第四十二話:残念皇子の再臨とスルベニア王国の終焉
ノアが聖王国で古代文献の読破と、学校の令嬢とお茶会などで交流を深めるという、優雅な日常を送っている中、学園都市アルカディアから遠く離れた聖王国の王都に、一台の派手な馬車が到着した。
中から現れたのは、あの生徒会長こと、アース帝国の皇子だった。しかし、彼の残念ぶりには、以前にも増して磨きがかかっていた。ノアに敗北し、壁のオブジェとなったあの瞬間、彼は新たな扉を開いてしまったようだ。
皇子は、ノアの神聖な図書館での読書時間に、畏れ多くも近づいてきた。
「ノア様、いえ女王さま。再びお目にかかれて光栄にございます!」
彼は、以前の自信満々な求婚者としての態度とは打って変わり、心底からの忠誠心と従順さを滲ませた表情をしていた。
そして、彼は懐から一つの品物を恭しく取り出し、ノアに献上した。
「どうぞ、女王さま。貴女のご威光を示すのにふさわしいかと……」
手渡されたのは、煌びやかな装飾が施された、トゲトゲの鞭だった。
ノアは、その品物と、皇子の歪んだ瞳を見て、心底呆れた表情を浮かべた。
「あなた、皇子の癖に暇ですの? そして、この趣味、一体どういうつもりです?」
どうやら、皇子はノアの圧倒的な支配力と冷酷な威圧感に打ちのめされた結果、新たな世界に目覚めてしまったようだった。
ロザリアとミリアは、その光景に冷ややかな視線を向けた。
(女王様……鞭……この方、本当に帝国の皇子様なのでしょうか……?)
ちなみに、彼の母国アース帝国は、優秀な第一皇女(皇子の妹)が次期女帝として継ぐことがすでに決定しているらしい。これでいいのか、帝国は。ノアは、帝国が優秀な後継者を選んでいることに、安堵と皮肉を覚えた。
その頃、大陸の西側、スルベニア王国では、ちょっとした、しかし決定的な事件が起こっていた。
王女の寝室から、ミイラ化した一体の女性の死体が発見されたのだ。装飾品とわずかに残された残留魔力から、それが王女本人であると断定された。
王女の男漁りと放蕩は王宮内では公然の秘密だったため、その凄惨な最期の経緯を慮り、国は体面を保つために、王女はあくまで行方不明と公表された。
程なくして、地下牢に監禁されていた国王も、かろうじて生きた状態で見つかった。しかし、彼の姿は、かつての野心に満ちたものではなくなっていた。痩せ細り、その目は澱んで虚空を見ている――いや、見えているかどうかも不明な状態だった。かろうじて生きているものの、それも時間の問題だった。
混乱を避けるため、直ちに王弟が国王に即位し、先王は「病死」と公表された。
しかし、すでに遅かった。
インキュバスが王女を通じて政治の中枢に放った「支配の種」は、既に国の官僚機構の奥深くで発芽し、権力構造の腐敗と崩壊に繋がっていくのであった。スルベニア王国は、ノアへの下品な干渉を行った報いとして、静かに、しかし確実に、終焉に向かい始めていた。




