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第13話:まだ名前のない企画だけど

「佐藤さん、どうでした……?」


社内のカフェスペース。

午後の柔らかな陽射しが差し込む中、水野裕太が少し焦ったように駆け寄ってきた。彼の手には、すっかり冷めてしまったコーヒー。


「うん……プロジェクト、正式に外れることになった。」


「……そっか。」


言葉を失いながら、水野は目を伏せる。

美咲は一瞬だけ、胸の奥にちくりと刺さる痛みを感じた。けれど、それもすぐに静かに沈めた。


「次、何か新しいプロジェクトがあったら、立ち上げ側に関われるように動いてみようと思ってる。まだ決まってないけど、やっぱり、何かを“作る”ってことが好きみたい。」


「それなら……さ、美咲自身でプロジェクトを立ち上げてみたら?」


「え?」


意外な提案に、美咲は思わず聞き返す。


「いや、会社内でも“社内起案プロジェクト制度”あるじゃん。チームを自分で組成して、提案書を通せば、部門横断でも企画進行できるやつ。美咲なら通ると思う。……むしろ、やってほしい。」


「そんなの、責任重すぎるよ。リーダーなんて、私、やったことないし……。」


「今まで“引っ張る人”をずっと見てきたからこそ、できることがあるって思うよ。」


そのとき、後ろから声がかかった。


「水野くんの意見、私も賛成。」


振り向くと、そこには伊藤副部長の姿があった。少し離れた席で、美咲たちの会話を聞いていたらしい。


「佐藤、あなたが途中まで企画してた『大手家具メーカー向けに、商品開発とマーケティングをセットで提案するプロジェクト』、あれ、私の部署でも話題になってたのよ。途中で外されたのは残念だったけど、アイディアには光るものがあった。新規プロジェクトとして再提案してみない?」


「……でも、メンバーもいないし、実績もまだ――」


「プロジェクトは一人じゃ動かないけど、火を灯せる人がいないと始まらないの。」


「私も入るよ。もし美咲が起案するなら、メンバーに加えてほしい。」


今度は、マーケ部の大沢が声を上げた。


「美咲のやりたいこと、たぶん面白くなる気がする。感情に訴えかける企画って、今の時代に必要だと思うし。あのドライヤーホルダーが社内テストで評価されてたのも、社外ユーザーアンケートで好評だったのも、知ってる。ちゃんと数字、出てたじゃん。あれを“家具メーカー向け”に昇華させる企画、俺、手伝いたい。」


「私も協力したいわ。デジタル制作まわり、私が引き受ける。」


いつの間にか、周りには数人の同僚が集まってきていた。


美咲はその輪の中心に立たされていた。いや、きっと――いつのまにか立っていたのだ。自分が望むよりも、先に誰かが彼女を“見ていた”。


「……ちょっとだけ、考えさせてください。」


そう答えた声は、震えていた。でもその震えには、不安だけでなく、ほんのわずかに“ときめき”が混じっていた。


翌日。

美咲は資料を抱え、社内のガラス張りの会議室に入った。

そこには水野や大沢、そして数名の仲間たちが既に集まっていた。


「みんな、来てくれてありがとう。まだ企画名すら決まっていない状態だけど……これから一緒に、“誰かの心に届くプロジェクト”を作っていきたいと思っています。」


拍手はなかった。けれど、それ以上にあたたかい空気が会議室を満たしていた。


「名前は、そうだな……“Project Empathy”なんて、どうかな?」


そう呟いたのは水野だった。


「……いい名前ね。」

美咲は小さく微笑みながら、ノートの最初のページにその名前を記した。


彼女の新しい章が、静かに幕を開けた。

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