0003.明日の朝もいつもの場所で もしきみを見つけても
いつもの駅の改札で きみが出てくるのを待っている
別に待ち合わせているわけじゃないけれど 大抵きみはこの時間
人混みの中にきみの姿を見つけた けど今日は朝から疲れてる?
学校までの10分間 いつもと違う様子にちょっと気にはなったけど
だけどそれも最初だけ きみはすぐにいつもの調子で嬉しそうで楽しそう
街並みと人の群れの向こうに見える朝の空 澄み渡る青いスクリーンがどこまでも続いてる
弾む胸をぐっと抑えて なんとか心を落ち着かせる
地味で単調だった日常が 今ではすっかり別の物になってしまって
信号を待つ時間さえ きみといれば特別なものに感じる
こんなに落ち着かない毎日を 去年までは全く予想していなかった
天使が舞い降りたなんて 恥ずかしい言葉が脳裏に浮かぶけど
だけど隣でそんなに楽しそうな笑顔をされると 誰だって頭がハイになってしまう
きみといるこの毎日を もっと楽しみたいと思うのは
この感覚が何なのかは まだよくわからないのだけど
これを恋と呼ぶのなら きっとそうなんだと思う
だけどそれをきみに声に出して伝えるには ぼくはまだ経験が足りなすぎる
休み時間に教室で きみはみんなとおしゃべりしてる
心の動揺を見透かされないように 声が震えないように 目が泳がないように
なのにきみの名前を呼ぶ時だけは のどに力が入ってしまう
天使が舞い降りたなんて そんな感覚は誰にも言えないけれど
だけど無邪気に笑うきみを見ていると それ以外の言葉が出てこない
さすがにそれはみんなの前ではまずいので 密かにトイレで頭を冷やす
放課後の廊下を歩いていると きみが何やらドタバタしてる
階段で足を挫いたきみを 夢中で保健室に運んでから
自分がやったことの恥ずかしさが 後から猛烈に込み上げてくる
緊急処置であって他意はないと 冷やかしてくる保健室の先生に弁解するけれど
言えばいうほど泥沼にはまっていく
天使が舞い降りたなんて 口に出して言えば絶対引かれるけど
だけどきみと出会ってからの毎日は あまりにも楽しすぎる
きみといるこの日常を もっと過ごしてみたいと思うのは
ひとりでは見えなかったものが感じられなかったものが この世界には溢れてる
これを恋と呼ぶのなら きっとそうなんだと思う
だけどそれをきみに声に出して伝えるには ぼくはまだ経験が足りなすぎる
6月の長雨の中でも 7月の蝉時雨の中でも 時間は踊りながら流れていく
夏の空はどこまでも高くどこまでも澄んで この世界の広がりに終わりを感じない
去年までの日常は 色あせたフィルムの向こう側
この変化が何を意味するのかは まだ消化しきれていないけど
そのうちきっと きみとふたりで話せるだろう
だけどそれはもう少し後にして 今はまだひとりで頭の中と胸の中を整理したい
それまできみが 待っててくれたらいいのだけれど
明日の朝もいつもの場所で もしきみを見つけても
ただの偶然を装って なんでもない涼しい顔をしていよう
今はまだこの気持ちを悟られないように
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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