⑪ 天の羽衣
そんな或る日の事だった。
両親の前では明るく振舞っていても、ずっと失意の中に居たカグヤは、突然思い立って、猫王子のミケーネを呼び出した。
ミケーネはすぐにやって来た。
「やあ、久しぶり。少しは元気になったかい?」
彼が優しく尋ねると、彼女はこう言った。
「ねえ、ミケーネ。私、もっと地球人の…日本人の事を良く知りたいの。武蔵様より少し昔の時代に、連れて行って下さらないかしら?」
「お安い御用だよ。」
ミケーネとしては、彼女が元気になるなら、何でもしてやりたい気分だった。彼は元来、思い遣りの有るオトコなのである。
彼は、カグヤを船に乗せると、操作パネルに、早速目的地の入力をした。
並行宇宙 No.xxxxx
西暦 700年7月20日火曜日
23時00分
北緯35度33分
東経135度10分
「じゃあ、出発するよ。」
彼はそう言うと、時空転位装置のスイッチを入れた。
「ところで、カグヤさん。」
「なあに、ミケーネ?」
「今日のその衣装は、また格別に素敵だねえ。」
「ああ、コレ?一応これでも普段着なんだけど…今まで武蔵様に合わせて、巫女服や町娘の着物ばかりだったから、アナタの目には、新鮮かも知れないわね?」
「なんて言うか…そう、"天の羽衣"って感じがするね。まるで女神様みたいだよ。」
彼は彼女の、その透明感の有るワンピースの様なファッションを、そう例えた。
ま、実際に彼女は、アヌンナキという神々の一角を担う事になるのだが…それはまだ、先の話なのである。
そんな雑談をしている内に、間もなく宇宙船は、丹後の国の"天の橋立"辺りの浜辺に到着した。
時刻は深夜だったが、カグヤが船内から出ると、風は無く。空気は暖かい。
「ここで少し待ってれば、その内に、地元の漁師の青年がやって来るよ。触れ合ってみるといい。飽きたらまた、連絡してね。じゃあ、ボクは一旦失礼するよ。」
そう言うと、ミケーネはすぐに、宇宙船を飛ばして去って行った。
一人で浜辺に残され、海を見て居たカグヤは、何だか無性に泳ぎたくなって来た。
そして彼女は、周りに誰一人居ない事を確認すると、例の羽衣を脱ぎ、全裸になって、本当に泳ぎはじめてしまったのだ。
この彼女の、常軌を逸したような行動を、読者はどうか許してやって欲しい。色々あったから、精神的に、かなり疲れが溜まっていたのだから…。
彼女の大きなミスは、解放感を求める余り、大事な通信用の黒い腕輪まで外した事だった。
そしてたまたま夜釣りをした帰りの、地元漁師の青年に、その姿を目撃されて居た事も、失敗だった。




