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魔王様はだいぶやる気なので、勇者に格の違いを見せようと思う

魔王様の部屋に押しかけて、決闘を迫った勇者。

とりあえず魔王アデレード、勇者ジュリアナ、秘書イザベラの3人で自己紹介までした。

そして今回、勇者と魔王が裏庭で模擬戦やるらしい。

さて、裏庭の地面と壁は戦闘に耐えられるのかを見ていこう

魔王様の部屋は城の3階にある。私はとりあえずいつもおいている鉄製の斧を持って、勇者は秘書に渡していた防具と剣を身に纏いながら部屋から出てきた。そして、2人そろって階段室を降りてゆく。

「この城の廊下は明るいですね」

勇者がボソッとつぶやく。

「暗いと危ないからね。昼間は太陽光が最大限に入るようになっている。夜になるとトーチに自動で火が入るから見えなくて危ないことになることはない」

魔王が無駄に城の中身の自慢をする。

明るいけど閉塞感漂う階段を降り、外に出ると、かなり広い裏庭が広がっている。

芝でおおわれている部分と土でおおわれている部分、更には石が敷いてある部分と、訓練場としてはかなり手入れが届いており、式典で使っても恥ずかしくはない場所である自信はある。

そしてその場所では、少し小さめの人間2人と獣人2人が戦っていた。

いつもの光景だが、彼らは互いに殺戮でもするつもりなのではないか……といった勢いで訓練をする。

当然、それに着いて行けない者は近づくことさえ物理的に許されない、そんな戦いが繰り広げられている。

「勇者、ここから先は戦場だから、気を付けないとケガするよ」

「わかりました」

「いつ空くか聞いてくる。そこで待ってて」

城の建物付近の安全そうな場所で勇者を待たせて、あの4人を止めに行く。

過去に私は失敗したことはないが、失敗したら粉々になるらしい。

「おーい、凱 (カイ)、蓮 (リエン)、サムエル、マーサちょっとストップ」

「アデレード、あと3分ほどで終わらせるので、そこをどいてください」

「了解。急ぎじゃないから壊さない程度に本気でやっていいぞ」

こんなことを言われてしまったので、周囲に気を付けつつ勇者ジュリアナの元に戻る。

「どうでした」

こちらをかなりの上目遣いでみてくる。よく知らない奴なら簡単に落とせそうな顔だ。

「まだしばらく使うって。一緒に喫茶店でも行く?」

「いえ、ここで彼らの戦い方を見ていきます」

そう言うと、勇者は立ち上がって彼らの戦い方を観察し始めた。

私はこの戦い方を見慣れすぎて、何か面白いものはないと思うが。

今回は、凱 (カイ)とサムエル、蓮 (リエン)とマーサという、性別がはっきり分かれる組み合わせ

種族的にはどちらも獣人1の人間1なので、性別による戦い方の違いははっきりする。

凱 (カイ)と蓮 (リエン)はどちらも近接の格闘技が強くて、凱 (カイ)はそこに短射程で中威力の魔法を放つ戦い方をする。蓮 (リエン)はどちらかと言えば俊敏なので、近づかれるとそのまま格闘技の餌食になるか、もしくはホールドされた状態で魔法を撃ち込まれるかの2種類。

サムエルも私に負けず劣らずの大柄であり、体重が私と同じ程度。大剣が武器でこのパワーから放たれる攻撃は文字通り岩を割る。その上に400mを30秒で走る俊足。はっきり言ってタンクが馬並みの速度で走ってくるのはこちらからしたら恐怖だが、そんな彼でも欠点があり、魔法は苦手らしいが、それでも大鉈や剣に魔力をまとわせた状態で戦うことはするので1発1発がかなりの致命傷につながる

マーサは剣が主な武器だが、近接戦闘もうまく小柄で軽量で俊敏な体を生かして一気に相手の懐に飛び込んでいくような戦い方をする。だが、持っている魔力は少ないため、補助的に能力向上や防御に使うのみである。

「あの大きい人、意外と強くないんですね」

流石勇者と呼ばれるだけはある。普通なら見た目がでかそうなやつが一番強そうに見えるから。

ただし、避けることができれば大した問題ではないことに気づくし、避けるための訓練をする。

恐らく勇者はここに来るまでにある程度以上の戦いの経験を積んでいるのは確定だろう。

「その通り、その辺の魔物相手と違いって、パワーだけで決まるほど簡単なものじゃない。よくわかっているじゃないか勇者ジュリアナよ」

「あ、あれヤバイ」

見ると、凱 (カイ)がだいぶマーサにやられている。どちらも近接戦闘が得意だが、マーサが中距離魔法をうまく受け流して相手の懐に飛び込んでいる。ここからの形成逆転は難しいな。と思ったら(カイ)が魔法を放って一気に距離を離した。

「でも逃げられたね。あれは痛いよ、魔王様」

「そうだな。あの体格であの中威力の魔法を直で受けるのは結構辛い。」

そのような流れで、なんだかんだ5分ほど戦闘開始からたった頃。少し勇者に語りかけてみた。

少し勇者の性格を聞きたくなったのもあるが、それ以上に時間が経つのに耐えられなかった

「ねえ勇者。さっきも聞いたけど、なんでここに来たの?」

「何言ってるんですか?私の目標は魔王を倒して、お金持ち……世界平和を実現するためです」

お金持ちと世界平和ねぇ……来るところ間違っている気もするけど、とりあえず聞いてみる

「私を倒してもその目的は達成できないぞ。私自身の持っている資産なんてたかが知れているし、人間の街を襲うのはこの町の魔族ではないし……」

その言葉を聞いて、勇者は少し困惑と疑いの目を私に向けてくる。敵からそんな言葉が出てきたら私なら絶対に疑う。でももう少し彼女のことを知っておきたい。

「じゃあ、私の村を襲っていた魔族はいったい何だったのですか?私の母、父、友達……みんな殺されました。」

真実を伝えるかどうか迷う。この場で伝えてもわかってもらえないかもしれない。でもいつか理解するだろうし、言わなくてもいつか見つけだすだろう。

「おそらく襲った魔物と魔族には2種類いるはず。1つが知能が低く、誰かの命令で動いているもの。このような危険な魔物はこの辺りにはいない。そして2つ目のほうで、他の魔王や魔族、もしくは人の命令で村を襲って、死体やら家財やら目当てで動いている集団。しかしこれも、この町の人口全部集めても足りない程度の数しかない」

「つまり魔王が襲わせたものではないということ?」

「その通りだ、勇者よ。」

その言葉を聞くと勇者が、信じられないという表情をして、床に崩れ落ちてしまった。

私だって同じ状態になる。勇者の心が弱いわけではない。やってきたことの根拠がなくなれば、そんな顔をして当然だ。

「勇者ジュリアナよ。直ぐにこれを受け入れなくてもよい。時間が解決することもある」

私はそう言って、呆然とした表情をしている勇者ジュリアナを自分のほうへ抱き寄せた。

見た時と同じだった。体は全体的に細いし、でも筋肉がついていて俊敏に動ける感じである。

そして、装備品もこの年代の女の子らしい、可愛らしい装飾が施されている。

そして、勇者を抱いてから10分ほどたった頃に、汚れ切った蓮がこちらに来た。

「魔王様、訓練が終わりました。」

「で、今回はどっちが勝った?」

「私、リエンとマーサが勝ちました」

「そうか、報告ありがとう。」

普段ならこの程度の会話で終わるところだが、(リエン)が珍しそうに、私に抱き着いている勇者を指さして言った。

「魔王様、こちらの人間は?」

「この子?私とこの後で戦う予定の勇者だよ」

「こんな弱そうな子で魔王様のお相手ができますか?」

「見かけによらないってことは往々にしてあること」

「魔王様が終わったら、わたくしがこの子のお相手をしても良いでしょうか」

一瞬、私は回答に困ったが、今後のことは任せてみることにした

「もし彼女が良いといえばね」

「はい、ありがとうございました。」

そう言うと、(リエン)は裏庭を後にした。

さて、我々の順番が回ってきたので、勇者と一戦を交えることとする。

「勇者ジュリアナよ、舞台が空いたようだぞ」

「そうね、今度は私が魔王を倒す番ね」

「その言葉を待っていた。こちらも全力で行くことにする」

私は後ろに仕舞っていた大斧を取り出し、位置に着く。勇者は剣を鞘から取り出し、構える。

「さて、勇者ジュリアナよ。今から決闘を始める。準備はよいか」

「私は準備出来ている。」

そう言うと、勇者ジュリアナは軽やかに風のように一気に間合いを詰めてきた。これはだいぶ厳しいが、こちらのほうが純粋な攻撃力と装甲では勝っている。

勇者の剣による攻撃を斧で防ぎつつ、勇者への攻撃魔法の準備をする。広範囲に渡る高火力な魔法を放てば一瞬で勝てるが、それをすると裏庭の復旧が面倒なことになる。さてどうするか。

「魔王、戦いに身が入っていないぞ」

勇者の剣の一振りが私の左腕に刺さる。致命傷でも一手を決めるものでもないが魔王ともある者がうっかりしていた。

想像以上に勇者が素早く、手段は選べないようなのでこの1発で決めることにする。庭は後で直せばよいか。

「勇者よ、お前の攻撃はその程度か」

その言葉言うと同時位で、勇者が剣を構えつつ一気に突っ込んでくる。斧での攻撃が間に合う間合いでは無い。斧にの魔力蓄圧瓶を起動させ、魔力を戻しつつ即発動させる。

「アンダードライブインフェルノ」

仕方ないので高火力で局所的に爆破する魔法を一気に発動する。これで明日は庭仕事確定である。

魔法を唱えると、凄まじい音と爆風が周囲に響き渡り、辺りは砂煙と煙で一瞬視界が無くなる。見えないが、勇者からの距離が取れたことは分かった。

「これで終わりだ、魔王」

勇者がこちらに剣を振り下ろしながら来るのが感じられる。目ではわからないが、波の反射でここにいるのがわかる。

「勇者いただき」

あっさりと勇者の剣の直接攻撃を避け、そのまま大斧で勇者の胴体に攻撃を叩き込む

「ぐはっ・・・」

勇者に攻撃が確実に入った音と感触がし、勇者は数ft飛んだのちそのまま土の地面に倒れこんだ。

私は斧を片手に、勇者にゆっくり近づいていく。過去に私の斧の攻撃をまともに受けて立ち上がれた者はいない……今回は例外のようだが、勇者はこちらを見ながらかろうじて立っている。

いつものメンバーなら、この状態だと負けを申告するのだが、この勇者はタフなのか、それともルールを知らないのか……真意は聞いてみよう。

「勇者よ、降参するか?」

「誰が魔王に降参するものですか」

仕方がないので、勇者の体に1発、ハイドロブローを叩き込んで終わりにする。

勇者はさらに数十ftほど飛んでいき、途中で剣を離した状態となった。いつもならやりすぎと言われるが、今回なら城のみんなは許してくれると信じている。

満身創痍となった勇者に近付いていき、新たに状態を聞く。

「勇者はまだ戦えそうですか?」

「もう無理ね……私と魔王の力の差をはっきりと見せつけられた。完敗よ」

私はその言葉を聞いて、勇者を抱えて、城の医務室に向かった。

医務室に入るなり、私はこういって勇者を医者に押し付けてきた。

「何も聞かないでくれ。彼女を手当てしてくれ」

「何があったんです?」

医者としては気になるよね、だって朝まではきれいな女の子が、夕方にはボロボロになって帰ってきたのだから。

「大したことじゃない。戦闘訓練やっていただけ。私の腕も見るか?」

そういって医者に切られた側の腕も見せると

「結構深くまで入ってますね。ここで縫っていきますか?」

「あの人の子を先にしてほしい。私はそれからでも問題ない」

「わかりました」

「じゃあ、私は上で仕事するから、何かあったら執務室に連絡して」

そういって、医務室を出た。

医務室から、3階の自分の部屋まで戻る間で、切られた左腕の言い訳を考えないと、

そんなことを考えながら歩いていたら、執務室の前までやってきてしまった。

重く閉ざされた扉を開く左腕が結構痛むが、それでも執務室は待ってはくれないようだ。扉が開き、中にはいつもと変わらない秘書が仕事をしている。

「ただいま戻りました」

「魔王様、意外と遅かったのですね」

「前の警備兵組が遅かったから」

「そうなんですね。あ、魔王様、そのけがは」

「勇者に受けた傷。大したことはない。後で伸びている勇者を回収するときに一緒に手当してもらう」

「それならいいですけど」

優秀な秘書が不安そうな目でこちらを見ている。とりあえず、ここに山になった書類の処理を早めに終わらせよう。

やはり、裏庭はボコボコになってしまったそうです

そして勇者は朝食の時間までに起きることができるのでしょうか

次回は、魔王様が裏庭を直す話です。直らないと次回以降の主人公が交代になります

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