第十一話:懐かしき因縁と神祖の決意
暴虐の進撃
遥か東の大陸において、スルベニア王国の軍事行動は加速していた。
その中心にいるのは、異世界で圧倒的な力を得たヤンキー連中だった。彼らは、初めに蹂躙した獣人たちの村の男たちを無理やり従軍させ、その戦力を水増ししながら、次々と他国の街や村を攻め落としていった。
彼らの進撃は止まらない。ついに、女神を祀る大神殿が存在する、敬虔な信仰国家、聖王国にまでその勢力を迫らせていた。
聖王国は、この未曽有の危機に直面し、大陸中の各国に救援の要請を出した
届かぬ救援
ノアが滞在する海洋国家ポセイダル連合王国にも、当然その救援要請は届いていた。しかし、ポセイダルをはじめとする各国は、国内の領地問題や、海賊問題(ノアが解決する前)など、皆が自国のことで手一杯であり、大規模な援軍を出す余裕はなかった。
領主館での会合の席。ノアは、領主たちが交わす会話を静かに聞いていた。その中で、彼女はある衝撃的な情報を耳にした。
「……なんでも、その軍勢の中心にいるのは、スルベニアが召喚したという『異世界の者たち』らしい。しかも、一部の外れ者だった連中が、その軍の幹部として暴虐の限りを尽くしているとか……」
ノアは、その「外れ者」という言葉に、前世の微かな記憶と、懐かしさ、そして強烈な憤りを覚えた。
(あの、ヤンキーども……!)
特に、彼らの中には、蓮(ノアの前世)が剣道の道場で因縁とまではいかないものの、幾度か厄介な絡みを受けたことのある相手が含まれていた。
「卑怯で、下品で、暴虐を働く……それは、あの者たちに最も相応しい役割ですわね」
ノアのオッドアイが、冷たい怒りで輝いた。
「わたくしが、参りますわ!」
幼女の宣戦布告
ノアの突然の決意表明に、隣に控えていたアルベルトが、即座に制止の言葉を口にした。
「ノア様、それはあまりにも危険ではございませんか?相手は、一国の軍勢を率いた集団であり、いくらノア様がお強くとも、多勢に無勢。無用な犠牲は避けるべきです」
ノアは、アルベルトの言葉を遮り、優雅だが強い意志を秘めた口調で断言した。
「あら、アルベルト。相手は軍勢などではありませんわ。ただの烏合の衆ですわよ」
ノアは、ミスリル製の鉄扇をカチリと鳴らした。彼女の狙いは、全軍を正面から叩くことではない。
「彼らの幹部連中を、つまりあのバカどもを滅せれば、後はすぐに士気を失い、四散するでしょう。彼らは、自らの力に溺れた、バカに過ぎません」
ノアは、ロザリアとの秘密のお茶会で得た血によって満たされた、静かな力を全身に感じていた。
「わたくしは、月の女神の加護を持つ神祖。穢れた暴虐が、この世界を覆うのを看過するわけにはいきませんわ」
ノアの瞳の奥には、前世の不本意な死と、今世で得た圧倒的な力の責任、そして何よりも、同じクラスメイトの暴走を止めなければならないという、元・上月蓮としての義務感が宿っていた。
「準備なさい、アルベルト。わたくしは、聖王国へ向かいます」




