閑話 私はマリア。キュートでプリティなマジカルヒロインなの
話が滞って申し訳ないですが、またしてもマリア視点です。
アデラが行方不明になったあと、どこでどう過ごしていたのかさらっと説明してもらいます。
皆さん、こんにちはー。
元ヒロインの小柴真理愛ちゃんですよー。いえーい、ピース!
悪役令嬢と魔女に嵌められて玉の中に囚われてしまった悲劇のマリアちゃん。
いつか王子様が助けに現れると思っていたのに、どういうわけか侯爵令嬢アデラさんにごくりと飲み込まれてしまったわけですよ。解せぬ。
まあ痛みとかはなかったんだけどね。そして気がつけばアデラの体を二つの魂が共有してたわけさ。解せぬ。
ちなみの魂ごっくんの後、アデラはショックで数日寝込んだわよ。体の中に私というチートでキュートでゴッドな存在が入ってしまったのだから仕方ないわねっ、と思っていたら、そもそも体の衰弱が激しかったらしい。……あれー?貴族のお嬢様じゃなかったっけ?
ともあれアデラが寝込んでいる間は私がアデラの体を使うことができたわけだけど、その間はヴァイオレットにずっと監視されていた。……ちっ、抜け目ないおばさんめ。
「おばさーん、ここどこ?」
「地方の男爵が仕事のために借りている王都の屋敷の一室よ」
男爵なのに王都にこんなでかい屋敷を借りるなんて成金だな。
「勝手に借りていいの?」
「屋敷の人間には私達は男爵の身内だという暗示をかけているわ。でもアデラが目を覚ますまで歩きまわらないで」
「なんでよ。せっかく外の世界に出れたのに。……あ、私の体は?」
「馬鹿ね。とっくに干からびて畑の肥やしよ」
「理不尽!!」
五十年も経ってるから覚悟はしていたが、私がやったことに対してしっぺ返しが大きすぎないだろうか。
ヴァイオレットは私が眠ってからの五十年の間のことを教えてくれた。
第二王子と結婚して王妃になった元悪役令嬢だが、結局子供は王女一人しかできなかったらしい。元悪役令嬢は自分の娘を何とか女王にしようとしたが、王女自身に拒否されたのと他にも王位継承権を持つ王子がいるのにあえて女王を立てることに貴族たちが反対した。そして夫の国王によって離宮に幽閉、そのまま一年と経たずに不審な死を遂げたようだ。ちなみに王女は隣国の貴族に嫁いでしまったらしい。
一方、私と一緒に断罪された第一王子たちは生涯廃嫡されたままだった。だがその後それぞれ平民と結婚し、苦労しつつもそれなりに幸せに暮らしたという。特に元第一王子は自分の子供を作らないように気をつけていたようで、彼も彼の家族も王位争いに巻き込まれず済んだようだ。
よかったよかった。悪役令嬢はざまーみろだわ。
そして最終的にケンブリッジ王国の王位を継いで今も玉座にあるのは、第一王子と第二王子の末の弟、第六王子だったルークだという。マリアが王宮に出入りしていた時は三歳の幼子だったから、今は五十三のオジサマになっているわけか。なんだか複雑だ。
「ねえ、どうして私の魂をこのアデラって子の中に入れたのよ?私を許してくれたんじゃないの?」
「……マリア、なんでもいいわ。魔法を使ってみて」
「もうっ!」
質問の答えをくれないヴァイオレットにいらっとしたけど、魔法は使いたくてうずうずしていたんだよね。
あちょーっ!ファイヤーボール!
「ひえええぇえぇぇ!」
「火力!抑えて!!」
普通に魔法を使って小さな火の玉を作るつもりが、キャンプファイヤー級の業火になってしまった。やべー。天井がちょっと焦げてるわ。
「な、なんで?」
「アデラはもともと持っている魔力が膨大なのよ。それにあなたとの相性もいいみたいね」
「ほーん?」
「……さっきの問の答えだけど、その前にアデラの記憶を読んで頂戴」
「は?記憶?」
「目を閉じて、瞑想して」
「私が瞑想なんてしたことあると思う?」
「大丈夫よ。手伝うから」
私が言われた通り目を閉じると、額にヴァイオレットの指がそっと当てられたのがわかった。
そしてアデラがゆっくりと流れ込んできた。
彼女を産んだ時に、母親が産褥で亡くなったこと。それを理由に家族に邪険にされ、特にすぐ上の姉にはいじめ抜かれたこと。
それでも認められるために努力し、王太子の婚約者に選ばれたこと。
だと言うのに王太子には大事にされず、王太子の恋人や公爵令嬢に悪い噂を流されたこと。
王太子と彼の側近には仕事を押し付けられ、功績ばかり奪われてしまったこと。
そして婚約破棄……挙げ句の放逐。
なんだこれ!!?私でもここまでしないわよ!?
特に家族が酷過ぎない?こいつら人の心を持ってねぇ!!
「あいや承知した!こいつらを『ざまあ』すりゃよろしいんで?」
「う、うん……。まあね」
ヴァイオレットは私が他人のためにここまで怒ると思っていなかったのかちょっとびっくりしている。失礼ね、マリアちゃんは清廉潔白で可愛くて健気でいじらしい正義の心を持った乙女なのよ!だって聖女だもの。
ヴァイオレットによると、とある人物に依頼されてアデラを保護する役目を請け負ったらしい。
「いやいや、保護するのが面倒だからって私の魂ごと魔法を与えるのはちょっと雑過ぎない?」
「違うのよ、その依頼者、あなたの存在を知っていたわ」
なぜかその依頼者は私という魔法を使える存在が魂だけの状態でヴァイオレットの手元にあることを知っていた。……あー。多分その人転生者ですな。
ヴァイオレットは依頼者に若干不気味さを感じつつも、依頼料に目がくらんで引き受けたらしい。相変わらずだな、おい。
ともあれ依頼通りアデラを保護するために動いたヴァイオレットだが、予想外の事態が起こった。調べれば調べるほど、アデラを取り巻く状況が酷すぎたのだ。そしてである。なんと……なんと!あの金の亡者ヴァイオレットが、アデラに同情してしまったのだ。……うん、無理ないよねー。
そのうえアデラの父クラーク侯爵は決定的なことをした。アデラが侯爵邸から放逐された後、実の娘を屋敷の下男たちに追いかけさせたそうだ。……口に出して言えないような酷い仕打ちをするために。わざわざ身一つで屋敷から追い出して絶望させた上、僅かでも希望が残らないよう心と身体をずたずたにするために。
……おい待て、ふざけんな。そんな父親、この世に存在する?残念なことだが、私とヴァイオレットの心はここで一つになった。
おうおうクラーク侯爵様よう。このプリティ魔女っ子シスターズを本気で怒らせたことを後悔させてやんよ!
その日から、私はアデラを励まし、鼓舞し続けた。
あなたは悪くない。あなたの家族がやっていたことは虐待だ。
父親はクソだ、兄はカスだ、姉はゴミだと貶め、ここまで頑張ったあなたは素晴らしい。亡くなったお母様は鼻が高いことでしょうと褒め称えた。
王太子は浮気者のクズ、王太子の恋人は淫乱のクズ、公爵令嬢はアッパラパーのクズ、側近✕2はオッペケペーのクズ(このあたりで語彙力が限界を迎えた……)、そしてあなたは優秀で完璧な人物なのよと励ますと、アデラはようやく私の言葉に耳を傾け始めた。
すかさず連中に復讐をすることをすすめる。私のチキュウでの記憶も見せ、あなたを虐げた連中は犯罪者で、罰が必要なのだと訴えた。
そしてアデラは復讐を決意し、私はその同士になったのだった。
こうして一年かけて私とアデラは復讐の準備をした。ヴァイオレットとはこれからのことを相談した後に別行動となったが、彼女は私も使えなかった変身魔法を伝授してくれた。便利ーーー!
そしてやすやすと隣のリロ王国へ移動。アデラに魔法を教えながら、私は婚約破棄されたアデラを主人公に小説を書き上げた。いわゆる悪役令嬢がざまあ返しをするやつよ!そしてその小説をリロ王国で安く売ったら飛ぶように売れた。いやーん。作家の才能もあるなんてマリアちゃんってばやっぱり天才だったのねっ。
ともあれまずは第一段階突破だ。すっかりアデラに同情して協力的になったヴァイオレットに資金提供してもらいながら、小説の著作権を安く、広く売りまくった。結果隣国で劇団が題材として上演するまでになり(安く売ったはずなのにとんでもない印税になって返ってきて、ヴァイオレットが泡を吹いていた)、いよいよケンブリッジ王国に戻ることになる。
そして国境でわざわざアデラを出迎えたのは、背の高い筋肉むきむきのイケメン公子。
私はすぐにぴんときた。ヴァイオレットに依頼したのはこいつ。イコール転生者!
いつかこいつを酒に酔わせて、洗いざらい吐いてもらおう。
アデラのためにも、それまで利用されてやるわよ!ありがたく思いなさい。




