第四十五話:荒野の決闘?群れ対群れの激突
ノア、ロザリア、ミリアの三人を乗せた漆黒の馬車は、魔国へと続く荒涼とした荒野を進んでいた。勇者パーティはスルベニアへ、生徒会長は休学届の提出へと、それぞれ別の道を進み、ノアの周囲は束の間の静けさを取り戻していた。
しかし、その静寂は長くは続かなかった。荒野の地平線に、巨大な魔力の塊と、おびただしい数の魔物の群れが姿を現した。
「ノア様、魔族です!しかも、かなりの大軍!」ミリアが聖なる力を高めながら警告した。
その群れの先頭に立つのは、一人の魔族だった。全身を黒いローブで覆い、その顔は無数の影が渦巻いているようで、単一の個体ではない異様な存在感を放っていた。
「フフフ……ようやく見つけたわよ、デイウォーカーさん」
その魔族は、低い声で威圧した。
「私は、魔王軍四天王、第二席、魔軍参謀レギオン。私たちは群れであり、個であるのよ。この荒野で、あなたの旅路を終わらせてやるのよ!」
「なんでしょう、あれは、なんだか色々関わってわいけないような気がします」
レギオンと名乗った魔族は、頭にいっちゃいけないような形をした、ツノが生えて、ごっつい筋肉質の体にボンテージの衣装を纏っていた。今にも『フォー!』とかいいそうである。
そしてレギオンの背後には、数えきれないほどの同じような角の生えた虫が蠢いており、その圧倒的な数と魔力は、獣魔王軍団を遥かに凌駕していた。
「万の群れを味わうがいいわ! さぁ、あなた達蹂躙しなさい!」
レギオンの命令と共に、魔物の大群が砂塵を巻き上げてノアの馬車目掛けて突進してきた。
ノアは、この下品な数の暴力に対し、微塵も動揺しなかった。ロザリアとミリアを安心させるように、軽く鉄扇を開き、御者席に座る忠実な眷属に視線を送った。
「アルベルト。あなたに任せますわ。あの下品な連中に漢のなんたるかを教えてあげなさい」
御者席から降りたアルベルトは、ノアの言葉に深く頭を垂れた。
いつの間にか、革の衣装に着替えている。
「おまかせを、見事に調教してご覧に入れます。」
そう言うと、ノアから借りた、鞭をビシッとしごいた。
アルベルトは、やおら鞭を地面に打ちつけた。すると、どこからともなく、黒い雲霞が湧き出すように現れた。それは、黒光りする、小さな虫の軍団G――アルベルトの眷属だった。
アルベルトの眷属は、生命力と増殖力において、この世界の魔物の常識を逸脱していた。
レギオンの「万の群れ」は、個々の戦闘力においては優れていたかもしれない。しかし、アルベルトの黒い雲霞は、その数において、そして数の補充という無限の資源において、レギオンの軍団は全くかなわなかった。
黒い雲霞は、レギオンの魔物の群れに瞬時に到達し、一斉に襲いかかった。
レギオン達の体が食い破られ、最強を誇った硬い殻はが溶かされ、その魔力が小さな虫たちのエネルギーへと変換されていく。一匹の魔物が倒れる間に、千匹の虫が新たに増殖し、レギオンの軍団を圧倒的な勢いで飲み込んでいった。
「な、なんです、この数は!?こんなのは対処できない。私たちの数が、減らないの〜。それのなんなのこの凄まじい生命力、まるで・・・は……?!こんな、勝てるはずないわ〜」
魔軍参謀レギオンは、自らの最大の武器である「群れ」が、アルベルトの眷属「G」によって完全に無力化され、逆に駆逐されている光景に、戦慄した。
ノアは、馬車の中から、その光景を紅茶を飲みながらと共に眺めていた。
「ミリア、あなたの入れた紅茶もなかなかですよ。腕を上げましたね」
アルベルトの効率的かつ無慈悲な殲滅により、レギオンの軍団は跡形もなく消滅し、四天王レギオン自身も、本体である核を見抜かれ、黒い雲霞に完全に分解されていった。ノアの魔国への旅路は、またしても一人の四天王の屍の上に築かれたのだった。
「生まれ変わったら、漢とは何か語りましょう」
上半身裸に革ジャン姿のアルベルトのバックには何故か、岩肌に大きな波が押し寄せる背景が・・・
「遊んでないで、行きますわよ。アルベルト」
「はい、お嬢様」
こうして、ノアの旅は続く。




