第四十七話:悪魔将軍アスタロト
最強の四天王登場
ノア、ロザリア、ミリアを乗せた馬車は、荒野を抜け、ついに魔国の領域へと足を踏み入れた。周囲の空気は、濃密な闇の魔力に満たされており、ミリアの聖なる結界がなければ、人間には耐え難いほどの重圧だった。
その魔国の入り口で、ノアたちを待ち受けていたのは、魔王軍四天王第一席、悪魔将軍アスタロトだった。
アスタロトは、今までの野蛮な魔族とは一線を画していた。彼は、赤いスーツに黒いシャツという洗練された装いを纏い、尖った耳を持つ端正な顔には、モノクルが輝いていた。その眼は、強者としての余裕と、理知的な好奇心に満ちていた。
彼は、ノアの馬車の前に恭しく一礼した。その完璧な所作は、完璧執事たるアルベルトのその上をいっており、完璧の上に優雅であった。
「お初にお目にかかります、神祖ノア・ノストラヴァ様、私は悪魔将軍アスタロト。以後、おみしりおき願います。」
胸に手を当て、完璧な所作でお辞儀をした。
アスタロトは、ノアの正体を完全に把握した上で、敬意を払って接してきた。
ノアは、馬車の窓からアスタロトを見つめ、鉄扇を静かに広げた。
(洗練された魔力。理知的な判断力。そして、その優雅な立ち振る舞い。今までの下品な魔族とは比べ物になりませんわ)
それでも、ノアはアスタロトを脅威には感じなかった。アスタロトの放つ魔力は、確かに強大であったが、ノアの規格外の力と比較すれば、取るに足らないものだった。
ノアは、この場にいない、魔王城の奥深くにいる魔王の存在を感知してしまっていた。
(あの魔王の魔力……規格外ですわね。まるで、この世界そのものの闇の根源……彼の魔力に比べたら、あの悪魔アスタロトなど子犬に等しい)
魔王の圧倒的な存在感を前にしては、四天王第一席といえども、比較対象にすらならない。
しかし、ノアは、優雅に対応するのだと決めた。
礼儀には礼儀である。相手が敬意を持って接してきた以上、真の女王たるノアが、下品な振る舞いを見せるわけにはいかない。
ノアは、鉄扇を口元に当てたまま、冷たくも美しい笑みを浮かべた。
「ご丁寧な挨拶、恐悦至極。悪魔将軍アスタロト様。ですが、わたくしは急いでおりますの。ご用件がありましたら手短に済ませていただけますか?」
「くくく、まさかデイウォーカーの真祖にお目にかかれるとは。これは、魔王軍にとって最高の栄誉。神祖吸血にして、デイウォーカーたる、ノア様、そのお力、是非とも試させていただきますよ」
ノアは、アスタロトの試練と、その背後にある魔王の真意を探るため、女王としての威厳を持って対峙した。




