第二話:夜空を舞う幼女と醜悪な吸血鬼
街に夜のとばりが降りていた。
ノア・ノストラヴァは、フリル付きの白い日傘を片手に、夜空を優雅にふわふわと歩くように飛んでいた。日傘の飛行機能を使わずとも、蝙蝠への変身や闇魔法で飛ぶことは可能だが、優雅な移動手段を好むノアは、この日傘を愛用している。
「まったく、汚らわしい」
ノアは、ゴシックロリータドレスのスカートの裾が乱れないよう、細心の注意を払いながら、街の風景を見下ろす。
その視界の端に、醜悪な光景が映り込んだ。
人気のない街角。古い石造りの建物の影。
一組の男女が、熱烈に抱き合っているように見えた。しかし、よく見ると、抱きつかれている男の顔は真っ青で、まるでミイラのように干からびている。
女は男の首筋に口元を這わせている。その唇からは、生々しい血が滴り落ちていた。
「さあ、快楽の夢の中で、安らかに死になさい」
女はうっとりとした表情でそう呟いた。
その女こそ、街を騒がせ、ノアの眠りを妨げた張本人、クリムゾン・ナイトメアだった。
空からその様子を見ていたノアは、金と赤のオッドアイを細め、心底からの嫌悪の表情を浮かべた。
「ふざけた真似を……」
吸血鬼は、血液を飲むことで生命エネルギーを得るだけでなく、その際に発生する快感や、ある種の性的満足感を得ることがある。特に血に飢えた下級の吸血鬼ほど、その快楽に溺れやすい。
しかし、前世で「上月蓮」という男であったノアにとって、こうした行為は生理的に受け付けられない。
(いくら女の体になったとはいえ、わたくしに、見知らぬ男と、ましてやこんな下品なやり方で関わる趣味などありませんわ!)
ノアは、吸血によって得られる高揚感よりも、嗜好品として血を味わうことを好む。そもそも、神祖であるノアは、血を飲まずとも周囲の闇や魔力からエネルギーを補給できるため、吸血は単なる「食事」や「趣味」の域を出ない。
「全く、みっともない。同じ吸血鬼の、しかも下位種ごときが、こんな下品な真似をしているなど、月の女神の加護を持つわたくしに対する冒涜ですわ」
ノアは、日傘を翻して高度を落とす。彼女の瞳には、冷たい怒りが宿っていた。
「責任はきっちりと取ってもらいます」
ノアは、ミスリル製の鉄扇をカチリと広げると、街角に向かって、まるで闇に溶け込むように降下していった。
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