魔王様と飲む(魔王様の耳の秘密を解き明かす 後編)
実は、魔王様の左耳の先端の方は欠けてしまっている。誰かに桜カットされたわけではない
と言っても耳が欠けた理由は誰も教えてくれない。
ひょんなことから、魔王様の耳が欠けていることを発見した勇者
今回は、魔王様の耳が欠けた理由を、勇者の観点からお届けします
今回は、実際にかけた原因に迫る回になります。
ネタばれ:元カノが寝ぼけて嚙みちぎった。ちなみに美味しかったらしい
今回の登場人物:女魔王(本名:アデレード)
秘書(本名:イザベラ)
女勇者(本名:ジュリアナ)
すずか庵店主(本名:燈子)
仕事を終えて、戸締りをした城を出て10分ほど歩くと、話題の中心にあるすずか庵に到着した。
雰囲気については、先日の午前中に来た時とほぼ同じ雰囲気を放っていて、唯一、室内の灯りが付いているのと、看板が営業中になっている点を除けば人の気はやっぱり感じない。
店のドアノブに手を掛けると、イザベラから不安そうな質問が飛んできた。
「ねえアデレード様、ここって営業していますか?」
「もちろん、バー的な営業もやっているし、魔術の指導や、魔道具の整備点検までやってくれる面白いお店だよ」
残りの2人の心の準備は知らないが、思い切って中に入ることにする。
扉を開けると、飲食店特有の騒がしい感じではなく、静かで洗練されたバーのような店内が迎え入れてくれた。いつものことだが、店内には誰もいないので、厨房に向かって叫んで燈子さんを呼ぶことにする。
「すみません、燈子さんいらっしゃいますか?」
すると、いつも通りの返事が返ってきた
「どなたですか……この声はアデレードちゃんだよね」
「そうです。仕事の後輩2人とお世話になります。」
「あらあら、そんなに畏まらなくてもいいのに……私とあなたの仲でしょう」
「ありがとうございます。ではあの窓際の席で待ってます」
「こっちも準備できたらすぐにいくわ」
結局、燈子さんはすぐには出てこなかったが、我々は席に着くことにした。
席に着くやいなや、ジュリアナに今の会話について聞かれた
「ねえアデレード、今誰と話してました?」
「ああ、今話してたのが例の店主であり、私の元カノの妹でもある、橙子さんだよ」
そして、会話を聞いていたイザベラからも意外な反応が帰ってきた
「え、橙子さんって魔王様の元カノだったの?」
「その件は前に話したぞ。元カノだったのは橙子さんの姉の方」
「ねえ、アデレード、元カノの名前って何だっけ?」
「元カノの名前?紗夜っていう子だったよ。写真が残ってないのが残念だけど、……あ、燈子さん、少しお願いがありまして、少し時間良いですか?」
厨房の方に向かって叫んで、燈子さんを呼んでみると、今回は普通に、テーブルまで顔を見せに来てくれた。
「はいはい、何でしょう、魔王様?」
私は丁度良い機会だと思って、この人を秘書と敵にも紹介しておくことにした。
「この方が、私の元恋人の妹の方であり、この変わったお店の主をしている、燈子さんです。」
そう言いながら、私が指さす先には、非常に背が低く……多分イザベラよりも低い程度の、非常に可愛らしい、日本的な鬼の姿があった。もちろん鬼の角はおでこの後端に生えているし、手も美しいが、かなりごつく、爪も鋭いものである。ちなみに今日の服装は、普通の割烹着にエプロン付けたものといたって普通の格好だった。
「はい、魔王様のご紹介にあずかった通り、私がこの店の店主をしている燈子です。よろしくお願いいたします。」
自己紹介が終わると同時に、勇者と秘書が燈子さんを質問攻めにしていて凄いことになっていた。特に魔王の元カノの情報をどうにかして得ようと色々なことを聞いているようだ。始まって5分でこのような事態になるのは、あまりにもかわいそうなので助けに行くことにした。
「おい、そんなに一度に質問されたら燈子さんも困るじゃないか……すみません、こいつらに適当な飲み物と前菜お願いします」
それを聞いた燈子さんは、
「飲み物ですね、しばらくお待ちを」
と言って、急いで厨房の方に逃げ込んだ。これからの時間で時間で私の元カノの話をしないといけないようである。
「……まあ話をして、わかっていただけたようですが、燈子さんはそこまでコミュニケーション能力強くないから。
で、本題は私の元カノでしょう?写真が手元にないからどこかで燈子さんに出してもらうけど、さっきみたいな失礼なものは無しだからね」
「「わかりました。魔王様」」
そして、こちらのテーブルが落ち着いてきたからなのか、単に酒と飯が準備できたからなのかはわからないが、橙子さんが料理と酒を持ってこちらのテーブルに戻ってきた。
「お待たせしました。前菜盛り合わせと、ボトルのワインになります」
「ありがとう。ちなみに、少し時間取れそう?」
私が橙子さんにそう聞くと、橙子さんは笑って返してくれた。
「はい、もちろんです」
当然のごとく四人掛けのテーブルで、1人分空いていたので、丁度空いていた勇者の隣に座っていただいた。ここから見ると、小柄な勇者と小柄な燈子さんが並んで座っている様子が、あたかも同級生な感じを醸し出していて、非常にほのぼのした雰囲気となっている。
「さて、お前らもちゃんと自己紹介な。はじめはイザベラから」
イザベラを突然指名したが、当たり前のように普通に自己紹介を始めた
「はい、私はイザベラと申します。魔王様の秘書としてやらせていただいてます。好きなものは甘味です。ご縁があれば是非ともよろしくお願いいたします」
「じゃあ、ジュリアナも自己紹介よろしく」
イザベラが上手くいったからジュリアナも上手くいくかと思っていたが、そうもいかなかったようで……
「わ……我は、ジュリアナと申します。ま、魔王の退治を仕事としています。よろしくお願いいたします。」
何か燈子さんが複雑そうな顔をしてみているが、まあ仕方のない話である。
「何で自分を殺そうとした相手と一緒に飯を食べに来ているのか」と聞かれたら「何でだろうね?と説明するしかない。」
とりあえず、ここに来ていたワインボトルを私が開けて、みんなに注ぎつつ話を進める
「で、本題は私の耳が欠けた理由だろう。燈子さん、シンプルに教えてあげてくれ。私は実はよく知らない」
では、話しますね
「それは、300年前の秋の夜だったと思います。アデレード様と紗夜が恋人同士で、それはそれは非常に仲が良く、その日も一緒になってお酒を私の家で飲んでいまして……そこで事故が起きてしまいました。
お2人共、お酒が良く回ってまして、紗夜がアデレード様の耳に何度も甘噛みしていたのですが、アデレード様もそれを止めなかったのですよ。で、お2人共に床で寝落ちしてしまったのですが、紗夜とアデレード様が一緒に寝ていたのですが、紗夜が寝ぼけてアデレード様の耳を喰いちぎったようで……。気づいたときには既に紗夜の口の中にありました。これが耳が欠けた流れになります」
いつ聞いても私、酔い過ぎである。確か、耳を食いちぎられても次の日に燈子さんに言われるまで気づかなかったからね。
昔の思い出に浸っていると、イザベラから当たり前の質問が飛んできた。
「え、燈子さん、なんで止めなかったの?」
「よくできた姉と、美形な魔族が一緒にお酒を飲んで、いい雰囲気になっているのですよ、止める理由がありません」
まさか、鼻息荒くこんなことを説明されると思わなかった。燈子さん、そんなに私と紗夜さんくっつけてほしかったのか……鬼×魔王……確かに強そうだし、この辺なら負けなしになれそうだが、沙夜さんにも燈子さんにも別の生き方があるから深追いはしないようにしよう。
「じゃあ、紗夜さんの写真とか無いですか」
「私も見てみたいです」
「仕方ないですね……そう言われると思って、アルバム出してきましたよ」
イザベラとジュリアナのおねだりによって、写真すら出してきてくれる燈子さんは優しいと思う
燈子さんの出してきたアルバムを食い入るように見ている、秘書と勇者の2人、ここだけ見ると両親の小さい頃のアルバムを見つけた子供のようである。
「結構最近の写真しかないのですね……」
「写真の技術が出てきたのも結構最近ですからね。それに鬼族はほとんど年取らないので、小さい頃には写真機がまだなかったもので」
「あ、この写真、魔王様と紗夜さんが一緒に写ってる。魔王様手になんか獲物持ってる」
「この時は魔王様はもう耳欠けてたのね」
その写真を見ると、私と紗夜さんが一緒に写っている。確か、世界中を旅行して、住める場所を探していた時代で、金稼ぎのためにモンスター退治をしていたはず……で、なんかの大きいドラゴンを仕留めた時の写真だね。非常に懐かしい……
そういえば、あの時ってお金もそんなになかったから、狭い宿のベッドで一緒に寝たっけ。でもお金ないって言っているのに酒代だけはしっかり確保してたよね……一狩りした後に、獲物を買い取ってもらって、その金でお店で適当に飲んで、で余ったお金で宿に泊まって、部屋でも寝る前の一杯やってから、狭くて固いベッドで朝まで一緒に寝るのがいつもの流れだったね。で、寝ぼけた紗夜におつまみと勘違いして耳を甘噛みされたこともあったね。
いま、紗夜は何しているかな………また会いたいな。会ってまた飲みたいね
「魔王様、魔王様、魔王様大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫、写真見ていたら昔の思い出を思い出してて」
イザベラの声によって、過去の思い出から現実に戻ってきたようだ。
「昔の思い出って?」
ジュリアナは気になるよね。顔合わせてからまだ時間たってないからね
「この写真、私の耳が無いでしょう。」
そう言って、ジュリアナに写真手渡す。そう、私と沙夜さんが獲物を抱えて写っている写真である。
「無いですね、魔王様の左耳の先端」
「これ、私の右に居る、鬼が食いちぎったから無くなったらしいけど、その時の状況はよく覚えてなくてね。なんせ酔って寝てたから」
「でもこんなことがあっても、この後10年位は一緒にこんなことやっていたのだけど、この街建てられるくらいのお金溜まって、建て始めた頃からかな?沙夜さんが目の前から突然消えた」
「突然消えたってどういうことですか?」
ジュリアナが興味津々に聞いてくる。他人の色恋沙汰はいつ聞いても面白いから仕方ないよね
「ある朝起きたら、テーブルの上に書置きが置いてあって、そこにこう書いてあった」
「私は山に籠って妖術の研究をすることにしました。探さないでください。あと、妹がここに移住するそうなので、よろしくお願いいたします。」
「元の話に戻すと、沙夜さんが居なくなったのは結構ショックだったけど、そんなことも思っていられないので、燈子さんが来た際には本当に全部面倒見たよね」
それを聞いていた燈子さんが
「そうですね。この場所を見繕ったのも魔王様でしたし、店と住むところを建てていただいたのも魔王様でしたね。食料の仕入れとか、薬品の仕入れとか販売の方法も全部教えていただきましたね」
「そうでしたね。でも最終的に店の建築代と土地代も一緒に貸した金もきっちり返してきたからね。素晴らしいと思うよ」
「ありがとうございます。ではメインディッシュを取ってきますね」
そう言うと、燈子さんは厨房の暖簾の奥に行ってしまった。
「魔王様、燈子さんが移住する際のサポートまでしていたのですか?」
イザベラがかなり厳しい目で私のことを見てきている
「仕方ないじゃないか。あの当時、まともにここでお店開きたいって言ってくれた唯一の村人だったんだから」
「今後はそう言った行為は禁止ですからね」
「もう絶対にしません。ここに誓います」
ここまでやっても、イザベラは私に懐疑的な目を向けてきているが、ここで燈子さんがメインディッシュを持ってきてくれた。
「これが今日のおすすめのビーフシチューとパンになります。では私も失礼して」
そう言って、彼女はジュリアナの隣に座って、ワインと前菜を口に放り込んだ。
「では、メインディッシュが来たので、頂こうか」
そう言うと、勇者も秘書も、黙々と料理を頂き始めた。
しばらく経つと、燈子さんがこんなことを聞いてきた
「ねえ、この2人とアデレードは中悪いの?」
「そんなことは無いよ。どうして?」
「食べ始めてからは会話が少ないから」
「いつもこんな感じだと思うけど。ただ、一緒にまともに夕飯行ったのはこれが初めてだと思う」
そう言うと、燈子さんは不思議そうな顔をして、自分の食事に戻った。
そして、静かなまま食事が終了し、テーブルの片づけを手伝い、店を出ることにした。
「燈子さん、今日はありがとうございました。」
「いいえ、こちらこそ楽しかったわ。また来てね」
店を出ると、3人はそれぞれ家路に着いた。
2階に分かれてしまったが、魔王様の過去に触れられた珍しい回でした
ゲームなら、ここでも分岐作るんでしょうけど……




