第三十六話:スルベニアの暗雲と魔族の刺客
勇者パーティを学園都市に送り出し、ノアの監視と「入手」を命じていたスルベニア王国の王女は、今、王城の一室で、ある男性とベットを共にしていた。
その男は、少し浅黒い肌を持ち、この大陸では珍しい異国然とした風貌をしていた。その瞳の奥には、勇者にも劣らぬ、あるいはそれを凌駕する冷たい魔力が宿っている。
そして、その目は、人でないことを語っていた。
王女は、生来の男好きであった、弱い10歳にしてすでに寝室に男を呼び込んでいた。現在16歳、すでに経験数は3桁に到達するほどであった。男を甘言と肉体で惑わせ、自分の政治的な目的や個人的な欲望のために騙して動かすことを得意としていた。それは、勇者・神崎傑を盲目的に従わせていたことからも明らかだ。
しかし、今回は違った。
王女は、男の甘い声と、官能的な言葉に誘惑され、自ら進んで彼の寝室に招き入れてしまった。そして、一度関係を持った王女は、まるで魅了されたかのように、その男に溺れていたのである。
「所詮、人間、簡単だな」
男は隣で眠る、王女の顔を見ながら細く笑んだ。
この男の正体は、上位魔族の一種、インキュバスであった。彼は、人間社会の中枢に潜り込み、人間を内側から支配することを目的としていた。
インキュバスの支配下に入った王女は、政治にも積極的に口を出すようになった。彼女の言葉は、以前よりも鋭く、冷徹になり、国の政策は魔族の都合の良い方向へと歪められていった。
実は、勇者パーティを学園都市へ遠ざけたのも、このインキュバスの策略によるものだった。
(勇者など、邪魔な駒でしかない。勇者がいれば、王女の魔族への献身が揺らぐ可能性がある。ノアという未知の存在の監視を口実に、遠ざけておくのが得策だ)
インキュバスは、王女を通じて、勇者パーティと、まるで正体が掴めないノア・ノストラヴァという存在の抹殺を決定した。
「もう、用済みになった勇者たちも、ノアとかいう奴も、この大陸には不要だ、これからは我々がこの世界の覇者となるのだ。」
インキュバスは、彼の忠実な部下を呼び寄せ、新たな刺客を放った。
刺客は、王国の正規の暗殺部隊であり、勇者パーティを道中で始末することが命じられた。
しかし、インキュバスは万全を期すことにした。ノアの底知れぬ強さ、そして勇者パーティの持つ特殊な能力を警戒したためだ。
「失敗は許されない。貴様たちには、私の直属の部下を付けてやる」
インキュバスは、彼の部下である上級吸血鬼を暗殺部隊に同行させた。吸血鬼の魅了の力は、並の人間には抗えないものだ。彼らは、勇者パーティを魅了して内部から崩壊せ、ノアと共に確実に抹殺することが任務だった。
ノアたちが聖王国へ向かう旅路は、インキュバスの闇の陰謀と、上級吸血鬼という、ノアと同じ種族の新たな刺客によって、極めて危険なものへと変貌したのだった。




