私の砂が落ちるまで ③
ジェットコースターの出口のモニターに私達の姿が映っている。
冴さんは全身で「イヤーッ!!!」と叫んでいて、それがとても可愛かったので、私は飛んで行ってその写真を買い求めた。
「あの顔は私の黒歴史!」と憮然とする冴さんの腕を引っ張って
「これなら大丈夫でしょ!」
と、大観覧車に誘った。
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青空の中に、観覧車のカゴが浮かぶ。
「こんな空の日に、飛びたいなあ」
思わず口を付いて出てしまった。
「?」と優しい目で覗き込んでくれる冴さんに私は言葉を継いでごまかした。
「空を飛ぶ夢を見たことはありませんか? 私はこんな青い空の中、飛んでる夢を見たいかな…… あ、あれ、ちょうど真横のあのホテルに部屋取ってます。だから私は手ぶらなので~す」
私が示した方向に顔を寄せて外を眺める冴さん……
彼女の“繭”が日の光に溶けた気がした。
チャンスだ!!
「ハイ!告白タイムです!」
と、彼女の隣にお尻を捻じ込んだ。
「えっ?! 何?」
「二人っきりの観覧車は告白する場所なので~す」
「いやいや決まってないって」
と逃げようとする冴さんにお構いなしに私は手を挙げた。
「まず私から! 冴さんの嫌いなロリータファッション、実は私も好きではありません」
冴さんが関心を示したので私は彼女の肩に自分の肩をくっ付けた。
「あれは私にとって仮面と鎧です」
「なぜ?」と目で問い掛けてくれたので私はすぅーっと息を吸って一気に畳みかけた。
「3年前のコンパの席で、男達に襲われました! それなのに!!私は恥ずかしげもなく狂い、乱れてしまいました。
しかもそれをビデオに撮られました。
そのせいで刑事事件として立件されませんでした。
どうしようもない、ホントどうしようもない、女です。私は
だから仮面と鎧で、オトコを遠ざけてま~す!」
私の口調が余りにもあっけらかんとしていたからなのだろうか……
冴さんはしばし絶句した。
なので、私はスマホを取り出してカノジョに示した。
「嘘ではありません。そのビデオ、このスマホの中にもあります」
そう、私の“業”の象徴として私はこの“狂乱した我が身の姿”をスマホの中に置いていた。
どうあっても消せはしない……どうせ私が死んだ後も残る『デジタルタトゥー』なのだから。
冴さんを苦しめるのは本意では無いけれど、カノジョが“繭”の中に隠し持っている物をどうして知りたくて私は冴さんににじり寄る。
「次は冴さんの番ですよ」
「私は……無いよ」
「嘘です!丸わかりです」
「ホント無いったら!」
「嘘をつきとおすなら」と私は冴さんに体を押し当ててスマホを立ち上げる。
「私のビデオ、見せますよ!」
ここまでやって、やっと冴さんは観念した。
「分かったよ。私は……援交かな。果てしなくやった。怖い目にも何度かあったけど…… 一番酷かったのはどこかのジュニアの絡みでボコボコに殴られて……鼻も歯も折れて、あごも砕けて半年以上、顔がまん丸に腫れた事。
でもこういう相手の時にやるいつもの用心でビデオカメラを仕込んでおいたので、その一部始終をネタに顔もIDも別人の自分を手に入れた。
せっかくクリアになれるチャンスだったのに……いつの間にか自分の故郷のココに戻って来て、相変らずな事をしている」
ああ!! 可哀想な冴!
あの時、私が見た繭の切っ先の色は、やっぱり冴の血の色だったんだ!!
今夜私は冴を抱ける。
そう言った契約なのだから。
でも
それだけでは
カノジョの“業”までは抱く事ができない。
どうすればいいの?!!
私が破滅するのは構わない。
元々そのつもりなのだから
だけど冴は違う!!
どうすればカノジョを壊さずに“業”を抱え込めるのか??……
感情と考えが頭の中を目まぐるしく駆け巡り、私の目は汗を流す様に涙を零していた。
そんな私の様子に冴は痛みを感じている。
「無理に聞いて、ごめんなさい でも……」
私は冴の手を取り、“恋人繋ぎ”をした。
「私達って鏡みたい」
観覧車のカゴは頂上まで来て、青い空から降り注いでくる光をまんべんなく受け止めていた。
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観覧車から少し離れたところにはフードコートがあった。
先に観覧車を降りた私は振り返って冴におねだりをした。
「私、ソフトクリームが食べたい! でも全部だとお腹が冷えてしまいそうだから半分手伝って!」
冴が笑って肩を竦めたので、私はスキップしていってソフトクリームを手に入れた。
ベンチに座って待っている冴に
「お先にどうぞ」
とソフトクリームを近付け、冴が受け取る前に鼻先にチョン!とクリームをくっ付けた。
「こら!」
冗談交じりに叱る冴の鼻先を舌でペロッと舐めると、カノジョは「ひゃっ!」と顔を赤らめた。
「もう!」
叩く振りをする冴に私は更にいたずらを仕掛けた。
ソフトクリームを指に掬って私のくちびると冴のくちびるにチョンチョンとくっ付けた。
まだまだ陽射しが差す中……
時折、溶けて零れ落ちそうになるクリームをお互い舌で掬い取りながら、片っぽ恋人繋ぎの二人は……
熱い熱いキスを重ねた。