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転生幼女吸血鬼異世界放浪記  作者: るうと280
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第三話:神祖の威厳と醜悪な幻

血塗れの対峙

月の光すら届かない、じめじめとした路地裏。

血を吸い終えたクリムゾン・ナイトメア(以下、ナイトメア)は、背後に迫る幼い気配を感じ取り、振り返ることなく声をかけた。


「のぞきとは、あまりいい趣味とは言えませんね、小さい同胞さん?」


その声は甘く、魅惑的で、男を虜にするのに十分な響きを持っていた。


ナイトメアの肢体は、体の線を強調する真紅のドレスと、同じ色のハイヒールによってさらに強調されている。膝まで届く長い黒髪も相まって、いかにも魅惑的な吸血鬼の姿だ。


しかし、ノアのオッドアイには、その姿が商売女のそれに見えた。


---


ノアは路地の石畳に静かに降り立つと、フリル付きの日傘を閉じて脇に挟んだ。


「同胞?冗談ですわよね?」


ノアの声は冷たく、そして明確な蔑みを帯びていた。下位種の吸血鬼にまともに挨拶する気など毛頭ないが、神祖としての貴族的な優雅さは隠せない。


「わたくし、あなたのせいで迷惑を被ってますの。責任を、取ってくださるかしら?」


ノアは静かに、しかし有無を言わせぬ圧力をもってナイトメアに問いかけた。


ナイトメアは、ノアの幼い姿と冷たい言葉のギャップに戸惑いつつも、すぐに得意の能力を発動させる。彼女の最大の武器は幻覚、そして夢の中で相手を翻弄し、絶望の中で血を吸い尽くすことだ。


ナイトメアの目が、血の色にも似た不気味な光を放った、その瞬間。


---


ノアの意識は、全く別の空間に引きずり込まれた。


そこは、血と硝煙にまみれた荒廃した世界。ノアの小さな身体は、巨大で醜悪な魔獣に取り囲まれる。

幻覚の中のノアは、魔獣に犯され、無残に喰い散らされ、やがてドロドロに溶かされていく──。


「ふふ、絶望と恐怖、そして快楽を味わいなさい。そして快楽の中で死になさい、小さい同胞さん」


幻覚が確実にノアを支配していると確信したナイトメアは、収納インベントリから、彼女の象徴たる巨大なデスサイズを取り出した。


勝利を確信した醜悪な笑みを浮かべたまま、ナイトメアは一瞬にしてノアの背後に回り込み、その首を刈り取ろうと鎌を振り下ろす。


---


夢の中に居たはずのノアの目は、光を取り戻している。そもそも、神祖たるノアに、下位種の不完全な幻覚魔法が通用するなど、ありえないことだった。


(つまらない幻覚ですわね。魔獣に犯されるなど…わたくしを誰だと思っているのですか)


ノアは、幻覚から覚めたことすら悟らせない、物言わぬ威圧感を放ちながら、右手に持ったミスリル製の鉄扇に、濃密な魔力を込めた。


そして、一閃。


キン!


乾いた音がした。


斬撃波などではない。ノアの能力は、空間そのものに作用した。


パキリと、何か固いものが割れるような音と共に、デスサイズごとナイトメアの胴と頭が、あっけなく分離した。


ナイトメアは、勝利を確信した醜い笑みを顔に残したまま、状況を理解できなかった。


胴体はすぐに、塵となって闇に溶けて灰と化したが、さすがはネームドの吸血鬼。頭だけでも、まだ生きていた。


「あ、あああ、た、助けて!ごめんなさい!命だけは、命だけは助けてくだs──」


地面に転がった頭は、恐怖に歪んだ顔で、必死に命乞いの言葉を吐き出す。


ノアは鉄扇を閉じ、その先端で転がる頭を軽く突いた。


「優雅ではありませんわね」


それが、ノアの最後の言葉だった。


ノアの周囲の闇魔法が、粘りつくような漆黒の液体となって、ナイトメアの頭を包み込む。


「これで、誰の邪魔も入らず、ゆっくりと旅立てますわ」


醜悪な吸血鬼の頭は、闇の中に沈み込み、静かに、そして完全に消滅した。


---


幼女の旅立ち


ノアは、黒いドレスについた微かな埃を払い、一仕事終えた満足感と共に、路地裏を見渡した。


「アルベルト。処理をお願いね」


「御意、お嬢様」


返事と共に、地中から現れたアルベルトは、すぐにこの場の処理に取り掛かる。


ノアは再び日傘を開き、夜空を見上げた。


「さあ、この騒動も片付きました。次はどこへ行きましょうか」


小さな幼女は、まるで闇夜の女王のように、優雅に、そして気まぐれに、夜の空へと飛び立った。異世界放浪の旅は、始まったばかりである。



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