第十七話:しもべの嫉妬と東方国家への興味、そして学園へ(あなたは私の物なのですわ)
ノアの馬車に、東方から来た少年カエデが同乗することになった。
馬車の中、ノアが珍しくカエデに質問を重ねる姿を見て、ロザリアは頬を膨らませた。
「お姉様……カエデ様のことばかり気にされて、わたくし、少し拗ねてしまいそうですわ」
ロザリアの言葉は、紛れもない嫉妬だった。ノアは、その純粋な感情を向けられることに、少しの優越感を覚えた。
「あら、嫉妬ですか、ロザリア。みっともないですわよ」
ノアは、ロザリアの頬を指先でそっと撫でた。
「心配せずとも、ロザリアはわたくしの物よ」
ノアは、宥めるようにロザリアの頭を撫でた。
ノアが意図したのは、ロザリアが彼女の「大切な血液提供者であり、庇護すべき臣下」という所有物としての意味合いだった。しかし、ロザリアはそれを「特別な絆で結ばれた二人だけの関係」という意味で受け取った。
「まぁ!お姉様……!」
ロザリアは顔を赤らめ、ノアの言葉に喜びを隠せない様子だった。
ノアの興味は、すぐにカエデの東方列島諸国の話へと戻った。
カエデが語る一族の文化、武士の精神、そして彼の背に差した刀(打刀と脇差)に関する話は、ノアの深層に眠る、前世・上月蓮の記憶と強く共鳴した。
(文化の時代的には、まさしく江戸時代あたりのようですわね)
ノアは、カエデの話を聞きながら、元の世界の日本の歴史と重ね合わせた。
「貴方の国では、剣術ではなく、刀術と呼ぶのですか。そして、『切腹』という、名誉ある死の文化が……興味深い」
しかし、カエデの髪が、元の日本の侍のイメージとは異なり茶色がかった珍しい色をしていることから、ノアはすぐに、この東方もまるっきり元の日本と同じではないことを悟った。だが、その根底にある武士の精神は、剣道に打ち込んでいた蓮の記憶を刺激し、ノアを夢中にさせた。
(もしかして、日本食もあるのかしら、それなら豆腐のお味噌汁をいただきたいわね)
「豆腐はあるのかしら?」
ふと、つぶやいてしまった。
「おお、ノア殿は豆腐をご存じか?」
「え?ええ、書物で読んだだけですが、大豆という豆から作られる、とっても体に良いもだと書いてございましたが」
「感動です。拙者、作り方を教わっております。故郷より、材料を取り寄せて、皆様に振る舞いますよ」
「楽しみにしておりますわ」
豆腐がいただけるだなんて、嬉しいですわ。
カエデに笑顔で返事をすると、ロザリアが何やら膨れっ面になってしまっている。
「ロザリア、そんな顔は似合いませんわよ。さぁ、可愛い顔を見せてくださいな」
鼻が触れ合うほどの距離でささやいてあげましたわ。
もう、ロザリアは漫画のヤカンのように真っ赤になって俯いてしまいましたわ。
可愛い子ですわね。
ふと、向かい側に座る、カエデさんも何故か真っ赤になっていますわ。気分でも悪いのかしら?
「そ、その。ロザリア殿と、ノア殿は、その、そういう関係なのでござるか?」
どういう意味かわかりませんが、ここは頷いておきますわね。
ノアは、ロザリアの嫉妬に対応したり、カエデとの会話に夢中になっているうちに、時間はあっという間に過ぎた。
学園都市アルカディア
そして、ついに彼らの視界に、巨大な学園都市が現れた。
(小国の王都より大きいのでは?)
広大な敷地、各国から集められた建築様式が混在する壮麗な建物群、そして都市全体を覆う厳重な結界の存在感。
(まるで、ガウディが幾人もいるようですわね)
「あれが、学園都市アルカディアですわ」
ロザリアが指さした先には、大陸の中心たる場所にある、知識と権威の象徴がそびえ立っていた。
馬車は、城壁のような学園の正門を通り抜けた。ノアは、門をくぐった瞬間に、何か幕を潜ったような感じした。それに、こちらを監視しているような違和感。学園の敷地内に複数の不穏な気配が潜んでいるのを察知した。それは、ただの学生や教師ではない、訓練された兵士の気配だった。
(ふふ、やはり来ていましたわね。おそらく、スルベニアでしょうか?内緒ににしましたが、間諜はどこにでもいますしね、まるで、アルベルトの眷属のようにしぶといですし)
「アルベルト、わかっていますね」
「はい、お嬢様」
ノアは、貴族然とした優雅な笑みを浮かべた。彼女の学園生活は、退屈しないで住みそうである。
「さあ、アルカディアでの生活の始まりですわ。ロザリア、カエデさん。わたくしに退屈させないでちょうだい」




