ってく
ださい! って言うと、面倒臭そうに誰か他に頼めば? なんて言うん
です、誰がが片海さんなのに・・・・ もう一度お願いします! って
言うと週刊誌を置いて何? って。
倉庫に行って上の段から順番に100個ずつ箱につめてくださいって
お願いすると、こんな高い所の商品手が届かないから無理! って言い
出したんです、ボクはこのふみ台で登ってくださいって言うと、私は高
いところが苦手なんだ! って言われました。
しょうがないのでじゃ、一番下の商品からお願いしますって言うと、
腰を痛めていて無理無理、絶対無理! って言われました。しょうがな
いので、じゃ真ん中の棚からお願いしますって言うと渋々と始めたんで
す。あー、人にお願いするってどうしてこんなに大変なんだろう・・・
やっとのことで全商品の箱詰めが終わったら5時になってしまいまし
た。次、宅配便の伝票書きお願います! って片海さんにお願いしたら
私は毎日定時の男です、帰ります! と言って帰ってしまいました。ボ
クは急いで伝票書きをしました、宅配便の人が来て焦って送り先を書い
ていたら、大丈夫ですよ、伝票付いたのから順番に運びますからと言っ
てくれたので少し安心しました。
宅配便のお兄さんもすごい量ですねえって驚いていました。ボクはこ
のお客さんが買ってくれたらこれの何倍も売れるかもです! って言う
と応援しますからぜひうちを使ってくださいと言われました。なるほど
これがテレビで宣伝しているセールスドライバーかああああ!
その夜は夕食を食べながら営業の話を夢中でしてしまいました。する
とお父さんはその岩口って営業ふざけ過ぎだろ、どうしてクビにならな
いんだ? って怒ってました。ボクは他にも一日テレビ見てる社長の話
とか、倒産した会社のおじさん新入社員の話をしたら何ていう会社なん
だ! って信じられないような雰囲気でした。
その夜、体は疲れているのに頭の中は今日のことでいっぱいで寝返り
を何度も打ちながら顔はにやけっぱなしでした。おかげでなかなか寝る
ことが出来ませんでした。