第1話 ボクの再就職
ボクは19才です、高校を卒業してすぐ居酒屋チエーン店で働き始め
ましたが仕事がきついし、注文を間違えたり、食べ物を落としたり、会
計を間違えたりして店長からは怒られるし、酔っぱらいのお客さんにも
絡まれたりする毎日でした。
それでもずっと我慢して働いていましたが半年働いた所で限界が来ま
した。体は重くてだるくて精神的にも追いつめられた状態になり、仕事
に行こうとしても体が動かなくなりました。ボクにとって居酒屋は楽し
い職場ではなく毎日拷問受ける職場だったんです。そしてとうとう耐え
られず居酒屋を辞めました。
それからしばらく家でぶらぶらしていたら、お父さんとお母さんから
いつまでサボっているんだ、早く仕事決めて働けって言われるようにな
りました。ボクはしかたなくハローワークに行き受付を済ませて仕事を
探し始めました。ボクはどんな仕事が向いているのかな? ってわから
ないし、何をすれば良いかもわかりませんでした。
もう居酒屋で働くのもいやだし、お客さん相手の仕事は向いていない
のがわかったのでもっと違う仕事にしようって決めました。でも特技も
資格も無いし持っているのはバイクと自動車の免許だけでした、うーん
ボクにも出来る仕事って他にないのかなあ・・・・・
職業安定所に毎日通ってはこれはという仕事を見つけて申し込むと、
もう求人は終了しました、とか経験が無いとダメだったりでなかなか決
まりませんでした。あーあ、ボクは仕事がしたくても仕事が無いんだ、
アルバイトでもしようかな、でもフリーターはお父さんとお母さんから
絶対だめだって言われているしなあ。
そんな毎日を過ごして1週間のある日ですが、ボクにも出来そうな求
人がやっと見つかりました。水田商会っていう民芸品の開発と製造をや
っている会社です、給料は委細面談って書いてありましたが家から近い
し土日も休みと書いてあったので申し込んだら職員さんがすぐ連絡して
くれました。
明日の9時にこの会社に行ってください、面接の予約を入れておきま
したから。そう言われてボクはやっと仕事が決まるかもしれないとちょ
っと気持ちが楽になりました。家に帰ってお母さんに言うとスーツをす
ぐに出してきてネクタイも新しいのを出してくれました。
お母さんはしっかりしなさいよ! ってボクに言って、その夜お父さ
んからも決めてこい! って言われてボクはちょっとプレッシャーを感
じました。面接で落とされたらまたハローワークに行かないと、それも
もういやだなあ・・・・ そんなことばかり考えてしまいその夜はなか
なか眠れませんでした。
朝になるとお母さんに起こされました、明け方まで眠れなくて体が重
いし頭もボーッとしてましたが面接に行かねばと思い、がんばって起き
てパンとコーヒーで朝食を食べると、お母さんが用意したスーツを着て
それから自転車に乗って家を出ました。お母さんはしっかりするのよ!
って言ってボクが自転車から振り返るとずっと立ったままボクのこと
を見ていました。
地元なのでだいたいの場所はわかっていたけど、あんな所にそんな会
社あったかな? って思っていたらファミレスとコンビニの間の狭い道
路を斜めに入って行った先にそれらしい会社がありました、水田商会っ
て看板を見てボクはここだって思い、自転車を降りると玄関のドアをノ
ックしました。
ドアが開くとおばちゃんが出てきたので、ボクはハローワークから面
接に来ましたって言うと、あーじゃあ入ってくださいと言われ会社の真
ん中にある大きなテーブルに座らされました。奥のほうで社長面接です
! ってそのおばちゃんが言うと奥からお爺さんが出てきました。
ボクは緊張しながら挨拶をして履歴書を渡すと、そのお爺さんは社長
の水田です! と笑顔で挨拶してくれました。履歴書を斜めに読むとウ
ンウンって頷いて、うちは民芸品の開発と製造をやっているのよ、ちょ
っとこれを見てくれないかなあと言い、奥のほうの通路に連れて行かれ
ました。
すると社長は得意気にこれはロシアのマトリョーシカの日本版で目玉
が動くんだ・・・・ これは起き上がりこぼしならぬ、さかさこぼしな
んだ、モーターが入っていて倒しても倒しても逆さになるんだ! って
夢中で話をしだしたのでボクはハイハイって返事をしてその長ったらし
い説明を聴き続けました。
棚の端まで説明して終わったと思ったら、最初に戻って説明した商品
をまた説明し始めたんです、ボクは同じ商品の説明を2度も聞かされま
した。ボクのことは何も聞かずに商品の説明ばかり1時間ちかく聞かさ
れました。そして棚の端の最後の商品の説明をもう一度聞かされると話
は終わりました。
大きなテーブルに戻ると社長は上機嫌でした。民芸品って動かないじ
ゃないの、それじゃつまらないと考えて動く民芸品を作ったらそれが当
たってかれこれ20年突っ走り続けて来たのだよ、ある意味この業界の
革命を引き起こした張本人が私なんだよ・・・・
ボクは疲れていたけどスゴイですね! って言うと社長は大喜びでし
た。するといきなり明日から来れるかな? って言うのでボクはハイ来
ます! って言うとそれで合格でした。じゃ明日から来てね! それで
面接は終わりました。
家に帰るとお母さんに合格したから明日から会社に行くよ! って言
うと、お母さんは、じゃ今日はお祝いで大好きな特大餃子にするわね!
って喜んでくれました。そしてお父さんが帰ってくると夕食を食べ始
めました。あーこの餃子はいつ食べても美味しいなあ、何個でも食べれ
ちゃう。
夢中で食べていたら、お父さんがどんな会社だ? 何人いるんだ?
どんな仕事をするんだ? 質問攻めにあったけど全部答えられないでし
た。お父さんは呆れ返っていました、いったい面接で何を話して来たん
だ? って。ボクはただ社長の話をハイハイと聞いていただけなんです
、そう言えば給料いくらくれるのかなあ・・・・
わかりませんでしたが次の日の朝、コーヒーとパンの朝食を食べると
自転車に乗り出社しました。会社の玄関を入ると昨日のおばちゃんと社
長がいて社長は自分でコーヒー作る機械をいじっていました。社長さん
が自分でコーヒー入れるなんて偉そうな社長じゃなくて良かったなあっ
て思いました。
そして社長が社員の皆さんを呼ぶと今日からこちらで働くことになっ
たから仲良くしてあげてちょうだいね! と紹介されボクはかんばって
働きますのでよろしくお願いします! って挨拶すると一人ずつ紹介さ
れて挨拶は終わりました。
皆さんは机に戻ると仕事を始めました。ボクの席は玄関の端にあって
とりあえず座っていたら、社長がやって来てねえねえ知ってるかなあ・
・・・ って言ってきたので仕事の話かと思ったら、外国で建物が倒れ
たニュースの話でした。ボクはハイハイって聞いていたら社長は評論家
のような口ぶりでその話をし始めました。
ボクはそれをハイハイって聞いてたら、全部話し終わると満足して席
に戻って行きました。ボクはいったい何の仕事をしたら良いんだろう、
何をしろと言われてもいないし、何をしたら良いのか聞いて良いものか
もわかりませんでした。
しかたなくボクは設計のコーナーに行きこれは何ですか? って聞い
たら電気の木森さんがバッタだよって教えてくれました。緑色した人差
し指くらいの大きさで頭の部分をコンコンってたたいたら、目玉がピカ
ピカ光りだして、そしてピョン! ってジャンプしたんです。
あっ、ジャンプした! そしてそれを興味深く見ました。すると飛ぶ
瞬間にバッタ! ってバッタさんがしゃべり始めました。はああ、しゃ
べったああああ・・・・ すると電気の木森さんはアイシーが入ってる
んだって説明してくれました。すごいなあアイシー、アイシーってなん
だろう・・・・
テーブルの上を右回転してジャンプしながらバッタさんがバッタ・・
・・ バッタ・・・・ って自己紹介しながらジャンプするんです、ボ
クは良く転ばないなあって言ったら、機械の添山さんがそうなんだよ、
ジャンプはモーターとゼンマイで簡単だったけど着地がうまく行かず苦
労したんだ・・・・ って。
2人の説明を聞いてボクはすごい技術の会社だなって思いました。で
もバッタさんの声が暗いなあ、とも思いました、もっと明るい感じでし
ゃべれば良いのに、これじゃつまらなくジャンプしてるようで気分が滅
入ってきそうです、明るい声にするにはアイシーの高いやつが必要なの
かなー?
ボクは仕事のじゃまをしてはいけないと思い、2人にありがとうござ
いました! とお礼を言うと席に戻りました。ボクはこれから何をした
ら良いんだろう・・・・ するとまた社長がやってきてどこそこの会社
の社長が脱税で逮捕されたよ! って嬉しそうに言って来たんです。
社長の机の上には小型のテレビが置いてあってそれを見ていて何かあ
るとボクの所に来るんです。そして解説委員のような口ぶりで話しを始
めるのでボクはハイハイっておとなしく聞くだけでした。ボクの仕事は
社長の話を聞くことなのかなあ・・・・
社長の話を聞いていたらお昼になりました。ボクはお昼を食べに家に
帰りました。するとお母さんがどうだった? って聞くのでボクは社長
の話をずっと聞いていただけだよって言うと、社長さんなんだからちゃ
んと話を聞かなくちゃだめよって言われました。
お昼を食べ終わって少し横になって休むとまた自転車に乗って会社に
行きました。ボクは席に座ってじっとしてると仕事が始まりました。と
いってもすることが無いので席に座って携帯画面を眺めていたら玄関か
ら社員らしき人が入って来たのでボクはこんにちは! って挨拶をする
と、ウエッ・・・・ と言い奥のほうに入っていき席に座りました。
すると経理のおばちゃんの三下さんが岩口さん今日は早いですね!
って言うと、仕事があるんで早く来たと言いパソコンのスイッチを入れ
ると、コンビニ袋の中からおにぎりを1個出してそれを食べ始めました
。すると社長が来てボクを呼んだので行くと、営業の岩口くんね、そう
紹介されたのでボクはよろしくお願いします! って挨拶をしました。
すると岩口さんはまた、ウエッ・・・・ と挨拶するとパソコンの画
面を見るなりいつもの絵が出てこない! って騒ぎ始めたんです。社長
はそのまま自分の席に戻ってしまったのでボクはどうしたんですか?
って聞くと、いつもはここに絵が出るはずなのに今日は出てない! っ
て言うんです。
ボクはすることもなかったので岩口さんの説明を聞きました。どうや
らそれはパソコンに入っているゲームのことのようでした、いつもこう
やってスイッチ切って帰るんだが、今日入れたら絵が消えて無くなった
って言うんです。
ボクはスタンバイで切っていたのが何かのエラーで通常起動しただけ
だと思いました、そしてそのゲームのアイコンをクリックするとフリー
セルの画面が出てきて、ああなおった、ありがとうって言うとおにぎり
を食べながらゲームし始めたんです。
ボクは席に戻って何か仕事無いかなあって思っていたら、また社長が
やってきてさっきのニュースの事件の続報をボクに解説し始めたのでボ
クはまたハイハイって話を聞きました。一日テレビをずっと見ている社
長に、午後からやってきてフリーセルやっている営業の岩口さん、変な
会社だなあーって思いました。
その日はそれから社長が何回かやってきてテレビを見た感想をボクに
言ってきたのでハイハイってその話を聞きました。設計の木森さんと添
山さんはパソコンで設計図を書いたり、これから発売されるジャンピン
グバッタを分解しては組み立てをくり返していました。
夕方になるとフリーセルやっていた岩口さんは、じゃ今日はこれでっ
て言って帰って行きました。その後、経理の三下さんと社長が帰って行
ったのでボクもすることが無くて設計の2人に帰りますって言うと自転
車に乗り家に帰りました。
その日の夜にお父さんとお母さんからどうだった? って聞かれたの
でボクはジャンピングバッタの話をしたら呆気に取られていました。明
日と明後日は土日なので会社はお休みです、また月曜日からボクはがん
ばって仕事に行くつもりです。
そういえば給料いくらくれるのかなあ・・・・・・