第五十話(最終回):優雅なる伝説の向こう側
神話の終焉、あるいは混沌
魔王城の最深部で始まった、神祖ノアと魔王ダンテの激突。その結末を語れる者は一人もいない。
ただ、その日を境に魔国周辺では異常な現象が観測され続けた。
空には見たこともない極光が走り、魔王城の付近では何度も巨大なキノコ雲が立ち昇った。大地は激しく陥没し、山が消え、湖が生まれた。人々はそれを「神々の気まぐれ」と呼んで恐れたが、それは単に二人の規格外が、互いの優雅さと覇道を競い合った「お遊び」の余波に過ぎなかった。
戦いの後、魔王城は静まり返り、魔王軍の侵攻はピタリと止まった。魔王も、そして漆黒のドレスを纏った幼女も、表舞台からその姿を消したのである。
それから、数年の月日が流れた。
かつてノアの傍らにいた少女たちは、それぞれの道を歩んでいた。
ロザリアは、ノアから授かった膨大な魔力と自らの性質を昇華させ、「緑の聖女」として大陸中にその名を知られていた。彼女が歩く後には草花が芽吹き、死の土地と呼ばれた砂漠さえも、彼女の魔法によって広大な緑地へと姿を変えていった。
「お姉様……わたくし、この世界を貴女がいつ帰ってきても良いような、美しい場所にしてみせますわ」
彼女は今も、銀髪の幼女への深い愛を胸に、世界を癒し続けている。
一方、ミリアは聖王国の大聖女として、不動の地位を築いていた。
彼女はノアから学んだ「何者にも縛られない意志」を教義に組み込み、盲信に走りがちだった信者たちを、真に自立した道へと導いている。
「ノア様が教えてくださったのです。光も闇も、それを扱う者の気品次第なのだと」
彼女の執務室には、今も一枚の黒い羽が大切に飾られているという。
勇者神崎たちは、崩壊しかけたスルベニア王国を立て直し、本当の意味での「救国」を果たした。彼らの魂から洗脳の根は消え、今では謙虚な守護者として国を支えている。
そして、世界のどこか。
人間も、魔族も、誰もたどり着けない秘境の果て。
そこには、陽光を遮る巨大な樹の下で、優雅にティータイムを楽しむ一団があった。
「アルベルト。今日のスコーンは少し焼きが甘いですわよ」
「申し訳ございません、ノア様。次は完璧に」
そこには、変わらぬ姿のノア、完璧な執事アルベルト。そして、なぜかノアの対面に座り、苦笑いしながら茶を啜る魔王ダンテの姿があった。
「キノコ雲まで上げた挙句に、結局こうして茶を飲むことになるとはな。……ノア、やはり貴様は私の伴侶になるべきだ」
「ふふ、まだそんな下品なことを仰るのですか? わたくしは、わたくし。誰の所有物にもなりませんわ」
ノアは鉄扇を広げ、妖艶に、そして傲慢に微笑んだ。
彼女の異世界放浪記に「終わり」などない。この世界が、そして彼女の好奇心が続く限り、神祖ノア・ノストラヴァの優雅なる旅路は、永遠に続いていくのだから。
一応、最終話となります。




