第二十七話:ドリル令嬢の悪役令嬢(気取り)
学園都市アルカディアでの日常が始まった。
午後のひととき、ノアとロザリアは、校舎に併設された食堂のテラス席で、優雅にお茶と菓子を嗜んでいた。ノアの黒い制服とロザリアの白い制服は、まるで黒と白の姉妹のように並び、学園内でも一際目立っていた。
「お姉様、このスコーンはトリトン領主館のものより美味ですわ。やはり学園は規格外ですわね」
「ふふ、そうでしょう?ロザリア。貴女の満足は、わたくしの喜びでもありますわ」
二人が和やかな会話を楽しんでいると、そこに突如として、華やかなドレスを身に纏い、縦ロールのドリルヘアを揺らす一団が近づいてきた。
その中心にいるのは、典型的な悪役令嬢然とした少女だった。
ドリル令嬢は、ノアのテーブルの前に立ち、扇子で口元を隠しながら、高飛車な声を上げた。
「ほほほほ!ノア・ノストラヴァ嬢! あなた貴女のその闇のような制服、そしてその態度は、貴族の品位に反しますわよ!」
(出ましたわね、典型的な悪役気取り。ですが、その瞳の奥は、構って欲しいのかしら、では、ここは敢えて無視を決め込みましょう。)
ノアは、ドリル令嬢の見え透いた真意を神祖の力で見抜いていたが、その悪役ごっこに乗ってやる気はなかった。彼女は、カップを優雅に持ち上げ、紅茶を一口飲むだけで、完全無視を貫いた。
「・・・・・・」
ドリル令嬢は、予想外の反応にたじろいだ。彼女はもう一度、声を張り上げた。
「無視してんじゃありませんわよ!ノア・ノストラヴァ!」
ノアは、ようやくカップをソーサーに戻し、冷たい金と赤のオッドアイを、令嬢に向けた。
「名乗りを上げないものに、返事をするとお思い?」
その一言で、周囲の空気は一気に絶対零度に冷え込んだ。ノアの放つ冷徹な威圧感は、ドリル令嬢とその取り巻きの傲慢さを一瞬で凍りつかせた。
ドリル令嬢は、ノアの冷たい拒絶と圧倒的な気品に、(いいですわ〜♪この気高い気品これこそ貴族ですわ)と、内心で興奮し、悪役ごっこが成立したことに満足感を覚えていた。
ドリル令嬢の取り巻きの一人である少女が、その場に耐えかね、そっと令嬢の耳元に囁いた。
「お、お嬢様? 確か、目標はノア嬢とお友達になってもらうことでは……?」
別の取り巻きが、令嬢を諭す。
「お嬢様、まずは名乗りを上げないと! 貴族としての礼儀を!」
ドリル令嬢は、ハッと我に返った。ノアの圧倒的な格上感と、取り巻きの助言により、彼女は悪役ごっこを仕切り直す必要性を悟った。
「わたくしとした事が、ノア様のあまりの美しさに興奮してしまいましたわ」
彼女は、ドリルヘアを揺らしながら、少しだけ声を潜めた。
その言葉は、周りには聞こえていなかったが、ノアにはしっかり聞こえていた。
「くっ……覚えてらっしゃい!わたくしはレティシア・ハイデルベルクよ!ノア・ノストラヴァ!今度こそ、貴族の品位とは何かを教えて差し上げますわ!」
ノアは、その名乗りを聞き、ようやくわずかに頷いた。
「レティシア様、ですのね。ふふ、ごきげんよう」
ノアは、レティシアを貴族として認めつつも、その対応は依然として女王の如しだった。レティシアは、ノアの「ごきげんよう」の言葉に、屈辱と同時に、またしても言い知れぬ喜びを感じながら、その場を去っていった。
ロザリアは、優雅に笑うノアを見上げて囁いた。
「お姉様は本当に、人を惹きつけますわね」




