魔王様。勇者のご実家にお邪魔するために長距離移動する_1レグ目
とうとうウィロウウッドの地にも本格的な冬がやってきた。魔王城は全館空調が入っているが、魔王様の部屋のサーモスタットはが壊れていてとにかく寒い。この気温、アデレード様は耐えられるが、秘書と最近来た勇者ご一行は耐えられない。いくらか温暖な勇者の実家に押しかけに行く計画を立てた魔王様ご一行。
そんな感じで、でっかい魔王様が勇者の実家に押しかけるまでの話。この話では途中の町までですけどね。ついでに勇者ご一行のうちの戦士は初登場
それは、地獄の血の海が凍結するほどの寒い日の話。
外界は吹雪に-10℉という感じで、到底人が活動できる環境ではない。
こんな天気だが、魔族で体温が高温な魔王様である私は、家から魔王城まで徒歩で来て、そしていつもの部屋に入る。そしていつものように壁のサーモスタットを75℉にセットし、自分の机に向かう。これが冬の間3か月のいつもの流れである。冬場は秘書イザベラの出勤が遅いのだ。
正直魔王様自身は低温でも問題ないが、秘書や客人、一部の魔族、あとは観葉植物や魔道具など物には辛い気温であるので、魔王城全体には空調が入っている。空調の入っていない公共の建物は魔王城以下ということになる?
ところは今日はどうも様子が異なる。私が出勤し、自分の机に荷物を広げ、壁にある空調のつまみを75℉へセットする。20分もすれば温かくなるのだが、今日はそうでもない気がする。
魔王様が出勤後、20分ほどして秘書も出勤なされた。一応分厚いコートを着て、頭には帽子をかぶった状態で入ってきた。コートと帽子は雪に覆われていて、外の寒さが良くわかる見た目になっている。
「おはようございます、魔王様。今日も寒いですね」
「おはよう、イザベラ。今日なんか家の扉が凍ってて開かなかった。」
「魔王様も苦労されてますね。てっきり何とかファイヤーってやって解決しているものだと」
「そんなことしないよ。家が燃えちゃうし。ところでイザベラはその耳、やっぱり寒いの?」
「そうなんですよ魔王様。見た目ほどもふもふじゃないので、吹雪とかだと凍りそうになるのです」
狼だから冬場も平気なのかと思っていたが、そうでもないらしい。
自分の席で、昨日やり残した仕事をやっつけていると、1点違和感を覚えた。何かインクが妙に硬くて、乾燥が悪い気がする……朝一だからペンの機嫌が悪いだけだろう……温まれば元に戻るはず。
秘書が出勤してから1時間。寒かったのか秘書から苦情の言葉が流れてきた
「アデレード様、部屋の温度上げません?」
「イザベラ、代わりに上げておいてくれ」
そういえば何か冷えていて、思考は冴えているのに体が重くて着いていかない感覚があった。私が出勤したときに暖房の設定を忘れていたのか。
それから1時間後、魔王様が適当な魔術の仕事も終えたころ、勇者ご一行が執務室に流れ込んできた。しかし、明らかに一人多い。
「おはようございます。魔王様。勇者のジュリアナです。」
「おーい魔王、エレノア様が遊びに来たぞ」
「魔王様、失礼します。」
「ジュリアナ、今日は妙に人が多いじゃないか、特にそこのごっつい奴、前に会ったか?」
「どうでしょう、私が以前ここに連れてきたことはないですが……」
「ジュリアナ、ではこの新しい者の紹介をしてくれ。」
「わかりました。彼女はうちの戦士の、セリーナです 」
「私は、この町の面倒を見ている魔王のアデレードだ。よろしく頼む。」
「で、私がこの魔王の面倒を見ている、秘書のイザベラです。いろんな手続きとかやっているから、その辺がわからなければ気軽に来ていいよ」
互いの自己紹介はを済ませたので、勇者共を応接用ソファーに座らせて、しょうもない仕事をしに下のフロアに行く。というか6人掛けソファーの両側埋まったの初めて。
したのフロアーの総務課とか市民課とかに行き、依頼の仕事を渡して、そこで少し立ち話をする。
「そういえば、最近勇者?が魔王様の部屋に出入りしてますな」
「そうだよ。勇者が来た時の対応だけど、お茶を出すのも半分は私、昼食も私、鍛錬の相手も半分は私。おかげで仕事が全く進まない」
「大変ですね。魔王様は体調には気を付けて」
「そうですね。お互いに気を付けましょう。市民課課長さん」
下から戻ってきたが、まったく温まっていない。再度サーモスタットを見に行くが、温度は82℉にセットされていた。
「魔王様、今日は妙に寒いですが、何かされました」
「あれ、イザベラがさっき温度設定上げてたよね?部屋温まらない?」
「いつもよりもずいぶんと冷えます。私種族的にそこまで寒いの強くないので、温かいところで仕事としたいです」
「と言ってもなぁ……」
秘書の愚痴を聞いていると、応接間の方から素晴らしい提案が上がってきた
「ねえ、秘書ちゃんと魔王様と私たちで、勇者の地元に行ってみたら。暖かくて過ごしやすいし、飯もおいしかったし」
「それいい案ですね、魔王様、すぐに準備して行きましょう」
「そんなこと言っても、イザベラも困るでしょ。ほらあれとか……」
「現地で処理できる体制を作るので大丈夫です、魔王様」
「じゃあ、行きますか。集合は明日の朝で」
何かよくわからないが、私たちは勇者のご実家にお邪魔することになったらしい。出発は1日後。
それから、私は急いで各フロアの管理者にしばらくいない旨を説明。今残っている急ぎ・急がない仕事両方をもって自室に戻る。
トランクに着替えと旅の荷物と主な武器の斧を入れ、ブリーフケースに仕事がらみの書類と道具を入れ準備完了。
後ろを見ると秘書は既に帰っていた。秘書は先に帰って家で準備するらしい。珍しく私が戸締りをして帰る流れか。
城の正面から街に出ると、5℉前後極寒の風が魔王様を襲う。
その一方、夜であるにもかかわらず、ある程度の人通りがあり、通りに活気があり、家の窓や食堂、酒場、宿の窓にから光が垂れ流しになっており、ここが山の中の小さな街であることを忘れてしまう。
「あれ、魔王様?ここで何を?」
ふと声がした方を向くと、勇者の所の魔法使いエレノアが立ってこちらを見ていた。
「日が落ちた後の、城の正面の町の雰囲気が好きでね」
「私が最初にこの街に来たときは、山の中の小さい町なのに、夜になっても明るいし、しかも大抵の物はそろっているのに驚きました。200年以上旅をしてきましたが、山の中にこれだけ活気のある街は見たことがありませんでした。」
「そうほめてくれると嬉しいよ。ここまで持ってくるのに50年以上かけたから。何なら家に寄っていく?昔の役場を再利用したものだから、エレノア1人泊めるくらいは余裕よ」
「いいんですか?じゃあ荷物取ってから戻って来るので、宿屋の下で待っててください」
「ああ、いいよ」
このまま宿屋に一緒に行き、エレノアには宿屋の隣の酒場で飲んでいることを伝えた。
いつもの癖で、酒場のカウンターで持ち帰りを2人分注文後、ついでにバーボンを飲んでいると、マスターが近寄ってきた
「魔王ちゃんも、ここで飲んでないでそろそろ恋人でも作れば?」
「どうしてそんなことを?マスター」
「俺の若いころを見ているようで、心配になってね。魔王ちゃんは強いけど、家族は必要だ」
「ああ、私も最近はそれを体感し始めた。起きると誰か居る感じが恋しい」
「その辺分かっているなら大丈夫そうだな。ほらこれ、注文の品」
「ありがとう。お代ここに置いていくよ」
立ち上がろうと後ろを向くと、準備をして、衣装もバッチリ決めたエレノアが立っていた。
「待たせてごめんなさい。魔王様、行きましょう」
「あ、ああ」
そういって、私はエレノアの手を引いた
「魔王様、先ほど話されていた店主の方とはどのような関係で?」
「あの酒場のマスターであると同時に、隣の宿の主人でもある。彼がここに来てからだから、40年近い関係かな」
「私、こういった関係に憧れます」
「長くいれば自然とできるよ」
そんな会話をしていると、魔王邸に到着した。いつも通り鍵を開け、住居として使っている2階に案内する。
「まあ狭いけど、入って」
「魔王様のお部屋って、想像していたよりもはるかにお洒落ですね」
「1階と2階の半分はもともと役場として使ってたから。家に改造したのは2階だけ。その時の名残で2階の居間は妙に洒落た内装が残ってしまってね。さあ、そこに座って。お茶だすから」
「ありがとうございます。魔王さんって、結構気が利くんですね」
「そこで褒めてもらったのは初めてだよ。」
そんな会話をしながら、釜戸に火を入れ、薬缶を載せる。
「コーヒーと紅茶があるけど、どっちにする?」
「魔王様にお任せします。」
お湯が沸くのを待っている間、少しエレノアのことを聞いてみることにした。
「ねえエレノア、寝るまでに少し時間あるし、お話ししない?」
耳の長い魔法使いは不思議な顔をしながら返事をした
「いいけれど、何か面白いことでもありましたか?」
「いやいや、大したことじゃない。エレノアが冒険者として勇者、いやジュリアナと一緒に世界を回っている理由」
「私、元すんでいた里の外に出て、自由にやってみたかった。彼女には拾ってもらってから、かなり大事にされているし、魔法も存分に放てる。冒険者って最高ね」
「そうだったのか……この街は好き?」
「大好きです。ここよりも大きくて見た目が華やかな街はいくらでもありますが、ここは街に色々な種類の人が住んでいて、種族とか出自に興味が無くて、……とにかく、自分そのものとして生きていけるのが好きです」
エレノアが話し終わると同時に、薬缶が沸騰して私を呼んだ。お茶を淹れて、エレノアの所に戻る。
「そんなにこの街を気に入ってもらえるとは嬉しいよ。ほらこれ、今日の夕飯」
そういって、お茶と酒場からテイクアウトしたものをエレノアに渡す
「魔王様、ありがとうございます。」
「良いって、今日は君たちのおかげで逃げられたのだから。」
寝る前の軽食を済ませると、魔法使いの彼女は寝るらしい
「魔王様って、寝る前は小食なんですね。てっきり分厚い肉とでっかい芋がゴロゴロしているような食事を想像していました」
「それだとオークかなにかだろう……一応繊細な最上級魔族なので」
「それもそうですね、ところで寝室は?」
寝室のベッドのシーツを新品に入れ替えながら、ソファーで寝る準備をするエレノアに返事をする。
「すまない、ベッドが一つしかないから、私はソファーで寝るよ。エレノアがベッド使ってくれ」
「それではあまりにも……私と一緒にベッドで寝たらだめですか?」
この発言に、少し心が動く……今日は寒いし、一緒に寝ても罰は当たらないはず
「では。一緒に寝ますか」
そのまま2人でキングサイズのベッドに滑り込む。互いの存在を感じるが、互いの睡眠の邪魔をしない絶妙な距離感。
夕飯とお茶の効果で温まったのか、暖房を入れることなく翌朝まで起きなかった。
窓から朝日が差し込み、窓の外に人の気配が感じられるようになった頃の朝。この時も2人は同じベッドに居た。
「おはようございます。アデレード」
「おはよう。エレノア。とりあえずお茶入れてくるから、水浴びするなら裏の小川で。タオルはその辺にかかってる」
「ありがとうございます。アデレード様」
私は厨房に向かい、昨日と同じように釜戸に火を入れ、薬缶を載せる。
この隙に、昨日準備しきれなかったものを鞄に入れ、行く準備を完了させる。
お湯が沸き、2人分の紅茶を準備する。丁度エレノアが髪を乾かしながら上がってきた。
「あ、お茶が入ってる。朝食はどうされるのですか?魔王様」
「いつも行く途中で買ってる。今回もその予定だった」
「じゃあ、私が先に買ってくるので、アデレード様も水浴びしてきたらどうです?」
「ではお言葉に甘えて行ってきます」
いつもとは打って変わって、1階に降りてからゆっくり川に飛び込んだ。真冬の川の水は冷たいが、朝の過熱した体を冷やすには効果的で、今日の仕事の活力と切れ味が戻ってくる感覚がある。
冷えた体から水滴を拭い、本当の自室に戻る。部屋に戻ると、エレノアが朝食片手に戻っていた。
「魔王様おかえりなさい。これ、ハムと野菜の入った巻いたやつ」
「エレノア、ありがとう」
頂いた朝食を食べながら、今日の予定について思い出す
「ところで、今日移動だけど、あとの3人は準備できてるの?」
「たぶんできていると思いますよ。勇者と戦士と同部屋ですが、昨日の夕方時点では準備で部屋の中が散らかっていたので」
「ならいいや」
朝食を頂き、水浴びも済み、準備も済んだ我々は、魔王城の1階で待つことにした。
秘書は妙に軽装なのに大荷物で到着しており、当然のように、その場に居ない勇者ご一行
「来てるのエレノアだけだね」
「逆に何で魔王様と勇者ご一行の魔法使いが一緒に居るのですか?」
「昨日、私の家で一緒に泊まったからな」
「ふ~ん、そうなんですね。私は誘われたことないのに。」
「毎日顔合わせてるし、何なら出張行ったら一緒に泊まってるし……」
秘書のご機嫌を取りながら30分ほど待つと、勇者、戦士、僧侶の残りの3人が現れた。1階ロビーの喫茶店はまだ開いていないので機嫌取りに使えなくて大変だった。
「「「遅れてすみませんでした。」」」
「遅い!私が居ないといつもこんな感じで、本当にすみません」
「まあまあ、みんな揃ったので行きましょう。イザベラ、手配した馬車は?」
「もう外で待ってますよ。皆さん行きましょう」
秘書の指さす先に行ってみると、妙に豪華な馬車が準備されていた。内装も応接室みたいで、車室もちゃんとしたものがついている。
「すごい豪華な馬車ですね、流石魔王様です。」
「私の身分でこんなものに乗っても良いのだろうか?」
「ねえ、魔王様は普段からこんなの乗って移動しているの?」
「いや、アデレードは私との探索での移動では、農家の荷車みたいなの使ってた。」
「おいおい、今回はこんなに豪華なの手配したの?」
「いえ、人数くらいは伝えましたが、それ以外は何も」
「まあ、いいか。じゃあ、みんな乗ってくれ」
「「「「「はーい」」」」」
広くて豪華な馬車にの前側の席に乗り込む。外観から想像するよりも床の絨毯は分厚く、椅子も設えの良いものという感じがする。何より、頭が天井に刺さらないのが良い。何といっても私以外の5人は小柄なので、とても広く感じる。
馬車に全員収まると、勇者の故郷に向けて走りだしてゆく。自分が飛べばせいぜい1時間、魔法使いのテレポートなら5秒程度で行ける距離を3日かけて移動する。それも自分の敵と同じ空間に収まった状態で。
いつも見慣れたウィロウウッドの小さい町中を抜けると、隣町までは何もない森深い山道を進んでゆく。周りが静かになったので、同乗者を見ていると、戦士以外全員寝てしまっていた。この様子じゃあ、次の休憩まで起きないパターンかな?
それからも、1時間ほど外の景色を見つつ、積んでいた本を読んでいるが、未だに戦士は目を大きく見開いた状態で前を見ている。よりにもよって、私の目の前の席に対面で座っているのでかなり気になる。
「そういえば、お主の名は何という?」
「私か?私の名はアデレードだ」
「私の名はセリーナ。よろしく頼む」
「そうか……こちらこそよろしくお願いします」
何か妙にピりついた空気にしてしまった……
その後も、1時間ほど仕事をしていたが、その間中ずっと、戦士に見つめられている。
「ねえセリーナ、私の顔を見つめているけど、何かあったか?」
「貴様が魔術をかけて、私以外を眠らせたのではないかと疑っている」
「そんなことしません。ついでに、私の左に座って寝ているのは私の秘書だ」
「貴様は味方すら手にかけるのか……許せん」
「違う。疲れてるかリラックスし過ぎで寝てるだけ。」
私が言い終わると同時に、セリーナは私に殴り掛かってきた。避けられないし、ガードしながら説得する。
「この狭い部屋で殴り掛かるのは止めて」
「白状するまで止めないからな」
「仕方ない、こんな手は使いたくはないが仕方ない」
体格差を生かして、女戦士に乗る形になり、そのまま手足を封じた。
こんなやり取りを繰り返していると、勇者ご一行も魔王の秘書も異常事態に気づいて目を覚ましたようである。
「止めてちょっと戦士何やっているの。」
「魔王様、人前で何をしているのですか?」
ナイスだ、ジュリアナ。これで戦士を止めてくれ
「知らないだろうが、魔王が私たちに魔術をかけていたのだぞ。」
「魔王そうなの?」
「ジュリアナ、真に受けないでくれ。どうせ昨日の夜遅くまで起きていたのだろう」
「確かに私たちみんな夜遅くまで起きていた……戦士以外。でもそれと何の関係が」
「関係しかないでしょう?夜遅くまで起きていたのに朝早く起きる、当然昼間は眠いから寝る。ただそれだけ」
「そういうものなのか……遅くまで起きていたことがないから知らなかった」
「今度、夜遅いときの楽しみ方を私とエレノアが教えてくれるから、少し覚えようか」
「あと、申し訳ないが、魔王は私の上から降りてほしい。正直とても重い」
この面倒な状況を切り抜けたが、未だに秘書は寝ているようだ……神経が太いのか、鈍感なのか。
こんなこともありましたが、次のまともな休憩場所である、シルバーブルックに着いたようです。
みんなが下りた後に、続いて私も降りると、我々の町よりも2周り位小さい村が着いたようです。
確かに馬車の中は快適でしたが、降りると周りに緑のある感じの空気が吸えるからか、生き物は外に出て空気を吸わないといけないようです。
「みなさん、休憩場所に着きましたよ。魔王様が昼ご飯は出すそうなので、皆さんついていってください」
「「「「はーい」」」」
「おい、この辺の店は知らないぞ」
とりあえず、目についた適当なレストランに入り、適当な感じの主菜、前菜とあとはパンと酒を注文しておく。
とりあえず、先ほど大誤解された戦士の誤解を解きに行こうと思う
戦士が座っている前の席を取って、会話の機会をうかがう。
僧侶は何故かうちの狼耳の秘書と会話が弾んでいるし、常識と能力を兼ね備えたエルフの魔法使いは、勇者にちょっかいを出し続けている。そして戦士は可愛いくも凛々しい勇者に声をかけたい。
先に、勇者で戦士を会話に引き込もう。
「ねえ勇者、最近って何か冒険者的なことやってるの?」
「以前と比べると本当に減りました。ウィロウウッドの住人が、みんな能力が高くて、本当に困った依頼か、激安の雑用しかないのですごい困ってます」
「ウィロウウッドの住人……個々人の戦闘能力が異常に高くて、下手しなくてもドラゴン位なら平気で狩ってくるから仕方ない。うちの警備兵が妙に少ない理由がこれ」
「あ、でも大工仕事とか畑仕事の手伝いなら金払いの良い依頼があるぞ。僧侶なら教会でバイトもお勧めだ」
この話を勇者と魔法使いは熱心に聞いていて、2人ともメモを取っていた。
「なあ魔王、もしかして畑仕事とかなら仕事あるのか?」
「ん?どうしたセリーナ、もしかしてそういった仕事に興味があるのか?」
「そうじゃないけど、金が必要な時にやってみるのはいいかなって」
「試しにやってみたらどうだ。慣れたら悪い物じゃないかもしれない。紹介できそうな人は何人かいるから聞いてみるか?」
「ありがとう。恩に着るよ」
戦士との関係も改善したところで、食事もおおよそ終わりとなってしまい、一緒に頼んだワインも空になっていた。
私は店員を呼び、支払いを済ませて、店を出る前に一つ聞いてみた。
「この街って、雑貨とかが買えるお店ありますかね?」
「う~ん、雑貨とかは定期的に回ってくる行商が売りに来るのしかない」
「ありがとうございます。」
特にこの街に用が無いようなので、秘書と僧侶と魔法使いと馬車に戻ることにする。
勇者と戦士は一緒にいたようで、1時間ほどしてから戻ってきた。
全員が揃うと、次の町に向けて馬車は転がり始めた。豪華な馬車で、魔法機関かなんかで暖房しているのでいい感じに暖かい、昼食後であることも手伝って、乗っている人は私以外全員寝ていた。
誰も起きておらず、丁度良かったため、窓を小さく開けて、適当に冬の鋭い空気を入れながら、溜まった仕事を吹き飛ばすように処理していった。
仕事がひと段落着き、外の風景を見ると、既に日が落ちて外の風景はよくわからない状態となっていた。一方窓から入って来る空気は幾分かマイルドなものとなっており、仕事で加熱した頭を冷やすには少し優しすぎるものであった。
そこから1時間ばかり、寝ている勇者ご一行と自分の秘書を突いて遊んでいたが、まだ起きる様子がない。が、次の町の光が見えてきた。私は前の窓からコーチマンに次の町までの時間を聞いていると、勇者が起きてきたようで私の横にねじ込んできた。
「魔王様、この先の町が見えますか?」
「ああ、よく見える。今日の移動はそこでおしまいだな」
「そうですね」
「君たちも疲れただろう。着いたら私が宿と食事は確保するからジュリアナはここで待っててくれ」
「私も一緒に行きます。」
「残った者が心配だ。ジュリアナはこっちを見ていてもらうと助かる」
「わかりました!」
窓から出していた顔を引っ込め、鞄の奥にある古い手帳から以前にお世話になった宿の名前を10軒ほどリストアップする。あと30分そこらで着くので、それまでに有望そうな宿は探しておかないと……6人が1度に泊まれる宿……できれば食堂がついていて……あとバーも欲しい……とりあえず着いたら走り回るか。
そんなことをしていたら、問題の町、いや都市と言っても良いくらいの場所である、ラディアントクレストに到着した。ここでこの馬車と馬車のコーチマンとはここでお別れである。とは言っても、宿が見つかるまでの間、この5人を置いておいてほしいという依頼はしている。
「では、宿を先に探してくるから、しばらくここで待ってて」
「わかりました」
流石は都市、人も商店の数も多い。最初の宿は……そもそも超高級ホテルで、6人も連れて泊まるところじゃなかった。
2番目の宿は……普通のビジネスホテル。これなら良さそうだ。空き部屋があるかを聞いてみよう
「すみません、今日って空き部屋ありますか」
「ありますよ。何名で宿泊になりますか」
「6人です」
「すみません、空き部屋が2つしかないもので……」
「ありがとうございます、他当たってみます」
3番目、4番目も空き無し。5番目に至っては、宿そのものが無くなっていた。
7番目は、超高級とは言わないが、結構子洒落た感じの宿で、私のお気に入りで何十回と行った宿である。当然聞いてみることにする。
「すみません、今日って空き部屋ありますか」
「ありますよ。あ、アデレード様。お久振りです。本日はどういった御用で?」
「仕事の仲間6人で移動しているのだが、明日までの宿を探してる。」
「6人……ツインの部屋が3つありましたので、いけます」
「ありがとうございます。支払いはこれで」
いつも通り銀貨を何十枚もクラークに渡す。
「いつもありがとうございます。お連れ様はすぐいらっしゃいます?」
「呼んでくるので、しばしお待ちを」
そう言うと、私は馬車まで戻った。
「魔王様、遅い」
「そうです、遅いです」
何故か秘書と勇者に責められているが、私の非ではないよね?
「ほらみんな、宿が決まったから、荷物持って移動するよ」
「「「「「はーい」」」」」
宿までの距離自体は3分程度で、すぐにホテルに着いた。
着くと、彼女達の口から以下のような感想が出てきた。
「こんな宿に泊まるの初めて」
「いつも泊まるところなんて、下手すると他人と雑魚寝よ。魔王様、ありがとうございます。」
「久しぶりに普通の宿に泊まれる。ありがとうございます。」
「?今日は野宿かと思っていたが」
とりあえず私の部屋の鍵を抜いて、秘書と自分の部屋に向かうつもりだったが、秘書は勇者の肩に手をまわし、自分の部屋に連れて行っていた
次は……と思っていたら、僧侶が戦士を連れて行ってしまった。
残ったのは、私と魔法使いという、昨日と同じメンバーになってしまった。
「今日も、同じ部屋ですね」
「そうですね。今回はベッドは2つあるので大丈夫です」
「とりあえず荷物置いたら、夕食行くか」
「嬉しいです。とっておきのお店があるのですよね」
「肉から魚、野菜に虫、酒もこの辺一帯から集まるから何でも食えるぞ」
「私は久しぶりに虫いきたいな」
「では、私もそこに行こうかな」
「魔王様、虫行ける人ですか?」
「最近食べないだけで、ムカデとか好きだよ」
「じゃあそこにしましょう」
そんな気軽な流れで、虫料理を出すお店に行くことに。
「ほかの人誘わなくていいの?」
「勇者ちゃんと僧侶ちゃんは普通だし、秘書は肉でしょう?、戦士は酒場で喧嘩売るのが好きだから誘わなかった」
虫料理を出すお店は、昔からやっている食堂形式だった。
席が空いているので、挨拶してそのまま中に入る。
席に着いたら、紙が置いてあるので注文したいものを書いて厨房に持っていくと、料理と引き換えてくれるという仕組み
酒は無いので、どこかから持ち込むのが定番とのこと。
「じゃあ、エレノアは何頼む?」
「私?とりあえずバッタの素揚げかな」
「私ムカデの串焼きと、あとはカエルのから揚げ」
こんな感じの料理とビールを2時間ほど煽り、宿に戻った
「さっきの、コオロギを煮込んだ奴美味しかったね」
「前に来た時には頼まなかったけど、エレノアの舌に合っていたようで良かったよ」
「もう今日はすることないから、もう寝るね」
「今回はベッドが2つあるから、別ので寝れる」
「魔王様と同じベッドに入ったらだめかしら?」
「魔王様のベッドと違って、しょぼいのでダメです。一緒に寝たいならくっつけて」
「はーい」
そう言うと、魔法使いはベッドをこちら側に寄せて、つなげてしまった
「準備も整ったのでおやすみなさい」
「おやすみなさい」
恋バナ一歩手前の話を書くって楽しい。別の作品作るときには魔王様がお持ち帰りした部分を引っ張ります
次回は、この宿を出て次の町までの移動を書きます




