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第五話 透明人間、活動する

「あんたばっっかじゃないの!?」


先程まで確かな親しみのあった瞳からその暖かさは消え失せていた。


「馬鹿じゃない。本気だ。俺と一緒に裸のユートピアに行こう。俺とお前なら何処にまでも行ける」


俺の言葉に百合亜はびくんびくんと痙攣するほど驚く。


「そそそそそ、それれれは、あたしに、ぬ、脱げってこと!?」


何を馬鹿なことを。そんなことをしたらセクハラじゃないか。


「ぼっち女が常識を考えろ。そんなことを強いるはずはないだろう」


百合亜は不快そうに顔を歪める。


理解不能なのだろう、それゆえに怒りが彼女の中にめらめらとたまっていくのがわかる。


「じゃあ何をさせるのよ!?変態性欲を満足させる為にあんたの全裸でも観察しろっていうの?さいってい!!きーも介!きもすけっ!きもきもきもすけっ!」


はぁ全く。俺は心からお前のためを思って言ってやってるのに。


「それは違うぞぼっち女」


「何がよ!」


ぐるるる、とまるで少し信じかけていた人間から手酷く裏切られた犬のように唸りながら百合亜は聞き返す。


「人は裸で生まれた。それは我々の包み隠さない虚飾を取り払った真実の姿。ダヴィデ像の肉体の美しさを見ろ。美術において裸体とはたびたびテーマになるものだ。それはそこに描かなければならないものがあるからだ。全裸には人の真理がある。知恵や化粧では誤魔化せない人の本質が。何故俺達は愛する異性の裸を見たいのだろうか。そこに愛する者の真理を見るからだ。人は真理に触れる時、多くを学ぶ。青春という黄金時代を怠惰に過ごすお前に、俺と共に人類の深淵を学ぶ機会を与えようというのだよ」


「わけのわからないことをドヤ顔で言うなぁ!」


ズガァン!!


サイコキネシスで投げ飛ばされる。いてて。手加減はしてくれてるみたいだけどさぁ。


見られたら困るんじゃないの?もっとコントロールしようよ。あ、出来ないからぼっちなのか。


「ととと、とにかく!そんな変態な部活には入らないですからー!!」


そう言って走り去っていく百合亜さんであった。


◆◆◆◆◆◆


「なんであんた全裸でついてきてんのよ!!」


そう、俺は直帰する百合亜さんの横を歩いていた。全裸で。


「俺が透明になっているのを忘れるな。逢坂。あまり大きな声を出すと周りから最高に頭がおかしいぼっち女に思われるぞ」


少し頭の足りない百合亜さんに注意してやる。


「うぎぐぐぐ、うぎぃいい」


ぎりぎりと凄まじい音がするが、何処かで工事でもしているのだろうか。


「隣で全裸のクラスメートがるんるんスキップしてるなんて頭がおかしくなりそうよ」


百合亜がはぁ、と溜め息をつきながら呟く。


「なぁに、記念すべき我々全裸研究会の初めての活動だ」


「初めて!?」


何故か変なところに驚く百合亜。


「ああ、初めてだがどうした」


「え?前から活動してたんじゃないの?」


「何を馬鹿な事を。全裸研究会は逢坂百合亜に全裸になる解放の素晴らしさを教えることだ。最終目標はお前を裸族にすることだ」


ぶふぅ!と百合亜が吹き出す。


一人で突然に吹き出した百合亜は周りの人々から奇異な目に晒される。


「どうしたいきなり。変なものでも食ったか」


吹いた衝撃から立ち直った百合亜は俺の頭をはたきながら突っ込む。


「あたしにそんなものを教えるために変な研究会を立ち上げるなっ!」


百合亜が大声を出したから周りの人々が訝しげに彼女を見ている。


羞恥からか、熟した林檎のようにかーっと赤くなる百合亜さん。


「やれやれ。ぼっちは感情コントロールが下手だから困る」


「……ぼっちだからじゃないもん。これがあたしの性格だもん」


「もんが高校生にもなって許されると思うなッ!!」


「ちょ、ちょっと止めてよ大声は。不審に思われてるから……」


「高校になっても許されると思うなッ!!」


「……もうやだ……」


俺は近くの公園に涙目の百合亜を連れていく。


「全裸を謳歌する俺を見ろ。それが今日の活動だ」


にこやかに笑いながらそう言う俺を絶対零度の視線で見つめる百合亜さん。


幼女達に混じって逆上がりをする俺。全裸で。


心底汚ならしいものを見る目の百合亜さん。


花壇で横になり、花を見る小学生女子達に微笑む俺。全裸で。


吐き気がするほど汚ならしいものを見る目の百合亜さん。


歓談するマダム達の飼い犬から吠えられ、驚き逃げる俺。全裸で。


虫けらを見るような目の百合亜さん。


あれ、お兄さんなんだか新しい何かに目覚めそうだよ百合亜さん。


「どうだい逢坂。全裸の素晴らしさ、伝わったかな?」


おかしいぜ。百合亜さんとは仲良しさんになったはずなのに性犯罪者を見つけた警察官みたいな瞳を俺に向けてくる。


「ええ伝わったわ。あんたが変態で最低最悪の人類史上見たこともないほどの劣悪な性犯罪者ってことがね。悪いとは欠片も思わないけど、ごめんなさい、明日からは二度と話しかけないでね変態」


「えっ!?」


そうやって俺と百合亜が心暖まらない交遊をしていると。


「きゃあああ!!!!」


小学生の女の子が黒いジャージの男から車に連れ込まれる。


唖然とする周囲の目を振り切るように車はすぐに発進する。


白昼堂々の誘拐だった。

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