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転生幼女吸血鬼異世界放浪記  作者: るうと280
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プロローグ:月影の迷い子


「ふむ……あなたは、上月蓮(こうづきれん)、十六歳ね」


上月蓮は、ごく平凡な男だった。歳は十六歳。わずかに増えた体重を気にしつつも、ごく普通の高校生活を送る一人の男子だ。


「別にオタクというわけじゃないんだけどな……」


彼がぼそりと呟く言葉は、誰にも聞こえなかった。コミュ不足と若干の猫背が災いしてか、周囲からは「あいつは隠れオタク仲間だろう」と認識されていた。


だが、意外なことに、その体型からは想像もできない一面がある。街の剣道の道場では、彼は年齢に比してとてつもなく強かった。竹刀を握れば、その眼光は鋭く、師範からも「年齢を考えれば末恐ろしい」と一目置かれる存在だった。


そんな平凡で、ちょっぴり特別な十六歳の少年、蓮の日常は、ある日突然、終わりを告げた。


それは授業中の出来事だった。教室の空間が突如、眩い光に包まれた。


「なんだ、これ!」


「きゃあああ!」


光は瞬く間に強烈な渦となり、クラス全員を飲み込んでいく。蓮もまた、否応なくその光の中へ。


…気が付けば、周りの喧騒は消えていた。


「あれ?…俺、ここ、どこだ?」


クラス全員が、どこかの世界の「勇者召喚」に巻き込まれたらしい。だが、何らかの事故、あるいはイレギュラーな事態が発生したのだろう。光の奔流に弾かれた蓮だけは、クラスメイトたちとは違う、神界(しんかい)と呼ばれる領域に魂だけが迷い込んでいた。


蓮の目の前にいたのは、一人の女性だった。夜空の星々を溶かし込んだような黒衣を纏い、月光のような静かな輝きを放つ、神々しい美女。


「ようこそ、魂の迷い子よ。私は、月の女神ルナ。闇と夜、そして、転生を司っているわ」


彼女こそ、この世界の転生を担当する女神だった。ちなみに、勇者召喚などの大掛かりなコントロールをしているのは、いつもイケメンを侍らせていることで有名な、美の女神らしい。


ルナは、光の粒子となった蓮の魂を一瞥すると、何の感情も見せずに何気に頷いた。


「あなたは…事故ね。勇者召喚の巻き添えになった。イレギュラーよ」


「じ、じゃあ、俺、元の世界に…帰れるんでしょうか?」


蓮はすがる思いで尋ねた。


ルナは静かに首を振った。


「残念だけど、無理ね。あなたの肉体はもう、元の世界には残されていないわ。この神界にいるのは、あなたの魂の残滓だけ」


絶望が蓮の胸を覆う。もう、あの道場に戻ることも、家族に会うこともできない。


「…じゃあ、俺は、このまま消えるしかないんですか?」


「いいえ。転生ならば可能よ」


女神は淡々と言葉を続けた。


「私の管理している世界に送ってあげる。そこはまだ発展途上で、魔法や魔物が跋扈する、俗に言うラノベに似た世界。あなたのクラスメイトも、おそらくその世界のどこかに転生させられているはずよ」


蓮の胸に、新たな希望が芽生えた。どうせなら、新しい世界で、強く生きたい。


「転生…!ありがとうございます!だったら…どうせなら、その世界で最強の種族にしてください!それと、長寿がいいです!お願いします、女神様!」


長寿で最強。凡庸だった自分への、ささやかなリベンジの願いだった。


ルナは微笑んだ。月の光を宿したような、静かで妖艶な笑み。


「最強の種族…長寿…ふふ、わかったわ。あなたの願い、聞き届けましょう」


ルナが用意したのは、神祖(しんそ)ヴァンパイアの魂の器。それは、まさに彼が望んだ「長寿」と「最強」を兼ね備えた、至高の存在だ。もちろん、蓮は自分の転生先がヴァンパイアであることは知る由もない。


女神は、転生ゲートを開く寸前、ふと悪戯心を思いついた。


(ふふ、この子…少々増えた体重を気にしていたみたいね。じゃあ、可愛らしい姿にしてあげましょうか)


ルナは蓮の魂を指先で優しく弾いた。


「じゃあ、行ってらっしゃい。新しい生を楽しみなさい」


蓮の魂は光の奔流に吸い込まれていく。


「あ、そうそう。ここでの事、つまり…私との会話とか、私が月の女神だったこと、そしてあなたが転生者だったことは、全部忘れてね」


女神は、そう言って、優雅に微笑んだ。


蓮の魂は、ルナの最後の言葉を理解する間もなく、新しい世界へと消えていった。


残されたのは、静かに輝く月光と、ルナの満足そうな独り言だけだった。


「…長寿で最強、そして可愛い幼女の姿でね。ふふ、きっと面白いわ」


かくして、平凡な少年・上月蓮は、神祖ヴァンパイアの幼女として、異世界へと旅立ったのだった。

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