⑰ 最愛の彼に入力を
「…いかがですかな?」
少し得意気な顔のサン・ジェルマン。
「いかがですかな、じゃないわよ!」
弓子は、引き続き怒っていた。
私は聞いてないわよ?こんなの!
「そうですね。事前に弓子さんにも、賛同を得るべきでした。済みません、私のミスです。」
伯爵は、直ちに過失を認め、速やかに謝った。
「謝られたからって…もう、どうしようもないじゃないの!」
弓子の怒りは収まらない。
「済みませんでした。私のワガママのせいなんです。」
そう言うカグヤの事情は、先程聞いたばかりだ。
「だからって…こんなの…ズルい。」
弓子の声が段々小さくなる。
今回の場合、花婿第二候補だった宮本武蔵を亡くし、途方に暮れていたカグヤの事を見かね、ついウッカリ、"私なら、その悩みを解決できそうだ"と口を滑らせたサン・ジェルマンがワルイ…のだろう。
彼の、マッド・サイエンティストとしての、血が騒がなかったと言えば、ソレは嘘になる。
彼自身、機会があれば、ソレを…人体のクローン生成を、いつかやってみたかったのだ。
「この雪村君2号には、敢えて本人との差異を設けてあります。それは、見ての通り、髪色とホクロ、そして寿命は、カグヤさんに合わせて、テロメア調整で300年に伸ばしてあります。」
弓子の事は取り敢えず置いておいて、カグヤに説明する伯爵。
「ですからカグヤさんは、彼を惑星ニビルに連れ帰って、どうぞお二人でお幸せに。ただし、この惑星ガイア…つまり地球での活動は、今日この場が最後です。それなら、よろしいですね、弓子さん?」
サン・ジェルマンにそう言われた弓子は、「…それなら。」と、渋々承知したのだった。
「あと、この雪村君2号は、基本的に、まだ中身が空っぽの、赤ん坊のようなモノです。ですから、あらゆる知識のインプットは、カグヤさんの肩にかかって居ます。彼が今後どんな人物になるのか、責任重大ですよ?」
「よく分かって居ます。ソレを承知で、無理を言って伯爵にお願いしたのですから…この度は、本当にありがとうございます。そして、弓子さん、驚かせてしまって、ごめんなさい。もう彼に会わせる事も無いから、安心してね。」
「分かったわ。きっと約束は守ってね?」
「大丈夫ですとも。」
カグヤはそれを請け負った。
「さてカグヤさん。折角ですから、彼を連れて帰るにあたって、最後にみんなの前で、彼の名を決めて頂けますか?」
「はい。もう決めて来ました。真田雪村2号の今日からの名は…。」
なぜだか皆、固唾を飲む。
「…成雪・イシュタルとします。成り行きでワタシのところへやって来た、というダジャレなんですけどねっ。」
そう言ってカグヤはテヘペロした。
どうやら彼女は、歓喜の余り、ヘンなテンションになっているようだ。
そこに居合わせた一堂も、ソレを見て、どんなリアクションが正しいのか、もはや分からなくなっていたのだった。
ともあれその後、カグヤ・イシュタルは、"雪村2号改め成雪"を、無事、自分の故郷の惑星ニビルへ、連れて帰って行ったのである。
そんな訳で、紆余曲折あったが、結局、最初の彼女の願いが、曲がり成りにも叶う事となったのだ。




