少年僧侶-華-の相談。
実はこのパーティ唯一の男性である、華さん。見た目は小柄で可愛らしい少年なのだが、最近元気がない。
ダンジョンに連れ出してもあまり仕事がパッとしない。私の部屋にいるときにも、自分のステータスを見てはため息をついていて、何かを悩んでいるようである。この調子だと部屋の空気も暗くなるし、何よりも見ていて可愛そうであるので、魔王様が権利を濫用して、彼のお悩みを解決してあげます。
城に戻ってきて早数か月。城での仕事のやり方も忘れていたので一からやり方を編み出しつつ、いつも通り町の周辺に湧く下級の魔物をシバいたり、裏庭に花を植えてみたりと、私魔王はこの上なく充実した生活を送っている。ジュリアナとの関係性も悪くはないし、むしろ前よりも良くなっていて、彼女が私の家で朝まで居る日も週に2回に増えている。
そんな時に、突然私の部下である、凱から相談を受けた。しかもイザベラさん不在の時に。
「魔王様、華さんについて、少し相談に乗っていただけないでしょうか?」
「話は分からないが、とりあえず聞こうか」
「はい」
そう言って、凱は色々話してくれた
「最近、華さんの様子が気になってしょうがない。別に恋愛的な意味で気になっているという訳ではない。タイプじゃないというわけでもないが、今回は違う。気になっているのは、華さんが何か悩んでいるようである。というのも……
今朝は、私よりも早い時間に私の部屋に入って、何かを見てため息をついていたし、
以前だったら勝手に必ず食べていた、頂き物のお菓子に手を出さないし、
前に行った下級の魔物退治のときも、術式にイマイチ切れがない感じになってしまった。実際会ったときはタイミングといい使う術式といい、かなりクレバーな感じで、女性に寄った見た目に反してすごく手こずっt……かっこよかったのに、それ今やパワーはあるけど、狙いは定まらないし、タイミングも何かいまいち。これは絶対何かあるはずだ。
ということで、今日こそ魔王様に話を聞いてもらって、繊細で精密な華さんを取り戻そうと思う。」
凄いな……これを一息で行ったんですよ。どれだけ華さんのこと思っているんだ。
でも華さんには既に彼氏が居るのだ。これはどこかで伝えないといけないだろう。
「えっと……華さんの体調自体は大丈夫?」
「そうですね……そういえば食欲も無かったり、そうかと思えば突然元気になって大食い始めたり、魔術も力が無い時もあれば、異様にパワフルな時もありますね」
「報告ありがとう。私の方で少し調べてみることにする」
「では、よろしくお願いいたします。魔王様。あ、このお菓子頂いていきますね」
そう言って、どこかからのお土産で置かれていたお菓子を箱ごと掴んで、私の部屋を出て行った。なんでもこの後、城の地下の訓練場で戦闘訓練をするとのこと。
さて、華さんが問題を抱えるとすれば理由は2つ。1つ目は今のパーティ内で何か問題を抱えている。
2つめは馬運屋の忍だ。そういえば、忍の奴、華さんに告白していたが、その後どうなったのかをよく知らない。確か華さんはOKの返事を出していたはずだが、ここ最近会っていないので、会ったら聞き出すか。
「ただいま戻りました。今日は雨が凄くて嫌になりますね」
困った問題を抱えていたところ、有能な秘書が丁度良いタイミングで買い物から帰って来た。
「お、いい所に来たイザベラ、少し相談したいことがあっていいかな?」
私がそう言うと、何かまずい相談をされるとでも思ったのか、イザベラは逃げの体制に入った。
「華さんの件で相談した話を、魔王様入れてもう少ししたいだけなのだが、駄目でしょうか?」
凱さんからも、イザベラへの援護が入り、ようやくイザベラは警戒を解いてくれた。
「どうしたのですか、魔王様が人のことを気にするなんて……」
「私だって、部下の相談には乗るし、問題を抱えているなら解決できる範囲では解決するよ」
「でも、今回のは人の心の中の話ですよ。力と魔力で解決できるものではないですよ」
うちの秘書は私を何だと思っているのだろうか……魔力と力はすべてを解決するっていつもいつも思っているわけじゃないのに。
「まあ、とりあえず本人呼んでみよう」
「そうですね、とりあえず本人が来ないことには何にも進みません」
一旦の結論が出たことで、今日はお開きとなり、今日はそれぞれ仕事に戻った。
翌日、私の執務室に行ってみると、都合よく勇者ジュリアナと華さんが一緒に来ていた。
「おはようございます……って今日はジュリアナと華さんが来ているのか」
「お邪魔しています、魔王様」
「よっ、アデレード」
勇者の挨拶が妙に軽いのは一旦横に置いておいて、今日の主な議題は華さんの話である。
魔王が、自分に消えてほしい勇者一行の面倒を見るのは変なのだが、華さんはこの辺に住み始めて住民登録まで済ませ、立派な市民になっていたりする関係で、無視するわけにもいかないのである。
「それで、華が私に相談があると聞いているけど、どのような件かな。言いにくければ言わなくてもいいけど」
と言っても私と彼の間にはほぼ親交が無い。互いに顔見知り以上の存在ではないのだ。この状態で出っかい魔王様に何か打ち明けるのも厳しいだろうと思われるが
「実は、忍さんとのことで、魔王様に相談したいことがありまして」
あー、居ましたねそんな男が。華さんを小柄な女性だと勘違いしていて、男だと分かってもそのまま強引に告白した奴が。
「え、あの男とまだ続いていたの?」
「ダメでしょうか……」
「あんな弱くて稼ぎも微妙な男のどこがいいの?」
勇者の強めなダメ出しのせいで、小さめな華さんがより小さくのなるのが目で見てわかるほどだった。
ここは1つ、私がこの辺のボスとしての威厳を示すべく、気の利いたことを言ってやらないと
「まあまあ、それでも彼は誠実だし、結婚すればいい夫になると思うよ」
「そうだけど……見た目で選んでたんでしょう。」
「見た目の割合が大きいのは確かだよ。でも男だと分かってからもそのままアタックしたのは本気の証拠だよ」
相も変わらず勇者は不満そうだったが、華さんの大きさが元に戻ったように見える程度には話しやすくなったようだ。
「ふふ、魔王様がそんなに私と忍さんのことを見ていたとは思っていませんでした」
「私は大体のことは見ているし、知っているぞ」
「気持ち悪い。どうせその能力で私の寝室も覗いているのでしょう?」
「ジュリアナうるさい。お前は週の半分私の寝室で寝ていたじゃないか。しかも裸で」
そう言うと、勇者ジュリアナは顔を真っ赤にして、黙り込んでしまった。
勇者が黙ったうえに、華さんの緊張が和らいだのでこれ幸いと情報を引き出すことにする。
「で、華さんと忍君のことだけど、何かあったの?私でよければ話に乗るよ」
そう言いながら、冷たいコーヒーを渡すと、華さんは忍君との最近の関係を淡々と話し始めた
「出会ってすぐは普通のお付き合いをしていました。仕事が終わった後に一緒にご飯を食べたり、休みの日は一緒に町中まで買い物に行ったりして、最後には家で一緒に寝る感じです」
私はヒト族の恋愛観がわからないので、黙って頷きながら聞いていると、隣から勇者が
「普通のカップルっぽいけど、何かダメなの?」
「それが、付き合ってから3か月ほど経っているのですが、一度も魔獣狩りにもダンジョン攻略にも誘われないのです。もしかして、私は忍さんにとって邪魔になっているのではないかと思いまして」
「彼女……じゃなかった、パートナーにもちゃんと配慮できる良い彼氏だとおもうよ。一体どんな生活を想像していたの?」
「普通の殿方はもっと過激な休日を過ごされているのかと思いまして……」
「いや、この城の連中がおかしいだけだから。いい彼氏さんじゃん。華ちゃんは何が不満なの?」
勇者の質問に対しての回答は、ごもっともなものだった。なんせこの街の住人、休みになるとダンジョンを掘り返したり、山で幻獣狩りをしている人たちばかりで、家に引きこもっているかと思ったら武器の手入れとか飛び道具の改造とかで、のんびり過ごすってことを知らない人ばかりだから仕方ない。
「忍さんはとても素晴らしい殿方です。こんな私にも優しいですし、昨日も仕事から帰って来てすぐに私のことを気遣って、皿洗いしてもらいました。」
「私が初めに忍さんを騙してしまったために、私が忍さんのことを縛り付けているのではないかと思いまして……」
華さんが話すたびに、ソファーの隣に居る勇者に、すごい形相で睨まれながら足を踏まれて、その振動でテーブルの上のアイスコーヒーが小さく音を立てる。言っておくがこの状況を作ったのは私のせいではない。私はこの状況から逃げ出すために、自分が知っている提案をしてみた。
「華さんが忍君を引きずり回しているって思っているのだよね?
じゃあ、実際に華さんがしたいことをする日を作って、一緒に過ごしてみたらどう?」
一か八かで適当に言ってみたが、これが華さんの心にどう響くか……
「そうですね、逆に私がやってみたいことをやってみる日を作ってみます」
「よし、その息だ。アデレード様が持っている権力全部使って協力するから、何でも言ってみなさい」
良かった、彼女の心に届いたようだ。さて、普段の仕事に戻るか。そう思ってソファーから立ち上がると、華さんの口から飛んでもない言葉が出てきた。
「私、雪山に上って、山の上にあるお堂で修行してみたいと思ってたんです。魔王様が協力してくれるなら、忍君と一緒に行っても大丈夫ですね」
「あ、あ、そうだね、応援するし、いろいろできることは手伝うよ」
魔王様から言ってあげられることはこの程度だった……今度忍君に会ったら説明しつつ、飲み代奢ろう。
「ここで吐き出したおかげで気が楽になりました。今日はありがとうございました。魔王様と勇者様。」
華さんはそう言うと、軽やかな愛取りで、僧衣をはためかせながら、魔王様の部屋から出て行った。
私はソファーに座りなおして、隣にいる女勇者に聞いてみた。
「ねえジュリアナ、私はどうしたらいいと思う?」
「知らないわよ。あんたが蒔いた悪魔の種よ。ちゃんと刈り取りなさい」
人の気持ちとは、よくわからないものである。
今回はいつもよりも短めです。そのうちこの話の後日談出します




