第十話:臣下を得る者と血の絶対誓約
海賊の脅威
トリトン領主館での優雅な滞在の中、ノアは精力的に情報を収集していた。図書館の書物だけでなく、領主や街の有力者が交わす時事の会話も、ノアの鋭敏な聴力は聞き逃さない。
ある日、ノアが耳にしたのは、近海に巣食う海賊たちの話だった。
海賊は、単純な盗賊ではない。彼らは基本的に、敵対する国や、都市の通商に打撃を与えたい、大商人に雇われていることが多かった。彼らは都市の通商路を荒らし、さらには「通行費」と称して、近くを通る船から金品を巻き上げ、要求が通らなければ暴力に訴える。
「最近、近隣の島に新たな海賊が現れたそうで…船を襲い始めて、通商に大きな打撃が出ています」
ノアは、この情報を聞き逃さなかった。海賊を壊滅させれば、領主への恩をさらに深められると同時に、彼女の力を使う機会にもなる。
ノアは、執事アルベルトに調査を命じた。
「アルベルト。その海賊の巣窟と、頭目の情報を。**誰も行けない所まで**調べてきなさい」
「御意、お嬢様」
アルベルトの真価は、こうした情報収集で発揮される。彼の眷属である悪魔の虫(G)たちは、人間に最も嫌悪される存在であるがゆえに、誰にも気づかれず、洞窟の奥深くまで、情報の断片を拾い集めてくるのだ。
頭目の降伏
ノアは、アルベルトが集めた情報を元に、人知れず海賊の根城へと向かった。
結果は、一方的だった。神祖ヴァンパイアであるノアに、海賊たちの持つ原始的な武器や魔法が通用するはずもない。ノアは、圧倒的な力で海賊団を壊滅状態に追い込んだ。
そして、彼女の前に現れたのは、海賊の頭目だった。その名はアルメニア・ロジャー。
ロジャーは、女性でありながら気風がよく、豪快な性格で、部下を家族のように大切にするという珍しい侠気を持つ頭目だった。
彼女は、ノアの前に立ち尽くした。部下の大半が倒れ、これ以上戦っても無意味だと悟ったロジャーは、自ら膝を折り、降伏した。
「これ以上、仲間を失いたくはない。頭を下げよう。残った部下たちの命だけは助けてくれ」
ノアは、その部下を想う心を「ヨシ」とした。忠誠心を持つ人間を配下に加えることは、彼女の未来に必ず役立つ。
「よろしいわ、ロジャー」
ノアは、ロジャーを見下ろしながら、その要求を呑んだ。
「わたくしに忠誠を捧げる限り、貴女と、残りの部下たちを保護しましょう。その代わり、海賊稼業は辞めなさい」
ロジャーは顔を上げた。
「そして、貴女たちは、わたくしの子飼いになります」
血の誓約
ノアの出した条件はこうだ。普段は、トリトン近海の海上の護衛として働き、街の安全を守る。そして、ノアの命がある時、その命令に絶対的に従うこと。
ロジャーは、生き残った部下たちの命を守れるのならばと、その条件を即座に受け入れた。
「お誓い申し上げます。わたくし、アルメニア・ロジャーと、わが部下たちは、あなた様、ノア・ノストラヴァ様のために命を捧げます」
ノアは満足げに頷くと、自らの手首に小さな傷をつけた。流れた一滴の血をロジャーに差し出した。
「誓約の証ですわ。この血を飲みなさい。これにより、貴女は絶対服従の誓いを立てることになる」
ロジャーは、躊躇することなくその神祖の血を飲み込んだ。
ノアの血は、ロジャーの体内で強力な呪いへと変じた。それは、未来永劫、子々孫々までノアに逆らうことができない、絶対的な隷属を意味する。同時に、ロジャーは神祖の眷属としての強力な力をも手に入れた。
こうして、ノア・ノストラヴァは、初めての直属の臣下と、その配下の戦力を得たのだった。
のちに、ロジャー艦隊は、世界にその名を轟かせることになる。




