第三十五話:長期休暇は、聖王国でいかがですか?
学園生活にも慣れ、季節は変わりつつあった。間もなく学園都市アルカディアは、大陸中の貴族や有力者が帰郷する長期休暇を迎える。
中庭のテラス。ノアはロザリアとミリアを侍らせ、いつものように優雅なティータイムを過ごしていた。ミリアは、ノアの「献血者」となって以来、その熱烈な愛を隠そうともせず、ノアの行動に常に付き従っている。
ミリアは、待ちきれない様子で身を乗り出した。
「ノア様、ロザリア様!もうすぐ長期休暇ですわ!みなさん、一度学園都市を離れて故郷に戻られます」
ノアは、ティーカップを静かに傾け、冷たい瞳でミリアを見た。
「それが何か?わたくしには、特に故郷はございませんわ。静かに読書ができれば、それで結構」
ミリアは、その言葉を待っていたと言わんばかりに、熱烈な視線をノアに注ぎ込んだ。
「では、わたくしの故郷、聖王国で、休暇を過ごされてはいかがですか?」
ロザリアは、目を輝かせた。
「聖王国ですか!あの美しい大聖堂を見てみたいですわ!お姉様!」
ミリアは、ロザリアの言葉に賛同しながら、ノアに必死のアピールを続けた。
「聖王国は、大陸で最も歴史が古く、魔法の知識、特に魔法の古代文献が大量に保管されています!ノア様の知的好奇心を必ず満たせますわ!」
ミリアは、ノアが知識の収集に強い興味を持っていることを見抜いていた。そして、彼女にはもう一つの思惑があった。
(ノア様が、光の力の中心地である聖王国にいれば、闇の邪教であるクラック教の残党も、スルベニア王国の下品な騎士団も、迂闊には手出しできませんわ!)
ミリアは、自らの愛するノアを、聖王国の絶対的な防御力で守ろうと必死だった。
ノアは、ミリアの顔を見つめながら、内心で冷静な計算をしていた。
(聖王国の古代文献。それは魅力的ですわね。それに、光の力の中心地で、大聖女の血を嗜む……最高の皮肉であり、面白いかもしれまんわね)
そして、ロザリアの血もまた、純粋な光の魔力に触れることで、どのような変化を遂げるのか。ノアは、その実験的な興味にも惹かれた。
ノアは、鉄扇を軽く開いて口元を隠し、承諾した。
「ふふ。悪くありませんわね。聖王国での休暇……わたくしの退屈を、少しは紛らわせてくれそうですわ。よろしい、ミリア。貴女の誘い、受け入れましょう」
ミリアは、感極まって涙ぐんだ。
「あ、ありがとうございます、ノア様!愛しておりますわ」
ノアが聖王国行きを承諾したその会話は、テラスの陰から様子を伺っていた神崎傑と如月さやかに、筒抜けになっていた。
神崎は、王女の命令を果たす絶好の機会だと、熱意に燃えた。
「聖王国だと!これは好都合だ!王女殿下の命令は件の幼女を入手せよ。聖王国にはスルベニアの兵士は少ない。説得を試みるには、学園より遥かに絶好の機会だ!」
一方、隷属から解放されたさやかは、神崎の盲信と、ノアの自ら危険地帯に向かうような行動に、強い違和感を覚えていた。
(ノアは、なぜ光の力の中心地へ?そして、あの王女の命令は、ますます悪意に満ちている……ノアの目的は何?私は、どうしたらいいのかしら。)
さやかは、迷いを抱きながらも、ノアの行動を監視し、その真意を探るため、勇者パーティと共に聖王国へと向かうことを決意したのだった。




