第7話 フリーマーケット
昨夜はいろんなことを考えていたら眠れなくなって朝起きたら頭は重
いし体はだるくてズル休みしちゃおうかと思いました。でももうすぐカ
タログが完成するし気になる商品がまだ残っているのでやっぱり行くこ
とにしました。
階段を降りて行くとお母さんは少し元気になっていて朝食のパンも出
来ていました。お父さんも起きてきてテーブルに座るとパンとコーヒー
で食べ始めました。お母さんはテーブルの上に置いてあるコケシのピー
ちゃんにおはよう! って言うと、コケシさんがフムフム、ハイハイ、
エエって返事をしました。
それを見ていたら、たった1日でお母さんを元気にしてしまうコケシ
さんはやっぱりすごいなー! ボクもコケシさんみたいになりたいなー
! って思いました。お父さんは朝いつも機嫌が悪いんですが、テーブ
ルの上にコケシさんと並んで置いてあるイカ箸たてエクセレントの三角
頭をパカパカするとハハハッ、と笑うんです。ボクはイカさんもすごい
なー! って思いました。
会社に行くといつものように社長がコーヒー作る機械をいじってまし
た。おはようございます! って返事をするとすでにハイテンションで
ノリノリでした。社長はいいなあ、大変な仕事もしないでテレビ見てネ
ット見て、時々電話して言いたいことをボクに言うだけで悩み事なんか
全然無いみたいだし・・・・ 全てプラス方向に考える人なんだなあ。
仕事が始まるとボクは残りの商品を机の上に並べて写真を撮ってそれ
をパソコンに入れました。目覚ましスパイダーって何だろう・・・・
説明書きを見るとクモさんが天井にとまっていて、朝時間になるとモー
ターが動いてクモさん糸が引っ張ってフトンをめくり上げる商品でした
。
寒い日の朝、眠いのにクモさんにフトンをめくられたらひとたまりも
ないなあ、寒さで飛び起きてしまうなー、これなら絶対に時間になった
ら起きられるなーと思いました。次の商品はヨウジヨージだ、つま楊枝
じゃなくてヨウジヨージって何だろう・・・・
箱を開いて中身をのぞいていたら社長が来ました。ねえねえ、倒産し
た会社のあの社長、雇うことにしたよ! 倒産したおかげでうちの商品
がもっと売れるようになったし・・・・・ まずは3ヶ月試用期間で雇
って使えそうならそのまま社員だよ、毎日指導しなくちゃ、アハハーッ
! って。
そんな話を聞いていたらお昼になりました。自転車で家に帰るとお母
さんは元気になっていました。そしてコケシのピーちゃんとボクとお母
さんでヤキソバを食べました。お母さんは食べながらピーちゃんに話し
かけています、ボクはコケシさんがいなかったらお母さん今ごろどうな
っていたかと思うとコケシさんはやっぱりすごいなーって思いました。
お母さんはこれフリーマーケットで売ったら売れるんじゃない? っ
てコケシのピーちゃんを指さして言いました。そういえば毎月近くのイ
ルカ公園でフリーマーケットをやっていることを思い出しました。なん
でイルカ公園って名前なのかは、昔、公園の地面を掘ったらイルカの骨
が出てきたからです、すごい昔このへんは海の下だったんだ・・・・
ヤキソバを食べてからソファで少し休んでそれから自転車に乗って会
社に行くと、ボクは社長に今度の日曜日にイルカ公園でフリーマーケッ
トやるので倉庫の商品を売ろうかと思ってるんですけどって言ったら、
フリーマーケットなんかで売れないだろ、誰が買うんだ? って言われ
ました。確かにボクも何回か行ったけど見るだけで買ったことはありま
せんでした。
市民は無料なんで会社の宣伝のためにやりたいんですけどって言うと
、うーんやりたいならやったら? って言ってくれたのでボクはよっし
ゃあー! って思いました。すぐ市役所に電話したらまだマーケットス
ペース空いていますと言われたので市役所のページから申し込みをしま
した。
それから残りの商品のカタログ作りをしました。その間にも社長は何
度もやってきて、ねえねえ、知ってるかなあ? って話を聞かされてい
たら夕方になってしまいました。いけない、明後日のフリーマーケット
の準備をしなくちゃ! その日は2時間残業して良さそうな商品を10
個ずつ買い物袋につめると家に帰りました。
もう元気になったお母さんはコケシのピーちゃんと仲良しです。やっ
ぱり話し相手がいるのといないのとでは気分が違うんだ、ボクは何でも
返事をするコケシさんはやっぱりすごいなー! って思いました。そし
て夕食を食べながらボクはフリーマーケットに店を出すんだ! 受付も
済ませたよ! って言うと、お父さんは売れるのか? って一言ボソッ
と言いました。
その夜ボクは売れたらいいなあ、明日は100円ショップで地面に引
くレジャーシートと金額をはるシールを買わないといけないなあって考
えていたら夜眠れなくなっちゃいました。
次の日会社は休みなので100円ショップで買い物して戻ってきてか
らテーブルの上に商品を並べて、価格を付けました。残りわずかのカタ
ツムリライター、うーんこれは400円、いやどうせ値引きされるから
600円かな? マジックで600円って書くとカタツムリさんのビニ
ール袋に貼りました。
お父さんとお母さんはテーブルの上に乗った商品を見ては爆笑してい
ました。ふざけた商品ばかりって文句言ってたのに・・・・ お母さん
はお釣りあるの? って聞かれてボクはハッとしました。そうか10円
とか50円とか用意してなかった・・・・ 急いで貯金箱から小銭を出
してビスケットの缶に詰めなおしました。
その夜、明日のフリーマーケットのことを考えるとますます眠れなく
なってしまいました。朝はお母さんに起こされてやっと起きるとパンと
コーヒーで朝食を食べて、自転車にめいっぱい積んでイルカ公園に行き
ました。受付で名前を言うと場所を教えてくれてそこにレジャーシート
を引くと商品を並べ始めました。
シートの真ん中にちょこんと正座して座って下を見ると商品に囲まれ
てて何だかうれしくなって来ました。カタツムリさんにカエルさんに象
さんにその他いっぱいだ、このまま売れなくても一日商品と一緒にいら
れればいいや。そう思うと一人で顔がにやけてしまいクスクス! って
笑ってしまいました。
9時になるとお客さんがちらほら集まって来ました。右では古着を売
ってます、左ではミニサボテンを売ってました。お客さんは見るものの
なかなか買わない人が多いでした。ボクは商品に囲まれてるだけであー
なんか幸せだなあーって空を見ながら妄想してたら、これください!
って声が聞こえました。
カタツムリライターが1個、600円で売れたんです! はあああ、
うれたああああ! 売れると思ってなかったのですごい嬉しかったです
。するとお客さんがまた来てエビハンガーって何だ? って聞いてきた
のでボクは商品の説明を夢中でしました。
説明しているそばから商品が値引き交渉もなく売れ始めたんです。ボ
クは急に忙しくなって必死で商品を売りました。1時間後、商品は全部
売り切れてしまいました。大変だ、売るものが無くなっちゃった! ボ
クは急いで社長に電話をしました。
用意した商品が全部売れちゃいました! 会社に追加商品を取りに行
きたいです! って言うと社長はしょうがないなあ、会社開けて待って
るからって言うので自転車を全速力でこいで会社に行きました。そして
倉庫から商品を買い物袋にあふれるほど目一杯入れて戻りました。
値札を付ける時間が無いのでレジャーシートの上にバラバラってまき
散らすとお客さんがすぐに集まって来てこれは何? って質問攻めにあ
いました、爆笑するお客さんからは飛ぶように商品が売れたんです。お
つりが減ってきてボクはあせって来ました。
すると綺麗なおねえさんがボクに話しかけて来ました。よく見ると地
元まるまるケーブルテレビのキャスター、涼子さんでした。毎朝見てい
るおねえさんだ・・・・ インタビューよろしいですか? って聞かれ
たのでハイって返事をしました。
そしてカメラが回り始めて涼子さんが話をしてボクがしゃべろうとし
た瞬間、カメラとボクの間に突然物体が現れたんです。その物体は社長
でした。はーい私が商品作ってまーす! って・・・・ いったいいつ
現れたんだろう、でたあああああ・・・・・
カメラの前で社長はノリノリでしゃべっていました。キャスターの涼
子さんも次早く行きたいって感じでしたが社長の切れの悪いいつまでも
続く話が続き、とうとう涼子さんはハイありがとうございました! っ
て言い強制終了となりました。
社長はノリノリでした。ボクがお客さんに商品の説明をして頑張って
売ってるのにボクに話しかけて来るんです。もうやめて! って何度も
口から言葉が出そうになりました。売れないよって言ってたのに逆回転
してフリーマーケットでも売れるんだよ! なんて言い出す始末です。
お昼過ぎには追加した商品も全部売り切れてしまい、おつりも無くな
ってしまいました。もっとしっかりと準備しないとこれ以上は売れない
って思いあきらめてその日は閉店しました。たった3時間でしたがもう
ぐったり・・・・ 社長は知らない間にいなくなってました。手伝って
くれれば良いのに・・・・
家に帰ってお金を数えたら大量のお札と小銭が・・・・ テーブルの
上で数えたら全部で12万円でした。はあああ、じゅうにまんえんだあ
あああ・・・・ 売れ残りの捨てる商品が全部売れたああああ・・・・
・
興奮してその夜はなかなか眠れませんでした・・・・ 次の日の朝、
寝不足のまま会社に行くと朝からハイテンションの社長でした。テレビ
に写ってインタビューされたことが嬉しかったらしく、放送日はいつか
なあ? 他のテレビ局が取材に来たらどうしようかなあ、断ろうかなあ
、アハハーーッ! ってそんな話ばかり午前中聞かされました。
明日から倒産した社長さんが新入社員として入って来ることもあって
その日一日社長はしゃべりっぱなしのハイテンションでした。ボクは商
品が全て売れてしまったことを社長に言いたかったのにマシンガントー
クでそれを言う暇もありませんでした。
まだいっぱい売れ残り商品はあります、パソコンで作ったカタログ商
品を眺めて妄想したらすばらしい商品ばかりだ、売れるの当たり前だ、
皆知らないだけなんだと確信したのでした。よしカタログをくばって残
りの商品も全部売るんだ!
次の日の朝、倒産した会社の社長さんが来て挨拶が終わるとボクの隣
の机に座りました。名前は片海さんというおじさんです。1ヶ月前まで
会社の社長さんでした、それが今は試用期間中の平社員です。片海さん
はよろしくお願いしますと言ってきたのでボクも入ったばかりです、よ
ろしくお願いしますって返事をしました。
ボクは残りの商品のカタログを作りを始めました。すると隣の席の片
海さんがそれを見てこれは売れないだろう! って言いました。ボクは
フリーマーケットで売り切れた話をしたら、相手は素人さんだからなあ
って知り尽くしたようなことを言いました。
ボクはちょっとムッとしましたがカタログ作りを続けました。すると
社長がやってきて、ねえねえダムが地震で壊れたらしいよ、いつ破れる
かわからないんだ、そしたら町は水浸しだよ、アハハーッ! って。ボ
クと片海さんはハイハイってその話を聞きました。
片海さんはその話を聞いて社長と同じような評論家気取りの話をしは
じめました。すると社長は黙ってしまいすぐ自分の席に戻って行きまし
た。社長は人の話を聞くのがきらいなんだ・・・・ 片海さんも社長と
おなじ評論家みたいでした。
それからもたびたび社長が来ましたが、片海さんが答えて評論すると
社長はすぐに自分の席に戻って行きました。片海さんのおかげで社長が
すぐ帰って行くのでその日は仕事が進んでとうとう全商品のカタログが
完成しました。はあーやったあー、やっと力作のカタログが完成したあ
・・・・ やりとげたこの満足感に浸っていると夕方になりました。
定時になって社長が帰ろうとしたのでボクはカタログが完成したので
明日から売り込みしたいんですけどって言うと、あっそう、いいんじゃ
ない? って言い帰って行きました。ボクは残業を1時間してカタログ
を見なおして商品を見て、はははーっ! と笑ってしまいました。
翌日からPDFにしたカタログを問い合わせが来たお客さんにメール
しました。するとすぐに問い合わせが来たんです、やった食いついてき
た! ボクは社長に売れそうな気がして来ましたって言うと、そうか、
じゃ名刺を作らないとだね! と言い経理の三下さんに作るように言っ
てくれました。
その日ボクは問い合わせがあったお客さんにメールで返事をしました
。社長に価格をどうしましょうか? って聞いたら捨てる商品だろ?
適当でいいよ! って言われたので自分なりにフリーマーケットで売れ
た価格を考えてメール返信しました。
あーなんか仕事しているって気分だなあ、あははーっ! 何だかウキ
ウキしてきてあっという間に夕方になってしまいました。そしてその夜
お父さんとお母さんに営業の仕事を始めたんだ! って話をするとお父
さんにフリーマーケットと営業は違うんだぞって言われました。
その夜、売れるのか売れないのか考えたら眠れなくなってしまいまし
た。