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魔王様。勇者のご実家にお邪魔して、一日の生活を体験する

先日勇者ご実家にお邪魔した魔王様。今日は仕事と寝てばかりとはいかないので、実家の家業を手伝うことにする。

その一方、勇者は両親への恩返しとばかりに料理をすることになっているそうだ。

朝、体が収まりきっていないベッドで目を覚ますと、私は知らない部屋にいた。部屋にはベッドが2つ並んでおり、窓際には小さい机が置かれていた。そうだ……今日は勇者のご自宅にお邪魔していたことを思い出した。外からは出たての朝日が見えるので、早朝と言っていいくらいの時間である。

そうなると残りの人が気になってもう一方のベッドを見ると、私の秘書と、魔法使いが一緒に寝ていた。狭いはずだが、私の秘書は小柄なので問題ないのだろう。

そして、自分が寝ていたベッドを見ると、可憐な少女がか細い寝息を立てていた。そうだった、昨日私が勇者が寝ていたベッドに忍び込んだのだった。

この場で勇者を起こす理由は特にないので、一旦静かに部屋を出て、朝の仕事をしようと思う。普段はこんな仕事しないが、農家に来て、久しぶりに家畜の世話をしてみようと思ったのだ。部屋の中の同居人を起こさないように、静かに着替え、慎重に窓から部屋を出る。牛が居る小屋に行くと、既にランドールが牛の世話を始めていた。

「おはようございます。ランドールさん」

「おはよう。何か用かい?」

ランドールに少し不思議な目で見られたが、特に疚しいことも無いので、普通に返す。

「いいえ、早めに目が覚めたので、久しぶりに牛の世話をしようかと」

ランドールは一瞬考えたのち、すぐにこう答えた

「じゃあ、アデレードちゃんに任せようかな?」

「ありがとうございます。ちなみにこの子達の役割は何でした?」

「ん?何でそんなこと聞くんだい」

「使役動物としての牛はいたのですが、それ以外の牛はさっぱりなので」

ランドールはこれまた一瞬考えたのち、煮え切らない回答をした。

「畑を耕すにも使ってるし、市場に出すのにも使ってるし、乳も絞ってる。だから……ぜんぶだ」

私が困惑した表情を浮かべていると、ランドールは私の肩に手を掛けて言った

「大丈夫だ。わからないことは私が教える。」

「わかりました。早速ですが、乳搾りのやり方を教えて下さい」

ランドールは自信満々に答える

「任せろ、まずは……」

そう言うと、私の手を取って、牛の乳搾りの方法を実演してくれた。

「と、こんな感じにやれば大丈夫だ。」

「ありがとうございます。ではこっちはやっておくので、市場に行くとか畑で使うとかあれば言ってください」

「ありがとう。外から来たお客さんなのに悪いね」

「いえいえ、久しぶりに農家の仕事ができて楽しいですよ」

そう言うと、ランドールは、鶏小屋の方へ向かった。

3頭分の乳搾りを終わらせ、牛舎の中を掃除して肥溜めに投げ込み、5頭分の藁を持ってきて敷くところまで終わらせると、朝日は完全に地平線から出てきていた。ここから牛を連れまわすのも微妙な時間なので、牛乳をもって家の中に戻る。

家に戻ると、家の裏でセリーナが薪を割っていた。重労働そうな仕事が取られていて、喜ぶべきなのだが、何故か今日は負けた気分になった。

そして家の中に入ると、美味しそうな、パンとベーコン、後は卵が焼けるいい匂いが漂ってきた

家に入って早々に、リリアンに話しかけられた。

「えっと……アデレードさんだ、今朝ごはんできたから、お父さん詠んできてくれる?」

「もちろんです。代わりにこの牛乳をお願いします。」

そう言って牛乳の入ったバケツをリリアンに渡し、そのまま家を出て、鶏小屋の方へ行く。

家のすぐ裏にある鳥小屋では、ランドールが小さくなって卵の回収をしていた。

「ランドールさーん、朝ごはんできたので行きましょう」

「わかった、片付いたら直ぐにいくよ」

「ランドールさーん、何か手伝うことあります?」

「そうだな、この卵持って行ってくれ」

「わかりました。このかごでいいんですね」

ランドールさんの後ろにあるかごを指さして、一応確認する

「そう、母さんのところに持って行って」

「では戻りますね」

家に戻ると、食卓の上に卵とベーコン、パン、あとは果物とサラダが準備されていた。

「ただいまもどりました」

「あ、アデレードちゃんお帰り。お父さんは?」

「まだ片付けがあるといっていたので、もう少しかかると思います。これ、お父さんからもらった卵です」

「ありがとう。アデレードちゃん。じゃあ、お父さん来たら朝食にしましょうか」

「そうですね、お義母さ・・・・・・リリアンさん」

私の大きい体で、狭い台所でお茶を入れながら、ランドールを待つことにした。

できたお茶を、リリアンに渡す。

「あら、ありがとう。アデレードは気が利くのね」

「いえいえそんなこと、丁度私もいただこうと思っていたもので」

そして、お茶を頂きながらたわいのない会話をしていると、やはり娘の話になってきた。

「アデレードさん、私の娘はよくやっているかしら?」

「ええ、ジュリアナさんは冒険者としての技術や能力については素晴らしいと感心しています。」

「いえ、そうではなくて、なんというか……彼女のパートナー的な部分での話で」

私は、後ろから角材で殴られたかのような衝撃を感じた。全身から汗が噴き出て、口から出てくる言葉1つ1つが恐ろしく、次に起こすアクションが非常に怖い。しかし私は魔王である。失敗したらまたその時考えれば良い。最悪、家族ごと無かったことにしたって”魔王”の名には恥じない選択である。

「すみません、私は彼女とはそういった関係ではないもので」

リリアンさんは非常に残念そうな顔をしながら、紅茶を啜っている。

「そう、貴女みたいな素敵で強そうな人と結ばれれば、ジュリアナも幸せかと思っていたけど、親の勝手な押し付けかもしれなかったかね」

「いずれジュリアナにもいい出会いがあるでしょう。その時まで応援してあげてください」

そんな会話をしていると、ランドールが帰ってきたようだ。

「お父様が戻られたようですね。お茶を淹れてきます」

「ありがとうね、アデレードちゃん。まったくうちの子はいつまで寝ているのかしら」

「まあまあお義母さん。慣れない土地での生活と、長旅でかなり疲れているので、しばらく休ませてあげましょう」

お茶を淹れつつ、まだ配膳されていなかった御父様の分をテーブルに並べる。慣れべ終わったら、そのまま開いている席に座って一緒に頂くことにする。卵に、ベーコンに、果物と取れたばかりの野菜。ついでにお茶も準備してあるとは……正直、こんなにちゃんとした朝食を頂くのは久しぶりである。

「では、冷めないうちに頂きましょう。アデレードちゃんにも手伝っていただきました」

リリアンの言葉を聞いて、ランドールは半分笑って答えてくれた

「家事もできて、家畜の世話もできる。それじゃあ、うちの娘の嫁にぴったりだな。」

正直、ジュリアナは好みだが、そういった関係に入っていくことには慎重になっている自分が居る。生活の基盤はそろっているし、お金の心配も無い。2人とも生活力は十分にある……でもこれだけ押されても前には進めない・・・・・・

「ははは、そうですね。もし結婚したら幸せにできるでしょうね」

御父様もお義母様も笑っていただけた。

最近のジュリアナの活躍具合などの近況を交えた会話をしていると、階段から勇者と魔法使いと秘書が下りてきた。

「「「ランドールさん、リリアンさん、おはようございます。」」」

「おはようございます。皆さん。ご飯はすぐに準備するのでちょっと待っててくださいね」

そう言うと、リリアンさんは厨房へ行き、起きて来なかった者へのえさの準備を始めた。

そんな中、美味しい食事を頂きながら、御父様がまたとんでもないことを言い出した

「アデレードちゃん、家に来て家業を継ぐ気はないかい?」

「家業を継ぐなんて、まだ御父様も健在ですし、私なんて足手まといになってしまいます」

「アデレードちゃんは謙虚だねぇ。」

「そんなことはないですよ。」

「ところで、アデレードちゃん、この後時間あるかな?」

「もちろんですランドールさん。何をしましょうか」

「この後、市場に行くから、手伝ってほしい」

「この後すぐに市場ですね。何を仕入れに行きます?それとも売りに?」

「両方かな。卵と小麦あとはチーズを売りに行く。で帰りにパンだとか野菜、後は肉を買いに行くかな」

「そうなんですね、もちろんお手伝いします」

そう言うと、ランドールさんはまた家の外に行ってしまった。恐らく売り物を荷馬車に積みに行ったのだろう。

「ねえアデレード、ずいぶんとお父さんと仲良くなったようだね」

突然、エレノアにそんなことを言われた。ふつうは、初対面の人同士でここまでの会話はしないか

「確かに……お義母さんともしているけど、初対面にしては多いよね」

「そうですよ、私は会った時と夕食後だけ、イザベラに至っては全く会話してないのに……」

「今日は一杯時間あるから、特にジュリアナはご両親と話した方が良いよ。私はランドールさんと市場に行ってくる」

「そうなんですね……いってらっしゃい」

そういって家の外に出て、納屋の方へ向かう。先ほど話していて思ったのは、エレノアのいう通り、私とジュリアナの両親との関係はかなり濃くなっている。それ自体は悪いことではないが、目的としては、ジュリアナが私の手元に居ても特に問題のない環境を作っておきたいだけである。別に、ご両親に興味があるから親しくするわけではないのである。

そう思いながら納屋に入ると、市場に出る準備を済ませたランドールさんが居た。

「お、アデレードちゃんももう行く準備は済んだ?」

「ランドールさん、もちろんです。今日は卵だけですか?」

「そうだね。帰りに食料品を仕入れて帰ろう」

「そうですね」

ジュリアナの実家から、街の中心部までは荷車引いた状態で20分ほどの距離である。道路については、舗装はされていないがある程度の手入れはされており、移動しにくいってことはなかった。

「こうやって荷車引いて移動するなんて久しぶりですね……」

「あれ、アデレードちゃんも荷車引いて市場とか行く?」

「いえ、どちらかといえば山の方とか、街の外にですね。」

「女の子なのに意外だねぇ。」

「そうですか?最近はジュリアナ連れて鉱山に連れて行ったりしていますよ」

「あの子がそんなところに……勇者になるって言って、家を出た時は全く信じなかったけど、よくやっているのか」

「はい、ジュリアナの冒険者適性はかなり高い部類になります。」

それを聞いたランドールさんは、目に涙をためていた

「ランドールさん、どうかされましたか?」

「済まない、あんな小っちゃくて何もできそうにもなかった娘が、こんなに立派になって冒険者やっているって聞いて、しかも農業から金勘定と政治まで強そうな姉ちゃん連れてきたら、感激で波が止まらなくなってしまって」

「そんなに感激していただき……私は嬉しいです。とりあえず市場に行って卵とチーズ、後はジャガイモを売ってきましょう」

「お、おう、そうだな」

そんなことを話しながら、市場に着いた。まずは卵をまとめ買いしていただけるお得意さんと、レストランをやっているところに卵と牛乳とチーズを、後は市場の仲買人に余ったジャガイモや牛乳、後はチーズなどの乳製品を売りわたし、現金収入を得た。その足で、野菜やフルーツ、ベーコンなどの肉製品、調味料や小麦粉やパンなどの食料品を買い回った。やはりウィロウウッドの市場と比較すると、農産物が多めで、代わりに交易品が少ないのがこの街の特徴らしい。物価については、ウイロウウッドが妙に高いだけで、ここの地域は「普通」の部類に入る程度である。

「ランドールさん、これで買い物は全部ですか?」

「そうだけど、何かあったかアデレードちゃん?」

「ちょっと薬屋に寄ってから帰ってもいいですか?」

「ああ、もちろんだけど、何かあったかい?」

「お父さん、結構毒にやられていることが多そうなので、毒消しを調合してもらって、持っておいた方がいいと思って」

「おお、そうか、それは助かるな。じゃあ行こう」

お父さんに説明しながら歩くこと数分、この町唯一の薬局についた。

「ごめんください、薬草の調合をお願いしたくて」

「新規のお客の対応はしない」

「いえ、ゆいさんから紹介していただきました」

「おおそうか、中に入れ」

そう言われ、中に案内される私たち

「初めまして、エヴァンと申します。よく見たらアデレード様じゃないですか。今日は何の御用で?」

「どうも覚えていてくれてうれしいよ。早速だが、隣にいる紳士に、虫とか蛇の解毒剤を4個と、体力増強に聞く奴があれば4本かな」

「アデレード様、何に使用されるのです?」

「農作業でのお守りだよ。エヴァン」

「そうでしたか……てっきり冒険者が薬頼りで無理に攻略しているのかと思いましたよ」

「そんなことはもうしていないよ。いつ頃までかかりそう?」

「えっと、2日後のこの時間までには用意しておきます」

「エヴァンありがとう。お金はこれで足りる?」

そういって、アデレードはカウンター上に小銀貨数枚を置いた

「ああ、これだけあれば十分。取りに来る時までに釣りは用意しておく」

「ありがとう。」

そういって、少し変わった薬屋を出た。

買ったものを荷車に乗せて、来た道をそのまま帰っていく。道中でお父上からとんでもない提案をされた。

「アデレードちゃん、家の娘をもらってくれないか?」

先ほど逃げた話の続きである。とうとう答えを出さないといけなくなってしまったのかと思いつつ、逃げる最善策を引っ張り出す

「そうですね、今のところはそこまで考えてはいません。もしかしたら素敵なお相手がいらっしゃるかもしれませんので」

「そうか……俺は、アデレードがジュリアナの婿になったらうれしいと思っている。この数日、私に息子が増えたようなかんじで、俺は楽しかった。」

「帰って彼女と相談してみます」

重めの空気を纏わせながら家に戻ると、リリアンさんが、ジュリアナ、イザベラ、エレノア、セリーナ、華さんを集めてテーブル囲んで編み物をしていた。

「ただいま戻りました」

リリアンさんだけがこちらを向いて、私たちの方を向いてくれた

「おかえりなさい」

その声に反応するように、残った5人もこちらを見て「お帰り」の声をかけてくれた。

市場で仕入れた食料と細かな日用品を持って、ランドールさんと一緒に家の中に入り、パントリーに食料を仕舞っていく。仕舞いながら、リリアンさんに今日のこの状況を聞いてみることにした。

「リリアンさん、今日はみんなで何をされているのです?」

「これはね、編み物を教えているのよ。こんなに女の子が集まるのが久しぶりだから嬉しくなっちゃってね」

「それでこんなに集中して編み物を・・・・・・では、夕飯は私が準備しますね」

そういうと、リリアンさんがこちらにやってきて、意外なことを言い始めた

「だめよ、今日はジュリアナちゃんたちに料理をやってもらう日なんだから」

「では、私もここでお手伝いしますね」

「アデレードさんはいいの。とにかく彼女たちに任せて」

そう言って、私はキッチンから追い出されてしまった。

しばらくは2階の寝室で書類仕事するか……と2階に逃げ込んだ。

普段自分では処理しない、大量に積みあがった書類をどうにかやっつけて、下の階に戻ると、

昨日の夕飯よりもはるかに豪華な夕飯が準備されていた。恐らく、自分が居たら足手纏いになっていたと思わされるような出来の料理だった。

「あれ、リリアンさん、この料理はどうしたんですか?」

「これはな、ジュリアナちゃん達が頑張ってつくった料理だ。」

「あの、少し説明すると、魔王様が持ち込んだお酒に合う料理が作りたいとのことで、ここにある材料と持ち込んだ材料で余ったもので仕立てたものです」

「エレノア、ありがとう。ではみんなの努力の結果を頂くとしよう。持ってきた酒については全部開けていいから、好きなの開けてくれ」

こうして、品のいい料理と高めのお酒が並んだ晩餐は始まった。

ここでも、一緒に暮らすことは頭の片隅に残っていたが、この場で出すことではないと、酒と一緒に飲み込んだ。

食事会が終わると、みんなは思い思いの時間を過ごしていた。私はあの同居の件がまた這い出てきたので、人間流の皿洗いしながら一緒に洗い流すことにした。

皿洗いから戻ってくると、リリアンさんとランドールさんはすでにソファーで寝ており、ジュリアナのみが残っていた。

私は今日、お父様から聞かれた件について、さりげなくジュリアナに聞いてみる。

「ジュリアナ、私、お父様からお前たちの関係はどうなんだって聞かれて……」

「え、魔王と勇者の関係ですって説明すればよかったじゃないですか」

「そんなことはできないよ。後の説明ができなくなるから。で、問題はお父様は私とジュリアナが同棲して欲しいって言っているのだよ。」

「私は嫌じゃないですが、魔王さま、いやアデレードはどう思っているんですか?」

「私は喜んで同棲するよ。最終的には結婚しても良いと思ってる。」

「アデレード様……そこまで考えられていたのですね。結婚したら勇者は辞めないと駄目でしょうか?」

私はジュリアナを抱き寄せ、耳元で囁いた。

「私は強くて活動的なジュリアナが好きだ。辞めないでくれ」

ジュリアナも負けじと返してきた

「私も、仕事に人助けに無茶をやるアデレードが好きですよ」

こんな会話を30分ほど続けていたところ、ご両親が起きてしまった。

「あれ、ジュリアナとアデレードはまだ起きていたのか」

「そうですね、お二人が寝たのを確認してから自室に戻ろうかと」

「じゃあ、お若い2人を邪魔しないように戻りますか」

「そうですね、ランドール」

そういって、2人は寝室に戻ったので、我々も寝室に戻り、ベッドに入った。

そして、ベッドでは互いに寝る前に小さな会話を交わした。

「さっき話していた、あなたと結婚する件については、かなり真剣よ」

「わたしの、あなたへの好きの気持ちも本物。」

そして、我々は眠りについた

意外と日常パートを書くって難しい。

次回はお祭りの準備編です。よその魔王にいったい何ができるのかは知りませんが

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