② 武蔵道場
その頃の宮本武蔵は、明石藩主に許されて、客人扱いとなり、武道の師範を任されていた。
城下町に道場を構え、御家来衆に、稽古をつける日々を送っていたのだ。
まさに、そこへ、伊織を連れたカグヤ・イシュタルがやって来たのだった。
「ご無沙汰しております、武蔵様。」
「おお、カグヤではないか。久しいな。アレから何年ぶりかのう?」
「この惑星の時間軸に合わせて言うと、14年ぶりですね。」
「そちらに控えておる若者は誰かな?」
「武蔵様、アナタの息子ですよ。」
「えっ、…。」
言われた彼は、頭の中で、もう一度離れていた年月を、指折り数えていたようだった。
「あ、ああ、確かにあの時の子だとしたら…しかし、まことか?ニワカには信じられぬ。」
伊織の外見は14〜15歳だったが、実際には、生まれてから5年しかたっていない。その件を説明すると、かえって要らぬ疑念を抱かれそうなので、カグヤは黙っておく事にした。
「そうならそうと、何故今まで、なんの沙汰も無く、黙っておったのじゃ?」
「それは…武蔵様の修行の邪魔になってはイケナイと考えました故…敢えて控えていた次第です。」
「そうか。それは済まなかったのう。これ、もそっと、近くへ参れ。」
武蔵に言われ、伊織はカグヤの前に出る。
「そちももう、名は付けられているのだろう?何と言うのだ?」
「はっ。父上、お初にお目にかかります。私は、宮本伊織と申します。」
「そうか、そうか。随分賢そうな少年だのう。カグヤに似たのかのう。」
武蔵は笑顔になり、目を細める。
彼の中の、昔の野獣じみた感じは、随分影を潜めていた。武家の仲間入りをしたせいだろうか?
「武蔵様、随分優しくなられましたね?」
カグヤもソレに気づいて言う。
「我ながら、すっかり最近は、ニンゲンらしい生活をして居るからな。食事は一日に二回摂るし、風呂にも入るようになったし、着替えもする。」
「まあ、それは、ようございました。これからは、伊織の父上として、健康を第一に考えて頂きたいものです。」
「…その件だがな、カグヤ。」
「何ですの?」
「修行に明け暮れていたはずの儂に、"実は隠し子が居ました"、なんて話になるのは、色々と具合が悪い。済まんが、伊織は、儂の養子という扱いにしたいのだが、如何かのう?」
「…今まで、何の連絡もしなかった私も悪いのですが…伊織の気持ちは…どうなるのでしょうか?」
「母上様、私は構いません。父上の迷惑には成りたくない故…。」
この年齢にして、早くも物分かりのイイ伊織少年は、そう言って、この件を承諾したのだった。
「うむ。助かる。ただし、オマエには、儂の一番弟子という立場を与え、機会があれば、上様に進言して、出世の道も開こうぞ。かく言う儂も、度々誘いのお言葉を戴くのだが、儂は政治と言うモノが、ホトホト苦手なのじゃ。」
武蔵はそう言うと、また笑顔になったのだった。




