第十四話:風の噂と平穏な日常
聖王国の混乱と感謝
聖王国国境付近の街で、スルベニア王国の侵攻軍の中核を成していた「異世界の者たち」、すなわちヤンキー連中が突如として壊滅したという情報は、瞬く間に聖王国の王都にいる教皇のもとへと知らされた。
聖王国は、滅亡寸前の危機から救われたことに歓喜したが、同時に深い混乱に陥っていた。
なぜなら、その圧倒的な勝利をもたらした英雄の名が、誰一人として報告されなかったからだ。
ノア・ノストラヴァは、徹底して目立つことを嫌う傾向があった。彼女は、後発したトリトン軍に対し、神祖の強烈な威圧をもって緘口令を敷いた。
「わたくしの存在は、決して口にしてはなりませんわ。逆らえば、彼らの二の舞です」
その威圧に、トリトンの兵士たちの中で逆らえる者は一人もいなかった。彼らは、ノアの言葉を神の命令として胸に刻み込み、沈黙を守った。
ノアは、混乱を置き去りにしたまま、さっさとトリトンへと戻ってしまった。
優雅な日常への回帰
トリトン領主館。
ノアは、つい数日前に大陸の情勢を揺るがす軍事行動を終えたとは思えないほど、何事もなかったかのように、領主令嬢ロザリアと優雅にお茶を飲んでいた。
「ノアお姉様、今日の紅茶は、ポセイダルでしか採れない貴重な茶葉ですわ。とても香りが良いのです」
「まあ、そう。では、いただきますわ」
ノアは、聖王国で暴虐を働いた同胞を地獄に突き落とした後の清々しさを感じながら、熱心なロザリアとの会話を楽しんでいた。彼女の日常生活には、何の乱れもない。
---
スルベニア王国の辟易
一方、スルベニア王国では、事態の収束に、複雑な感情が渦巻いていた。
国王は、当初の目論見とは異なり、聖王国への侵攻が頓挫したことには不満を持っていたものの、軍内部の『厄介な逸れ者たち』、すなわちヤンキー連中が、誰にも気づかれずに処分されたことに、内心では満足していた。彼らは、王国の真の目的を知りすぎていたためだ。
しかし、その一方で、聖王国からの激しい抗議と賠償要求に辟易していた。
「我らが召喚した異世界の勇者が、貴国の領土で暴虐を働いたなど、濡れ衣も甚だしい!」
スルベニア王国は、シラを切り通し、「敗退は魔物のせいだ」と主張したが、国際的な信用は大きく失墜し始めていた。
そして、遠く魔王国を目指す勇者パーティの神崎たちは、自分たちのクラスメイトが凄惨な末路を辿ったことなど、知る由もなかった。
ノアの介入は、世界に大きな影響を与えつつも、その中心にいるのは、依然として秘密の幼女だった。




