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魔王様と飲みに行く準備(魔王様の耳の秘密を解き明かす 前編)

実は、魔王様の左耳の先端の方は欠けてしまっている。誰かに桜カットされたわけではない

と言っても耳が欠けた理由は誰も教えてくれない。

ひょんなことから、魔王様の耳が欠けていることを発見した勇者

今回は、魔王様の耳が欠けた理由を、しれっと魔王様から引き出しますので、その下準備の回です


今回の登場人物:女魔王(本名:アデレード)

秘書(本名:イザベラ)


女勇者(本名:ジュリアナ)

女料理店?店主(本名:燈子)

時は、朝の6時を少し過ぎたところ。私の隣には勇者ジュリアナが、私の巨大ベッドの上で毛布とシーツを被りながら寝息を立てている。ここに居る経緯については詳しく説明しないが、また例のごとく酔いつぶれて仕方なく私の家に引き摺って来ただけである。他に特に意味は無いはず。

私にも今日は仕事はたっぷりあるので、朝の身支度も必須なのである。水浴びして、お化粧して、朝食の準備をして、着替えて、片付けて……と、意外と出勤前にも色々することはあるのだ。

まずは、朝の水浴びからスタートすることにする。わが魔王家は、裏手に川の水を引き込める構造に変えたので、巨大な水桶に浸かることができるようになった。これなら、勇者が来ても安心して水浴びに誘える。ついでに角を磨いて、髪型をある程度決められる状態にして……とこれで完璧である。朝の水浴び自体は気持ちよいのだが、なんせ山間部で冬場なもので、普通の種族には非常に寒い。とてもじゃないが、30℉付近の水に入れる種族は限られるので、勇者誘っても入ってもらったことは殆どない。あった時も暖かい時期の話である。

さて、体をきれいにできたところで、今度は部屋に戻り、朝食の準備をすることにする。ストーブに火を入れ、パンを切り出し、塩漬けの肉を切り出し、鉄のフライパンで卵を一緒に肉を焼いて、チーズを切る。

そして朝食をテーブルに準備できると、横で寝ている勇者を起こしに行く。連れて行く義理は無いのだが、最近は知らぬところで警備兵とか、下のフロアの総務経理辺りの人たちと仲良くしているらしいので、ここに置いておいて問題起こされるよりかはましだろう。

隣の部屋、というか私の寝室に入り、耳元で囁きつつ勇者を優しく起こしてみる

「ジュリアナ様、朝になりましたよ」

しかし、勇者の回答は予想通りなものだった

「…あと5分だけ……」

残念ながら、そこで引いたら魔王ではないので、ここから火力の強そうな言葉をもう一度耳元で囁いてみることにした。食欲の強い勇者なら起きる気がする

「じゃあ、朝食は全部頂いちゃいますね」

それに焦ったのか勇者は結構な勢いで起き上がり

「あ、お母さん待って」

そして、勇者の頑丈な頭は、間違った言葉とともに魔王様の結構重たく固い頭に激突した。衝撃で、魔王様は1メートルほど飛ばされ、寝室の壁に激突した。

魔王様は、慌てて勇者の元に駆け寄り、状態を確認する。魔王様は基本的に頑丈なので問題はないが、それと引き起こした勇者が頑丈なのかは別の話である。

「勇者、大丈夫か?」

「え、ええ、私は大丈夫でした」

受け答えもおかしくないし、おでこが赤いこと以外には異常は無さそうである。

「魔王様は大丈夫でしたか?」

「ああ、大丈夫だよ。壁に穴が開くかと思ったけどね」

しかし、勇者は私の顔をずっと見つめてくるのだが、何かあったか?触っても特に異常は発見できないし、魔力の暴走の兆候も無いので大丈夫なはず。

「ねえジュリアナ、そろそろ朝食にしない?そんなに見つめられると落ち着かない」

「そ、そうですね、朝ごはんにしましょう。」

その後、勇者を連れて朝食を食べていると、勇者から変わった質問をもらってしまった

「アデレード様、私少し気になっていたことがありまして」

「どうした勇者よ?」

ナイフとフォークを皿のわきに置き、コーヒーに手を伸ばしながら話を聞き始める

「アデレード様、左耳の先が無いようですけど、昔何かあったのですか」

左耳の先端が無くなっている部分を、勇者は指さしていた

「ああ、これはね、前の恋人に食いちぎられたやつ」

マグカップを手に持ちながら勇者の方を見ると、勇者は驚いた顔でこっちを見ていた

「え、え、え、食いちぎられたって、何か喧嘩でもしていたのですか」

「少し長くなるから、帰ってきてから詳細は話そう」

そういって、私はマグカップの中身を一気飲みして、それから朝食の続きを食べ始めた。

勇者的にはもう少し話を聞きたいと言いたげな顔をしているが、時間が限られているので仕方ない。

いつも通りに身支度をして、お化粧して、食事の片づけをして、そして2人で家を出る。

それでも、行く途中でも、勇者ジュリアナは私の耳をずっと見ており、どうしても欠けた耳の理由を今すぐにでも知りたいらしい。

私と勇者ジュリアナと一緒に魔王様の部屋に出勤したが、出勤早々、外からの来賓対応が入ってしまったので、魔王様の部屋の前で分かれてしまった。

そして勇者と、たまたま居た秘書イザベラについては、よりにもよって溜め込んだ魔王様の外務仕事を一緒になってやる羽目に。特に体力が豊富な勇者ジュリアナについては、城の中から外まで走り回る羽目になってしまった。

外周りが終わったのか、勇者が顔色変えずに部屋に戻ってきた。勇者は給湯室でさっと煎れたお茶を2つ持ちながら応接用ソファーに座って、休憩するつもりだ。

「イザベラさんもお茶一緒にいただきましょう」

「ありがとうね、ジュリアナちゃん」

平和な昼下がりの時間が魔王様の執務室に流れている。

ここで勇者が朝のことを思い出したのか、イザベラさんに魔王の耳の話を始めた

「ねえイザベラさん、魔王様の耳が欠けている理由知ってます?」

質問されたイザベラさんは、意外と普通に返してきた

「さあ……私が魔王様の下で働き始めた時には、既にあんな感じの耳でしたから」

「イザベラさんは気になりませんか?私は気になります!」

「魔族なんて体のどこかが欠損しているのが普通だから、気にしたことなかったけれど」

「そうですか……」

「ジュリアナちゃんはどうしてそんなに魔王様の耳が気になるの?」

「それは……」

「なら、周囲の人のうわさ話を聞いてはだめよ。ジュリアナちゃん」

しばらくたってから、私も1階の会議室での来賓対応と住民対応から解放されて、自分の部屋に戻ることができた。どうにか1階の喫茶店でアイスコーヒーをテイクアウトし、這うように4階の自分の部屋に戻る。

「ようやく戻れた……、あれイザベラさんもジュリアナも戻ってきてたんだ」

「ジュリアナちゃんはついさっき戻ってきたところ。私は30分前に戻れた。」

「2人ともお疲れ様。今日は忙しかったし、終わったら私の驕りでご飯でも行く?」

「「ありがとうございます。御馳走になります」」

そして大事なことを隠しながら、あまり行かないレストランに入る

そして、ほとんど言葉を交わすことなく席に着き、メニューから色々探す我々

一通り注文を済ませ、料理を待っていると、例の耳の話をし始める

「この耳の件なんだけど、昔の彼女に喰いちぎられた話はしたよね」

それを聞いた2人は当然のように頷く

「2人共そこは知っているとのことで。で、誰がやったかだけど」

「私が、例の鬼娘とお付き合いしていたのは知っているよね?」

それに対しては、2人は全く別の反応を示した

「あ~、聞いたことはあります。あれって噂じゃなかったんですね」

と、なんとなく知っていて、それ以上興味がなさそうな反応を示すイザベラさんと

「全く知りませんでした。やっぱり角がある者同士惹かれるものなんですか?」

何故か興味津々な勇者ジュリアナにはっきりと分かれた。

ここでは角の話は流して、続きに強引に持っていく

「ここで一応聞くけど、君たちは私の元カノである鬼娘の顔を見たことがある?」

ジュリアナ、イザベラさんどちらも顔を合わせ、知らないという顔をしている

「まあ私も紹介したこともないからね。」

ここから、もう少し元カノの話を掘り下げることにする

「本人は山にこもって何かやっていると聞いたけど、多分会うのは厳しいはず。そもそもこの10年会っていないから連絡とるのもだいぶ厳しいと思う」

ここで、注文したスープとかプレートとかが運ばれてきたが、イザベラは注文したランチプレートに興味が取られていて、既に食べ始めていた。一方、運ばれてきたスープと肉料理には目もくれずに、次の言葉に魔法のワードが含まれているのでは無いかと、期待しているジュリアナを見ながら、意外な追加情報を投下してみることにする。

「で、私の元カノには妹が居て、妹の方がこの街で店を出しているよ」

ここでジュリアナが待ってましたと言わんばかりに食いついてきた

「アデレード様、その妹さんの名前は?」

「妹の方の名前は燈子と呼ばれているよ。店の名前はすずか庵」

そんな話をしたものだから、2人の注目はそのお店に向かってしまったようで

「アデレード様、今日の夕方とか行ってみましょう」

「いえいえ、今週の休みの日に行きたいです」

と好き勝手に予定を埋め始めてしまった。正直、私は何度も行っているし、お姉さんと付き合い始めたのも燈子さんのおかげなのだが……この辺りは伏せて連れていくか

手帳を開きつつ、カレンダーに目をやる。都合が良いことに、今週と来週の夕方には打ち合わせや会合などが入っていないという奇跡の状態。こう見えてイザベラさんはもちろん、ジュリアナさんにもなんだかんだと結構お世話になっているので、これくらいの恩返しは許されるか……でも溜まっている仕事も片付けておきたいので、条件出して難しい感じを出しておくか……。

「イザベラさんは、いつも通り仕事を進めてください。私もまじめにやって、早めに帰れるように頑張りますので、イザベラさんも頑張ってください」

「ジュリアナは、下にたまっている面倒な依頼をやってきてくれ。終わったら連れて行ってやる」

「2人共、よく理解したか?」

「「はい!」」

その答えを聞いた私は、注文した1プレートランチを急いで飲み込み、直ぐに部屋を出て、燈子さんの元へ向かった。

店自体は、店内が暗く外からは人の気が感じられないような見た目をしている。建物自体は普通の商店だが、外観はきれいな白一色であり、なんとなく不気味さがあるのも事実ではある。

店に着いた私は、いつも通り扉を開けて、店の中へ足を踏み入れた。

店の中は、外観からわかる通り非常に暗いが、それとは真逆に非常に清潔感がある白を基調とした内装となっており、生命の存在を否定するかのような雰囲気である。

「いらっしゃいませ……、ん?アデレードじゃないですか」

いつも通り、店の奥の方から、店主である燈子さんの声が聞こえてきた。

「こんにちわ、いや、お久しぶりです、燈子さん」

いつも思うが、店の奥から私のことも見ないで回答できる彼女はすごいと思う。

「私と君の仲じゃないか、燈子さんなんて余所余所しい」

「仲は良いけど、礼儀も大事にしようと思っていてね。」

「君は、この街の長になってからとても丸くなったね」

「そうだね、ずっと城にこもって書類仕事と人の対応、後は外交もやらないといけないから、尖って魔王っぽいことする暇も無くなったよ」

「そのようだね。顔に疲れが出ている。本来の目的は来週の休みにお店の予約を取りにきたのだろう。珍しいな、お前さんはいつもふらっと来てふらっと帰っていくのに……恋人でもできたか?」

何も見えていないのに、私の考えていることまで見抜かれているとは……燈子さんすごいな

「すべてお見通しのようだね……その通りだ。ただ、仕事の同僚と一緒にご飯食べようと思ってね」

「そうか……料理と酒は私に任せてもらっていいか?」

「それで頼みたい。ただ、1つお願いを聞いてくれないか」

「君の頼みなら何でも聞いてあげよう。対価は高くつくけど払えるでしょう」

「ありがとう。恩に着る。で、お願いしたいことというのが、私たちの食事の席に同席してほしい。」

「それはまた変わったお願いだね……わかった。来週の週末の夜に3人で用意しておく」

「ありがとう。追加で、燈子さんの席も必要だから、その分も入れておいてほしい」

そこまで伝えて、店から出る。店は入った時と同じようにまた静かで人の気を感じない状態に戻ったようだ。

城の執務室に戻り、それから毎日8時間と早出と残業時間の間、私たちは仕事上の会話で必要なこと以外は一言も言葉を発することなく、仕事をつづけた。勇者ご一行も、食い扶持稼ぎと溜まった高難易度クエストを処理するために、ここにもよらずに毎日出かけていたらしい。当然、終わるころには全員疲労困憊状態で、誰かと話をする状態ではないことも普通の光景となっていた。

そして、夕食会当日。私は前日に残った仕事をするために城の執務室に向かったのだが、不思議なことに休みのはずだが全員が執務室に朝から集まっていた。

「「おはようございます。アデレード様」」

「おはよう、イザベラ……とジュリアナ」

「ねえイザベラ、1つ聞いていい?」

「はい、どうされました?」

「なんでみんな揃ってるの?」

「それは当たり前じゃないですか、今日は……休みですね。ちなみに魔王様は何故こちらに」

「昨日やり残した仕事があるから、それだけ済ませたら終わりの予定」

平和なことに、今日は城全体が休みである。受付にも、下の部署にも人が居ないので、突発の案件や、

突然の来客などもなく、仕事は滞りなく進み、いつもよりもはるかに早い15時ごろに終わった。

「ようやく終わりましたね、アデレード様」

「ああ、今日は休みだから、このまま閉めて上がろう。ちなみに、ジュリアナは終わっている?」

「え、私?もちろん終わってますよ。これで完了報告の書類を提出できるので、来週提出してきます」

「ありがとう。ジュリアナ。今日の夕食は私が奢るよ」

「嬉しいです。アデレード様」

「え、私も奢ってもらえますよね」

「当たり前じゃないか。イザベラのおかげで仕事ができているのだから」

「ありがとうございます。魔王様」

そして、戸締りをして、すずか庵に向かうことにした。

今作は前編後編に分かれた前編です。

後編は今週来週で出す予定です

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