魔王様。勇者のご実家にお邪魔するために長距離移動する_3レグ目
あまりにも魔王城が寒いので、勇者のご自宅にお邪魔するつもりの魔王様と勇者ご一行。
ひとつ前の街、ラディアントクレストで夜通し走ってくれる馬車を見つけ、勇者様の家まで夜通し移動することにした。今回は馬車の中での食事風景と馬車の運転手が華さんにナンパする光景を描いていこうかと思います。
我々と無駄に買い込んだ物の数々をブライアベリーまで運んでくれる馬車は、真昼で非常に活気のあるラディアントクレストの街の中を10分ほど走り、街の外の街道との境目にある関所までたどり着いた。
私は、少し不穏な感じがしたので馬車の客室から、コーチマンに話しかける。
「馬車が止まっているが、何かあったのか」
そう聞くと、コーチマンはその美しい顔に困った表情を貼り付けながら答えた。
「見ての通り検問ですね。普段ならこんなに混むことはないので不思議です」
「そうか……何か助けが必要なら教えてくれ」
私がそう返すと、コーチマンは親指を立てて仕事に戻った。
馬車の幌の中に戻り、自分たちのパーティーを確認する。検問で引っかかるようなものは無いが、念のためである。女の勇者、女エルフの魔法使い、性別不詳の僧侶、種族不明な戦士、普通の獣人(狼)、そして大き目女魔族……自分が一番怪しい気がしてきた。対策を聞いた方が良いだろうか……大人しくしているべきだろうか・・・・・・
そんなことを考え、あたふたしていると、コーチマンがさわやかな顔で前の席から振り返って、爆弾を投下していった。
「まずいです、今日は町の外での旅客運行許可証持っていないんです」
え・・・これでは我々出られないじゃないか。
「わかった。どうにかするから前を向いていてくれないか」
私がそう言うと、コーチマン君は何もなかったような顔をしながら自分の仕事に戻った。
さて、ここからが問題だ。今の我々の持っているものでどうにかできないだろうか?勇者なら色々持っていそうなので聞いてみる。
「ねえ勇者、勇者の持っている冒険者登録証って、検問通るのに使えないかな?」
「普段なら問題なく通れますが、魔王と一緒だとどうでしょうね。」
勇者はそういって通行証を取り出し、裏面を確認すると、ジュリアナ、エレノア、華、セリーナの4名のみになっていて、追加で2人までの通行に使用可能となっていた。
「だめでした、魔王様の通行証はどうなってますか?」
こちらも裏面を確認すると、アデレードとその付き人、部下などの同伴者まで使えることにしている。人数制限はない。
ちなみに私の署名が入っていて、私と仲の良い役人や王様とかが居る国では普通に通用する。
「一応使えることになっているし、この街なら使える」
「では、魔王様の持っている通行証で通せば良いのではないですか?」
「それもそうだな」
そう言いながら、幌を角で破かないように屈みながら前の座席まで這い出す。
「あれ、どうされましたか、アデレード様?」
「通行証。これなら検問フリーパスできるはず」
そういって、コーチマンに通行証を見せる。
「これって……そう言うことですよね?」
「深くは知らない方が良い。もし興味があるなら私の下で働くか?」
「私は時々アルバイトしに行くので十分です。アデレード様」
我々の番となり、通行証を見せ、そのまま無言で街の門を通過することができた。
門からしばらく走ったところで、身分がばれてしまったので、自己紹介をしておく。
「そういえば私達の紹介をしていなかったね。私はアデレード。ウィロウウッドの町の長をやっている。今回はよろしく頼む」
「自分は忍って言います。こんな感じで訳ありのモノを運んで生計立ててます。こちらこそありがとうございます。」
「では、後ろに戻ってお嬢様方に報告してくるよ」
「こちらは私にお任せください」
また、車室に戻るべく、角で幌を破かないように幌の下を這いながら車室内に戻る。
車室内に戻ると、勇者ご一行と秘書が私の方を不安そうな顔してみてきたので、まず報告することにする。
「どうにか無事に通過できたよ」
「やっぱり、魔王様の通行証は最強ですね。私にも発行してくださいよ」
「お、エレノア は私の下で色々汚い仕事をする気に?」
「やっぱり、必要な時だけお借りします」
そんなこんなで、街を出るときにひと悶着あったが、無事街を出て、セントラルスパイアまで向かう。この馬車は馬2頭引きであり、行きのラディアントクレストまで乗ってきた馬車よりも速度が出る。
しかし、行きの馬車よりも快適性が無く、乗り心地はよくないので、寝る以外のことをするのは辛そうである。何ならベッドがあるだけで、寝るのも別に快適ではない。
走り始めてしばらくたったところで、今日のお夜食について決めていこうと思う。残念ながら今回は途中の街には寄れない日程としたため、地の物を生かしたおいしい夕ご飯……は選択肢には無いのである。
時間としては日が落ち始め、パーティーのメンバーは昼間の買い出しと町を出るときのゴタゴタで疲れたのか、イザベラはエレノアを抱きしめた状態で寝台で寝ていて、ジュリアナは自分の剣をがっちり抱えながら床に座って寝ており、華とセリーナは座席を起こしたまま、互いに寄りかかって寝てしまっている。つまり、全員寝ているということになる。
私は、次の休憩の相談をしに、前の幌の間から顔を出して、忍君に相談を持ち掛けた
「忍殿、次はどの辺りで休憩されるおつもりで?」
「あと30分くらい走ったら、馬の休憩兼ねて1時間ほど休憩入れますよ」
「忍殿は夕飯どうされます?我々の物と同じでよければ一緒にどうでしょう?」
「良いんですか?」
「もちろんですよ」
「ではお言葉に甘えることにします」
魔王×コーチマンの不思議な組み合わせで、休憩場所まで走っていく。残念ながら後ろに戻っても誰も起きていないので、前で忍君と会話でもしていた方が気もまぎれる。
「魔王様はこの仕事始められてどれくらいです?」
「今の場所に町らしいものを作り始めてからだから・・・・・・100年くらいかな?忍殿はこのビジネス始めて何年目くらいです?」
「俺は、今年で4年目かな?魔王様の100年には負けるけど、ようやくお客さんも付いていて来て、家族を食わして行けるだけ稼げるようになった」
「家族が居るのか……羨しい。私には家族と呼べるものが居ないので」
「では後ろで寝ている女性5人との関係は?」
「一人は私の秘書、残りは、一緒に仕事をしている冒険者かな?」
「そうなんですか、ところで、冒険者との付き合いは長いのですか?」
「彼女たちが私の所に押しかけてきたのが、約3か月前くらいだから、そんなには長くないよ。秘書とは20年になるかな?秘書の父の代からだからね」
「そうなんですね……ところで、1つ相談がありまして」
「いいよ、できることならなんでも協力するよ」
「あの、そこで寝ている僧侶の女の子いらっしゃるじゃないですか」
「ああ華のことか、戦士と抱き合ってねているな。その子がどうかしたか?」
「あの子って、付き合っている子とかいるのかな」
「さあ?私もその辺は良く知らないから、食事でも頂きながら聞いてみればいい」
「わかりました。魔王様、それとなく会話に混ぜてくださいね」
「約束はまもる。」
そんな下心の出ている会話をしていたら、あっという間に30分ほど経過していたらしく、馬の休憩場所に到着した。
まずは、寝ているメンバーを起こして、それから夕飯の準備をする。夕飯の方はどうせ寝るだけなので、軽いものにしておいた。
寝ているメンバーを、一人一人回って起こすことにする。
「勇者・・・、着きましたよ、起きてください」
「もう少し寝かして・・・・・・」
「ジュリアナ、朝ですよ、食事はどうされます?」
「食べたい…起きるから待ってて」
次に、イザベラ+エレノアで寝ている組み合わせだが……ここは普通に起きそう
「イザベラ、起きてください。外がもう真っ暗です」
イザベラが慌てて飛び起きた。つられてエレノアも起きると思いきや、こっちは寝続けた
「えっ……あ、ああ。魔王様酷いです。こんな手を使って起こすなんて」
「ごめんごめん、でも休憩場所に着いたから、食事取るなら今のうちだよ」
「それもそうですね、少し顔洗ってきます」
そして、エンジン始動直後で暖機運転前の状態の魔法使いも起きてきた
「あれ、イザベラちゃんは・・・・・・」
「イザベラなら川に顔洗いに行った。一緒に行く?」
「行ってくる」
「川に落ちないように」
「わかってる」
僧侶+戦士の組み合わせを起こそうと向かったところ。起きてきた勇者に止められた
「僧侶って寝起きがかなり悪くて大変だから、セリーナを起こして、華はセリーナに任せましょう」
「貴女がそこまで言うならそうしましょう」
勇者の手を掴みながら、馬車の高い荷台から慎重に勇者を下ろす。私は荷台から、夕食の準備に必要そうな箱を下に居る勇者に渡してゆく。そんなに数は無いが、缶詰瓶詰と水、後はパンがある上に燃費の悪そうなパーティーなので量が多い。
「ジュリアナ、イザベラちゃんとエレノアちゃんが戻ってきたら、中身を一緒に開けて」
「了解しました。とりあえず出せそうなものだけ出しておきますね」
「あれ、高そうなお酒と缶詰とお菓子が袋に入っていますがが、これも開けていいですか?」
勇者のその言葉を聞いて、私はあわてて叫んだ。
「それは置いておいて、後で使うやつだから」
その言葉を聞いて、慌てて元に戻す勇者。彼女は何も悪くない。説明していない私の責任。
残りの調理器具などを降ろし、一旦落ち着き、一人で火おこしをしていると、忍が私の元にやってきた。よっぽど暇そうにしているように見えるか、もしくは奴が暇のどちらかだろう。
「お疲れ様です。手伝いましょうか、アデレードさん」
「ありがとう。君はもう大丈夫かい?」
「馬に水をやって休憩させていたけど、馬の方はもう満足なようでね」
「で、ここに来た本当の理由は?」
「そりゃ、華さんのことだよ。彼女のことを少し知っておきたくてね」
「申し訳ないが、私は彼のことは良く知らない。何せ初めて会ったのは数か月前だからね。代わりに、あのエルフの魔法使いとか、女戦士に聞いてみた方が良いと思う。彼女たちなら何か知っているはず」
「ありがとう。」
「彼女たちの食事の準備手伝って来いよ」
「そうするよ」
火を起こして10分後、普通に準備していたジュリアナ、水浴びから戻ってきたイザベラとエレノア、後は起きてきたセリーナと華と忍がこっちに来た。缶詰とパン位しか買っていないはずだが、彼女たちの手にある皿には、バゲットに野菜と、恐らく缶詰の中身を入れたであろうと思われる、妙に美味しそうなサンドイッチが乗っていた。
「魔王様、準備できましたよ」
「みんなありがとう。とりあえず火は起こしておいたから、お茶でも飲みながら休憩しましょう」
薬缶を火にかけ、お茶を淹れながら、適当に他の人の話を聞いていた。私の一番の興味は忍君がちゃんと華君にアタックできるかどうかだが、今のところ上手くいっていないらしい。
他人のそんな話を聞き流していると、ジュリアナからあまり聞かれたくない質問が来てしまった。
「魔王様は何故あの時、私がお酒と缶詰を開けるのを止めたのですか?」
「それはね、これは貴方の御両親への挨拶の品だからだよ」
「そうなんですね。私も何か用意するべきだったかしら?」
「私は貴方の御両親知らないから、初めてのあいさつというのもあっての贈り物よ」
「そういうものなんですね」
とりあえずはぐらかしたが、どうにかして忍君をアシストしないと……賭けにはなるが、華さんに酒を飲ますか。そうと決まれば、今日の昼間に買った安酒をもって華さんの所に滑り込む。
運よく、華さんは一人隣を開けてで小さくなって夕飯を食べていた。
「あれ、華さん元気なさそうだけど、何かあった?」
「あ、魔王様。私は特に問題ありませんが……」
「いや、もしかして移動で疲れている?って思って聞いてみた。疲れているならこれ飲む?」
そういって、銘柄不明の蒸留酒に、今日の昼間に仕入れた薬を流しこんだ謎栄養ドリンクを渡す。
「魔王様、ありがとうございます。」
華さんはそういって、40°以上はあると思われる酒を一気に飲んだ。
「魔王様……これ、かなり強いですね」
「ああ、かなり強い酒に、滋養強壮とかに効く薬草を入れた奴だよ。」
強い酒をストレートで一気飲みした割には、彼女の顔色はあまり変化していないように見える。気になったので、瓶に残った分を少しだけ頂いてみたが、中身はかなり飲みやすいのに異様にアルコールが強い不思議な飲みものに変化していた。
そんなことをしていると、私と華さんが一緒に居るのに気付いた忍君がこちらに来た。
「アデレードさんは、華さんと何を話していたんですか?」
「華さん?彼女の元気がなかったからちょっと気になってね。ちょっとした栄養ドリンクを渡してた。
それよりお前は華さんに興味があるのでしょう?まずは自己紹介から」
「俺は、忍って言います。ラディアントクレストで馬車で運び屋やってます。よろしくお願いします。」
「華っていいます。クラスは僧侶で、このメンバーのなかではヒーラーやってます。よろしくお願いいたします。」
「やっぱり清楚で可愛らしくて、最高ですね。魔王様」
「ああ、可愛らしいし、世話も焼いてくれるし、非の打ち所がないよ。ところで忍君?何か言うことがあるでしょう?」
「華さん、次の町に着いたら一緒に夜ご飯でも行きませんかっ」
それを聞いた華さん、小さく笑いながら
「はい、行きたいです」
それを聞いた忍君、声にならない声で叫んで走り回っていました。
私達は頂いたサンドイッチと残った缶詰の中身を食べながら、華さんの本心を聞いてみる
「ところで華さん、何で初めてあった人からのデートのお誘い、すぐに受けたの?」
「よくいるんですよ、私にナンパしてくる男。でも魔王様紹介ならまあいいかと思って」
「不満だったら断り入れるけど、どうする?」
「あ、大丈夫です。こういうの慣れているので。あとあの男が妙にタイプだったので」
見た目に反して、華さんは肉食系だった。
そんなことをしていたら、2時間ほどが経過、次の町へ行くためにこの場を急いで片付け、馬車に乗り込んだ。夜通し走ることになるので、座席を寝台に転換し、我々は就寝の準備に入る。
ベッドは広くなっているが、何故か2人ペアで寝ることにしているようだ。イザベラ+エレノア、ジュリアナ+セリーナのペアと、華さんと私が入れ替わりで寝る。
で、華さんはというと、忍君の隣に座って、夜の街道を見ていた。傍目には良い雰囲気に見えるが、どうだろうか?そういったことを考えながら私は眠りについた。
目を覚ますと、勇者のご自宅があるブライアベリーまであと30分くらいの場所まで来ていた。
幌から顔を出して2人の様子をみてみると、華さんは、忍君に寄りかかりながら寝ており、忍君は幸せそうに前を向いて馬車を走らせていた。
そして30分後、ブライアベリーの町、勇者の実家のある地に着いた。
「これが勇者の実家のある街か……意外と発展しているな」
「魔王様、我々のウィロウウッドも負けていません」
「皆さんおはようございます。」
「おはよう。やっぱり固いベッドで寝ると体がバキバキになるね」
顔の良い運転手が、清楚系僧侶をナンパする……まあまあある光景だと思う
まああの僧侶、男なのですが、それはまた別の回で掘り下げます(意味深)
前回投稿からの期間が空いたので、一旦この辺で1話出しておこうと思う。




