④ 鳥族と猿族の雑種
その道場は武蔵の希望で、天井高を通常よりかなり高く設計されていた。言わば、ちょっとした体育並みだったのである。
その注文理由は、やはり、武蔵自身が、縦方向への動きを、彼の武術に取り入れていたからであった。
しかしその特殊設計すら、伊織の肉体的なポテンシャルの前には、全く足りなかったのだった。
しかも、今の彼は全力を出していない。
本気でやったら、一体どうなってしまうのか。
今後の成長も、末恐ろしいモノが期待された。
「…以上だ。今後一切、儂に教えを請う事を禁ずる。」
「しかし、父上…。」
「クドいぞ!だが、武道以外なら、今後いくらでもチカラになってやる。儂を頼って良いからな。」
武蔵は最後に、優しくそう言うと、先に道場から出て言ってしまった。
残されて伊織は、暫くの間、その場に座ったまま、
一人で静かに涙を流していたのだった。
と、そこへ、廊下の片隅で、一部始終を聞いて居た、カグヤが入って来た。
「伊織…。」
「母上様…。」
「ごめんなさいね。今起こった事は全て、私のせいなの。」
「母上が…なんで?」
「私が、ニンゲンではないからなのよ。」
「えっ。」
「見た目は似ていても、私は有翼人種である鳥族の末裔。つまりアナタは、トリとヒトとのハイブリッド…つまり混血なのよ。」
「そう…なんですね。」
「しかも私は、その中でも戦闘に特化した一族。そして古来から、純血種より、雑種の方が優秀な個体が生まれるとされている。アナタは、その最たるモノなのよ。」
「…。」
伊織はもう、何も言えなかった。
「武蔵様だって、決してイジワルな気持ちで、あんな事を言ったりしないわ。彼だって実の息子に自分の技を伝授したかったはず…でもソレ以前に、アナタの肉体的なポテンシャルが高過ぎるのよ。"柔良く剛を制す"とは言うものの、チカラの差が大き過ぎるのよ。」
実は、その影響はそれだけに留まらなかった。
彼は頭脳も、ずば抜けて優秀だったのだ。
彼は江戸時代の書物を次々に読破して、あらゆる方面の知識を、あっと言う間に蓄えた。
そして、程なくしてそれを、都市計画や、上様の政始に活かすことが出来るようになっていたのだった。
武蔵からの推挙を待つまでもなく、彼の明石藩主、小笠原忠政の近習に出仕する事は、いつの間にか、待望されるようになっていた。
歴史の記録では、15歳で初出仕とされている…もちろん、見かけ上の年齢と、自己申告によるモノであるが…ホントは6歳ですとは、口が裂けても言えない事であった。
因みに、彼の出自についても、もちろん真実は明かせないので、カグヤが適当にでっち上げた記録をもとに、申告されたのであった。
もっとも、実子ですと仮に言ったとしても、二人のパーソナリティの違いから、誰も信じないであろう。
もちろん伊織のニセの故郷に、その種の記録を忍ばせて、歴史的な矛盾を隠した事は、言うまでもない。
それは、いつも抜かり無い、サン・ジェルマンのアドバイスに基づくモノであった。




