㉓ 初めての共同作業
「最後に注意点として…。」
サン・ジェルマンが付け加えた。
「この装置は、本体を中心とした、半径1mの球体内部に居る、人物とそれに附随するモノを移動させます。ですので、その場にしゃがんで、二人で肩を抱き合う姿勢で使用する事を、オススメします。あと、効果は限定的ですが、簡易の光学迷彩を掛けたり、電磁防壁を張ったりも出来ます。それと、空中の座標は設定できませんので、あしからず。」
沢山の付け足しを述べて、ニッコリ笑うと、彼は雪子に用事があるからと、部屋を出て行った。
残された二人は、お互い顔を見合わせていた。
「さて、何処へ行きましょうね?」
カグヤが言う。
「実はボク、会いたいヒトが居るんです。」と成雪。
「あら、誰かしら?」と、少しワクワクして訊くカグヤ。
「それは…東洲斎写楽というヒトです。」
「えっ!?」
「かつてのこの国の、浮世絵版画の中でも、作風が独特で興味深いんです。それに作者本人も、何だか正体不明で、謎めいていて惹かれるんです。」
「…それはまた、お目が高いと言うか、何と言うか…。」
カグヤは、何故かドキドキしながら、彼の好奇心に答える事にした。
「手掛かりのデータが少ないから、およその座標になるわよ?」
「うん。それでもかまわないから、彼の居た時代を見たいな。」
「分かったわ。やってみましょう。」
そして彼女は、その小さなタイムマシンの操作盤に、以下の座標を入力したのだった。
正暦1794年4月15日
07時00分
北緯35度40分
東経139度46分
目指すは、写楽に逢えるかもしれない場所だ。
「あ、ちょっと待って。」
カグヤは、大事な事を思い出した。
「まず、現在のこの部屋を、出発点として登録して、と…あと、コレ着けて。さっき雪子さんにもらったの。」
彼女はそう言うと、腕に装着する黒いリングを彼に渡した。
「座標画面に照合しながら、スイッチを入れてみて。」
成雪がソレを左腕に着けて、言われた通りにした。
すると、着ている服があっと言う間に、江戸時代の町人風になったのだ。
「わあ、凄いや。」成雪は感心した。
「でも、ソレ、気をつけてね。光学迷彩のチカラで、見た目だけの変化だから。あと、通信機も兼ねているから、無くさないでね?」
「ああ、なるほど。」
彼にそう言った後、彼女は自分も、町娘に変身した。実を言うと、ついさっき、雪子に予言されといたのだ。彼はきっと、江戸時代に行きたいと言うと。そして、そのためのアドバイスと、準備までしてくれたのだ。
「どの時代でも万能のおカネ、砂金も持ったし、さあ、今度こそ、出発よ?」
カグヤはそう言うと、時空転位装置のスイッチを入れたのだった。




