⑭ 浦島太郎
移動中、好奇心から、カグヤが青年に語りかける。
「今からイイところへ連れて行ってあげるわ…ええっと、そう言えば、まだ名前も訊いて無かったわね?」
「ああ、オラは浦島と言います。」
「下の名前は?」
「死んだ母からは、確か太郎と呼ばれていたな。」
(まあ、ずいぶんと、簡素な名前だこと…でも何だか聞き覚えが有るような…?)カグヤは思った。
彼女のかつての対戦相手に、キンタロウとモモタロウが居た。多分、既視感は、そのせいである。
ミケーネの円盤は、例によって、イシュタル宅前に横付けされて停泊した。
カグヤは、ドア・トゥ・ドアで浦島太郎を自宅へ案内すると、彼女の母が、腕によりをかけて、滋養強壮に良い料理をドンドン出した。
そして、頼もしい事に、浦島は、それをドンドン平らげた。どうやら普通の青年以上の、食欲・性欲のポテンシャルはあるようだった…ま、どの道、武蔵には叶わないのだが…。
彼は、夜はカグヤの伽の相手となり、昼間はひたすら美味しく料理をいただく、という毎日を、気づけば、数限り無く繰り返したのだった。
そんなある日、浦島は言った。
「そろそろ、故郷に帰りたくなって来たな。」
「そうね。もう、潮時かもね?」
カグヤも別に引き留めたりはしなかった。
彼女はまた、リングでミケーネを呼ぶと、浦島太郎を、故郷に送り届ける事を依頼した。もうすっかり、超時空タクシー扱いである。
それでもイヤな顔一つ見せず、甲斐甲斐しく働くミケーネが、いじらしくなるのは、読者も同じであろう。
さて、故郷にたどり着いた浦島は、宇宙船を降りる時に、器用な猫から、30cm四方程のサイズの箱を渡された。任務を果たした猫は、手を振ると船内に戻り、空の彼方へ去って行ったのだった。
浦島が箱を良く見ると、小さな貼り紙が付いていた。そしてソレには、こう書かれていた。
浦島太郎様
楽しい日々をありがとう。
おかげ様で、イイ気晴らしになりました。
私とまた会って、楽しみたい気持ちなら
この箱は、この先一生開けないように。
でももし、故郷の環境に合わせたいなら
箱を開けると良いでしょう。
私としては、開けて欲しくないけど
貴方の夜の友人 カグヤ・イシュタル
浦島は箱を持って自宅へ帰ったが、その場所は、すっかり廃墟になっていた。
慌てた彼は、急いで村だった所に行くが、そこにも見慣れない、やたらと背の高い家が立ちならんでいたのだ。
それどころか、道にはたくさんの、馬の居ない馬車が走り、空には、見た事も無い大きな鉄の鳥が、飛んで居たのだ!
コレが、世に言う"ウラシマ効果"なのである。
すっかりパニックになった彼は、ついには、開けてはイケナイ箱のフタを開けてしまったのだった。
すると、あれ程たくさん食べた滋養強壮の食べ物の効果が見る見る無くなり、あっと言う間に、ヨボヨボの老人になってしまったのだった。
この彼の逸話が、いつの間にか二つの物語に別れ、"天の羽衣伝説"と、"竜宮城で玉手箱を貰う話"になって伝えられたの事は、読者の皆さんの知るところなのである。




