01
日本の空の玄関である羽田空港から出てキョウスケのお母さんとの待ち合わせ場所であるタクシー乗り場へ行くと、予約と窓に張られたごく普通のタクシーが待っていた。その横には、黒に近い灰色のスーツに身を包んだ紳士がまるで執事のように立っていた。
「直木遥飛さん、今野京佑さん、瀧川彩香さんですね?」
その紳士の言葉に3人とも少し戸惑いながら、ハルトが答えた。
「え…そ、そうですけど…」
「親御さんが来れないということで、代わりにお迎えに参りました」
紳士は少し笑みを浮かべて言った。
キョウスケは不審に思ったのか、ズボンのポケットの中に手を入れた。そして、こっそりと背中の方に手を回して、私にケータイを渡してきた。「トイレに行って、電話して確かめてくれ」メールの入力画面にそう書いてあった。
私は、ケータイを制服のスカートのポケットの中に紳士に見つからないようにこっそりと入れて、「ちょっとお手洗いに行ってきますぅ」と言って走って空港の中に入っていった。
トイレの前で着信音の情熱大陸がなったので、通話ボタンを押すと「何グズグズしてるの?今一体どこにいるの?駐車場でどれだけ待たせるの?」とキョウスケのお母さんの大声が聞こえた。
「お…落ち着いてくださいっ!」
「あら、彩香ちゃん。どうしたの?」
急に人格が変わるキョウスケのお母さんは、黙っていれば美人だが、気を抜くと口が悪くなるために周りからは厄介者扱いをされている。うちの親も、そういう扱いをしている。
今日もまた、口調が急に優しくなった。
「すみません、ちょっと用事ができちゃったので、先に帰っていてください」
「高速使って来たんだけど、その料金どうするつもりなのかしら」
少し困ったように笑いながら言っているのがスピーカー越しに聞こえる。
きっと心の中では包丁を構えているのだろう。
「大丈夫です、呼び出した人に請求しますから」
本当にできるのか分からない言葉で安心させて電話を切り、タクシーへと向かう。
この会話により、灰色のスーツの紳士はメイザー•ジグソーかその仲間だと確信した。
急いで怪しいタクシーに向かうと、灰色スーツの紳士は同じところに立っていた。
「お待たせしました」
「では、発車します」
そう言ってにこりと笑うと灰色スーツの紳士は運転席に座り、エンジンをかけ、高速道路へと向かっていった。
●
3人の天才中学生とその人たちの荷物と運転手を乗せたタクシーは、天才中学生3人が見たことのない場所に首都高に乗って向かっていた。方向的には墨田区だが、残念なことに3人とも東京生まれ東京育ちなのに墨田区にはあまり行ったことがないために行っていたとしても記憶がない。
「ここは、どこですか……メイザー•ジグソーさん?」
私は勇気を振り絞り、タイヤと地面がぶつかる音しかしない車内に疑問をなげかけた。
「少し、勘違いしていますね……メイザー•ジグソーは組織の名前です、天才という地位をいろんな人に渡すための」
紳士は少し笑いながら、ハンドルを右に切ってウインカーを付けずに右車線に入った。
外にはスカイツリーと東京タワーが見える。その間に高層ビル、観覧車などが並んでいる。
メイザー=mazer
→メイズをする人
ジグソー=zigsaw
→ジグソーパズル
メイザー•ジグソーは、一体何を企んでいるのだろう。「殺す」なんて言うのであれば、どうして凶器を出さないのだろう。
言葉もかなり優しい。凶器と考えられるものはなに一つない。
そして、天才中学生3人とその人たちの荷物と運転手を乗せたタクシーがついた所はスカイツリーが見えるガラス張り、空の模様が見えて屋上と空が一体化したような高層ビルだった。