第六話:海洋都市トリトンと再会
⚓ 海洋都市トリトン
ノア・ノストラヴァの馬車が目指したのは、海洋国家ポセイダル連合王国の中でも有数の大都市、海洋都市トリトンだった。
強固な城壁に守られたこの都市は、海へと大きく開かれており、港には巨大な帆船や、漁師たちの小さな漁船がひしめき合っていた。潮の香りと共に、人々の活気ある声が響き、活気に満ちている。
その都市の城門を、一際目を引く真っ黒な馬車が潜ろうとしていた。
馬車には蝙蝠を模した特徴的な意匠が施され、御者席には銀髪の完璧な執事服を纏ったアルベルトが座っている。窓は厚いカーテンで覆われており、内部を窺い知ることは誰にもできない。
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城門の衛兵は、見慣れぬ黒い馬車に警戒し、入場の手続きで多少揉めていた。ノアは馬車の中で、そのやり取りを静かに聞いていた。
その時、外の喧騒が一気に高まる。
「道を空けろ!領主様のご一行だ!」
立派な鎧に身を包んだ騎士たちの一団が、外から城門へと近づいてきたのだ。騎士たちの後ろには、数台の馬車が続く。
その中に、ノアが先日街道でゴブリンから助けた、装飾の立派な馬があるのをアルベルトは確認した。
騎士団の一人が、門番とのやり取りを終えたノアの馬車に近づき、アルベルトと何やら短い会話を交わしたようだ。
騎士は、ノアの馬車の存在を衛兵に明確に伝えた。
「そこの馬車は、領主令嬢のお客様だ! 速やかにお通ししろ!」
衛兵たちは驚きつつも、すぐさま門を開けた。
貴族の機転
騎士は、ノアの馬車が門を通過する寸前、馬車の窓に素早く近づき、声を潜めて告げた。
「あの、お嬢様が、先日は命を救っていただいたにも関わらず、お礼も申し上げられず、大変失礼いたしました。お嬢様が、城でぜひお礼を申し上げたいと申しております。我々が先導いたしますので、このまま城の方へお越しください」
ノアは馬車のカーテンの隙間から、その騎士の顔を見た。真面目そうで、誠意が感じられる表情だ。先日助けた令嬢、あるいはその家族が、ノアの素性を突き止め、感謝を伝えるために機転を利かせたのだろう。
ノアは、静かに返答した。
「承知しましたわ。アルベルト、この方達について行きなさい」
「はい、お嬢様」
アルベルトは深く一礼し、手綱を握り直した。
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黒い馬車は、騎士団に先導される形となり、人通りの多いトリトンの市街地を抜け、都市の中央にある領主の城へと向かった。
(領主令嬢の客、ですか。わたくしを客として城に招くとは、なかなか機転の利く貴族ですわね)
ノアは、胸元でミスリル製の鉄扇を小さく開閉させた。城という場所は、情報を集めるのに最も適した場所の一つである。彼女の流浪の旅の目的は、この世界の情勢を知ること。
「せいぜい、わたくしを楽しませてちょうだい」
幼女は、まるで全てを見通しているかのように、静かに微笑んだ。トリトンでの優雅な滞在が、始まろうとしていた。
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