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勇者様が貧乏すぎるので、魔王が仕事を作って一緒に鉱山に潜る話 #1

前回のあらすじ:魔王様が勇者をお持ち帰りする。ただしソファーに置きっぱなしにしてそのまま自分はベッドで寝た模様

それよりも消耗品な魔道具の在庫が減ってきたので、補充しないといけないが、商人はすぐには来ないので、勇者を連れて原料を取りに行きます。あと、勇者のツケも払います。

それは、いつもと特に変わらない、秋口の山間の朝。ベッドから気持ちよく起き上がり、毛布とシーツを適当に片付けて寝室を出る。リビングルームでは、知ってる女がソファーを占拠していた。まあ私が置き場に困って昨日持って帰って、ここに放置したのですが。

それはそれとして、これをお世話しないといけません。まあこの勇者ジュリアナは成人女性だと思うので、起きてから何か買いに行けばいい気もしますが。そういえば人間って朝何を食べるのでしょうね?やっぱり魚?それとも草?

この存在を見なかったことにして、朝の準備をする。まずは裏の小川で水浴びである。夏と比べると幾分か水温が下がっており冷たいが、寝起きの過熱した体を冷やすにはちょうど良い。

次に、着替えである。昨日はツナギで行ったが、今日は真面目に魔王っぽいローブを羽織って出ていくことにする。なお、小さい国でほぼ町と同じ大きさなので、メイドとか執事とかは居ないのでこの辺は自分でやらないといけない。

それが終わったら、適当に桶一杯の水を飲んで出ていくのですが……今日は勇者を起こす作業が追加されている。置いていくととんでもない問題になりそうなので、今回も連れていくけど。

「勇者、起きてください。朝ですよ」

「あと15分だけ・・・・・・」

「だめです、起きてください」

「あと30分はだめですか・・・」

勇者の寝起きで声が出ていないのに、なんとなく柔らかくて暖かそうな声が、自分の好みに合致していることにここで気づいたが、もう少し聞きたいし、背負って行くのも面倒なので実力行使に出ることにした。

「いい加減にしなさい。」

魔王はそう言うと、勇者の寝ていたソファーをひっくり返し勇者を強引にソファーから追い出した。

「いったーい、何するのよ」

ここで勇者は気づいたようである。ここが魔王の家であることに。

「おはよう、今の気分は」

「そこまで悪くはないわね」

「それは良かった。じゃあ、着替えたら行くぞ」

「え、着替えどこ?」

やってしまった……勇者の着替えなんて用意していないし、昨日来ていたのはパジャマみたいな奴。

どうしようと考えていると、一つの妙案が浮かぶ

「ねえ勇者、普段の宿屋はどこ?」

「この町でとってるけど、どうして?」

「今から取りに行こう。」

そう言うと、勇者に私の上着を着せて、家を出る。この家も元は役所としての役割をしていた時期があり、それ故に大通りに面している。で、宿屋は1件しかなく、同じ通りなのですぐに行ける。

宿屋に向かって歩いていると、勇者が不意にこんなことを言ってきた

「何か、お泊まりデートの後みたいですね」

何を言い出すかと思えば、私は魔王で、貴方は勇者。基本的には刃以外は交わらないのですよ。

「そうかもしれないね。国に戻ったら恋人と同じことをするのでしょう」

そう返すと、勇者は下を向いて黙ってしまった。

そのまま重めの空気のまましばらく歩き、宿屋に到着した。

「じゃあ、着替えを取りに行くのだろう。ロビーで待ってる」

「すぐ着替えて戻ってきます」

そう言うと、勇者は階段を上って、奥に消えていった。

「あれ、アデレードがここに来るとは珍しい。お客さんでも迎えに来た?」

カウンターの後ろから、宿の支配人のナナさんが話しかけてきた。彼女はこの小さい宿の経営を、私が町を作り始めた時から行っている。まあ100年来の知人といったところだ。

「そう、今少女が上がっていったでしょう。あれが私の客人」

「魔王になっても未だに自分で迎えに来るのね」

「今回はちょっと特殊。最初会った時に殺されそうになった」

「あんた一体初対面の娘に何したの・・・・・・」

「何もしていない。勇者だから魔王を討伐するんだーって、私の部屋に乗り込んできた。」

「ああそう言うこと。またてっきり女をたぶらかして刺されそうになったのかと思った」

ナナさんの中での私のイメージはいったいどうなっているのか……

「あ、そういえば、あの娘の宿代、代わりに払ってくれない?」

「本人に請求すればいいでしょう?何で私が……」

「あの娘に1週間分の宿代100ox払えるように見えますか?」

「私も払えると思えない」

「だから、アデレードが代わりに払って」

「今日の夜までには稼がせるから、待ってほしい」

「もし払えなかったら、明日の朝、イザベラに請求書渡すからね」

「わかった。だから一旦落ち着いてほしい」

そんな会話を繰り広げていると、勇者ジュリアナが着替えを終えて戻ってきた。この醜態丸出しの会話を聞かれていないと良いが、どうだろうか?

「勇者、おかえり。意外と冒険向きの衣装持っているのか」

「はい、しばらくは殺すための剣術とか魔術とか使わない予定なので、カジュアルな冒険向きな服にしてみました」

「非常に似合ってて良いと思う」

ここで魔王様は名案を思い付く。そう、勇者に働いてもらえば、勇者に渡すお金とパートナーが必要なお出かけの相方の両方が一気に片付く。

「ねえ勇者よ、今日は鉱山に潜らないか?」

魔王からのいきなりの提案に戸惑う

「当然タダとは言わない。日給100ox、朝昼夜の食事と消耗品の薬と道具の類は支給する」

「そんなに支給していただけるのですか?」

「警備兵だと、週給で150oxで、今回みたいな特殊任務だと一日当たり30ox出るから、多いと言えば多いかもしれないけど、代わりに住居も支給しているから同じくらいでは」

「もちろん行きます。何か必要なものありますか?」

勇者がやる気になっているのはすごくうれしいし、何より表情が輝いている。多分今日までもお金に苦労したのだろう。

「短剣と薬とか細かい道具を入れるカバンくらいかな?つるはしとかスコップとかスレッジハンマーはこっちで用意する」

「ありがとうございます。すぐに行きましょう」

「そう焦るな。まずは城に行って装備を整えてから、あとは坑道と取れる物の対応関係を記入した地図。この辺りを取りに行ってから、鉱山に行く」

「そうですね、ではすぐに城に行きましょう」

そんな感じで、休日前の子供のような勢いで、鉱山に行くことを楽しみにしている勇者を抑えながら、

城に道具と資料と書類を取りに行く。そんな中、勇者が話しかけてきた

「そういえば、薬とか食料はどうするんですか?」

「途中で買っていきますか……」

城に着くと、めったに出さない荷車を倉庫から引っ張り出し、地下の倉庫の奥に入っているツルハシ、スコップ、斧と鉄製のバケツ、手洗、樽とキャンプ道具にその他小さい工具箱を引っ張り出して、荷車に積んだ。

「魔王様、他に必要なものは?」

「地図と、採掘許可書だけ。上の部屋にあるから取ってくる」

上の部屋に階段を上っていき、部屋から書類と地図、あとは懐刀を持って下に降りた。

「待たせたね」

「遅いですよ。さあ、早く行きましょう」

「そうですね、行きましょう」

魔王様と勇者は城を出て、初めに薬屋に寄った。

魔王が先に薬屋に、静かに存在を消して入る

「お邪魔します」

「いらっしゃい。アデレードじゃないの。今日は何をお求めで?」

「今日はね、普通の傷薬とか、体力と魔力回復の薬かな。」

「量は?」

「2人分、いや4人分で」

「じゃあ、その娘とどこか探索行くの?」

「近所の鉱山。ストリップが切れちゃって、その材料採集」

「じゃあ、デートっていうことだ。」

「ゆいさん、私と勇者の関係はそういうのじゃないから」

「ちょっとアデレードをからかってみただけ。はいこれ」

そう言うと、普段の3倍くらいある紙袋を渡された

「えっと、お代の方は」

「50oxでいいよ」

魔王は銀貨を数枚渡し、我々は店を出た

「ありがとうございました。」

さて、次は食料の調達だ。今日の昼と夜、明日の朝と昼の分だから……

そんな風に悩んでいると、勇者から考えもしなかった提案を受けた

「ねえ、遠征中の食事は私に作らせてもらえない?」

「え、勇者のお前が作るの?」

「そう。ここに来るまではよくやっていたから酷いことにはならないと思うの」

うーん、自分が見ても食べても面白くない食事を作るくらいなら、この勇者に任せてみるのも良いか

「じゃあ、食材の選定から任せても良いか?お金は私が持つ」

「やった。まずは野菜と塩漬け肉と、あとはパンね。缶詰買えるかしら?」

そう言うと、勇者は広場の方へ走って行ってしまった。流石にほぼ満載のリアカー引いて元気な勇者についていくのは難しい。

あきらめて広場の噴水で休んでいると、両手一杯の紙袋を持った勇者が返ってきた

「魔王様、結構色々買えました。今日の食事は楽しみにしていてください」

「では、出発しよう」

食料、道具、書類と準備が全部揃ったので、鉱山に向かって出発する。

ここから鉱山までは歩いて3時間ほどと、歩いたとしてもそこまで遠いものではない

普段なら馬車、もしくは空を飛んで移動なので下手をすると10分程度で到着する程度の距離である。

今回は勇者と一緒にこの時間を一緒に過ごすので、色々聞き出せそうである。

「ねえ勇者、何でこの町にしたの?」

「たまたまです。ウィロウウッドって行きやすかったので。」

「この町ってそんなに弱そうに見える?」

「魔王城って付いている場所で、しっかりとした道路がつながっているのがここウィロウウッドくらいです」

「道中大変じゃなかった?」

「魔物に襲われることは多々ありましたが、あれが貴重な収入源でして・・・この町に近付くと数が減って困ってました」

「ウィロウウッドの住人って妙に強いから。他所なら騎士団の団長とか、盗賊の頭やってたり、賞金稼ぎやっているようなのしか住んでないから、弱い魔物は寄り付かないし、強い魔物はそもそも数が少ない。冒険者にとっては外れの街だよね」

そんなことを話しながら、適当に交代しつつ山道を登ること3時間。鉱山の入り口に到着した。

「魔王様、これが鉱山ですか?」

「そう。ストリップの合金に使う、エルダー鉱石を取りに来た。でもその前に休憩ね」

「はい、今から食事の準備しますね」

そう言うと、荷車のキャンプ道具を解き、即席の調理場を立ち上げる勇者ジュリアナ

何でこんなに良くしてくれるのかと思いつつ、調理場とテーブルの設営を手伝うことにする。

適当にテーブルを広げ、椅子を置き、テーブルクロスを敷く。カトラリーと食器を取り出し、テーブルにセットする。これでテーブルの方の準備はできた。

続いて、調理場の方を見ると、勇者が手慣れた感じですでに野菜と肉を切り始めていた。

「何か手伝えることあるかな」

「魔王様はここまで荷車引っ張ってきたので、少し休んでいてください」

勇者から、こんなにも優しい言葉をもらえるとは思っていなかったので、面食らったが、

この好意を無為にしてはいけないと思い、荷車の荷台で少し休ませてもらいつつ、食事の後の案を練る。と言っても、紅茶とショートブレッドとクッキーくらいしか持ってきてはいないが、まあ良いか。

「魔王様、食事の準備ができました」

15分ほど仮眠をとったころだろうか、勇者に起こされた。

起きて設置したテーブルに向かうと、ここが鉱山の前の無人の空き地で調理したものかと疑うような料理が並んでいた。品数は少ないが、野菜と肉の入ったシチューとパン。後はサラダが用意されていた。

「魔王様、水を多めに使ってしまいましたが大丈夫でしょうか?」

「樽には満タンで入っていたから大丈夫。普通に使ってたら4人の5日分相当だから」

そんな心配をする勇者も可愛い。ここまで来るときの物と金の足りなさをどうにかしてきたのを感じる。

「では、いただきます」

勇者に準備してもらった、本日初めてのまともな食事を口に運ぶ。

「どうでしょうか……凝った料理は作れないのですが」

「非常に美味しいよ。ありがとう。」

見た目通りの、優しい味で、少し疲れた状態でも抵抗なく呑み込める。

てっきり毒か何か入っているかと思っていたが、そんなこともないようだ。この勇者、料理に関してはかなり熟練している。

勇者に調理してもらった料理はすべて頂き、時間ができたので思わず聞いてみる

「とても美味しかった。冒険者になる前には、何か料理の経験などはあった?」

「いえ、料理については私の母に教えてもらったりしただけで、どこかのレストランで働いていたりとかはありませんでした」

「これだけの材料でこれだけできれば、もっと大きな街でレストラン開けば成功できると思う」

「そんなに褒めていただいて……ありがとうございます。」

「いやいや、お世辞でもなんでもなく、これを食べて思った素直な感想」

今回使った食器や調理器具を片付けながら、午後の予定について勇者から聞かれた

「魔王様、午後はすぐに鉱山に入られるのですか?」

「お茶を入れるから、少し休んでから入る予定。眠いようなら少し仮眠入れるけどどうする?」

「では、お言葉に甘えてお茶いただきます」

魔王様の屋外用紅茶セットから、マグカップを2つと、ティーポット、スプーンと茶葉、砂糖と牛乳を取り出す。

まだ火の残った焚火に、水を入れた薬缶をかけ、水が沸騰するのを待つ

その間に、ティーポットに茶葉をスプーン4杯ほど投入し、沸騰したお湯を注ぐ。

3分ほど放置し、マグカップに紅茶を入れ牛乳を少し注ぐ。そしてショートブレッドと一緒に渡せば完成。

「勇者よ、紅茶が入った」

「ありがとうございます。魔王様。」

勇者に紅茶を手渡し、自分用の紅茶を改めて取る。

そういえば、昼食後にのんびり紅茶を飲みながら休憩する時間が取れるのは、久しぶりかもしれない。

「どうかしましたか、魔王様。」

「いや、こんなにもリラックスできる時間を過ごしたのはいつ振りだったかなとおもって」

「そうでしたか……てっきり先ほどの料理で何か不手際があったかと思いまして」

「ジュリアナの料理は素晴らしかった。できるなら私と婚約してくれ。って言ってもいいと思えた」

こんな告白に近い言葉を返した後に勇者の方を見ると、真っ赤になって固まってしまった。これは+15分の休憩が必要そうですね。

真っ赤になって落ちている勇者を寝かした後に、中に入るための準備をする。

荷車から、掘削に使うスコップ、バケツ、バケツ、ツルハシ、スレッジハンマー、工具箱をおろして、坑道の中に入れる状態にする。念のため、入り口に杭を打って、ロープも引こう。

この辺の準備を終えたころに、勇者が起きてきた

「魔王様、私気絶していたみたいです」

「大丈夫だった?頭を打ったりはしていないようだけど」

「はい、大丈夫です。中に行きましょう」

やる気に満ち溢れた勇者の声に押されて、私も坑道の中に入る。

古めの地図を片手に、坑道の中を進んでゆく。

「魔王様、松明なしで進んでいけるのですか?」

勇者の質問で、明かりをつけ忘れていることに気づく。私自身は別に光が無くても視界に何があるかを感じ取れるが、ジュリアナは普通の人間だった。

「ああ、今付ける」

適当に転がっている木の棒に、布を巻き、菜種油をしみこませる。これで松明の完成である。

「ジュリアナ、この棒持っていてくれ」

勇者に棒を持たせ、小さい炎魔法を放ち、松明に着火する。

「これで明るくなったろう」

「ありがとうございます。魔王様。」

これで進めるようになったが、すでに鉱山の中で迷子になりそうになっているという問題が発生している。

鉱山の中の地図を持ってきてはいるが、あまり当てにできないのが管理のされていない鉱山というものだ。いろいろな人が採掘して、更には崩落していたりするので、来るたびに中の構造が変わっており、エルダー鉱石が取れる当たりの場所にたどり着けないという問題が発生している。確か前回入ったのは、今の場所に城を建てる前だったから、5年位前か。

さて、エルダー鉱石の取れるのはどこなのか、これを調べるところから始めないといけないのか。

そういえばこの2人、どちらも視界0でも戦闘できる能力持ちですが、原理が違うので勇者は魔力を見ているので、周りに魔力が無い環境では光がないと動けず、一方魔王は可視光線+赤外線+超音波で見れているので鉱山の中でも光を必要としないという違いがある

次回は、この鉱山採掘の続きからスタートです

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